―Glamorous Show―
話がひと段落着いた所で食事が運ばれてきた。
ハーシーオススメの魚料理がテーブルに並ぶ。魚は川魚で味に癖も無く食べやすい。
味付けはシンプルに塩と隠し味に数種類のハーブを使っているみたいで、あまり魚を食べないというセレーナも食べやすいと言っていた。どうやら気に入ったらしい。
食事が終わると街の中央にある巨大樹エーテルツリーへと案内された。
「ここはエーテルツリーと呼ばれる巨大樹で、この街のシンボルとなっている大樹にゃ。普段は外部の人間が中に入る事は出来ないにゃ」
ツリーの入り口にはこれまた巨大な扉があり、俺達が近づくと扉が開かれハーシーはそのまま俺達を連れてゲートをくぐる。
「わあ、大きすぎて上が見えません!」
「ワン!」
「近くで見ると建物になっている様子が鮮明になって、とても木とは思えませんね」
近寄る際も大きすぎて遠近感が掴めなかったが、近寄ってみると更に良く分からない大きさである事がわかる。自分でも何を言っているか分からないが、至近距離でみると巨大樹というより巨大な壁にしか見えない。
「ハーシーさん、何故この木だけこんなに巨大に? この木は神樹のような物なのですか?」
「特別と言えば特別だがこの木はそう言った神聖なモノではないにゃ。これはエーテルガイザーの影響を受けた木なんだにゃ」
「ああ! そう言う事か」
「我は知っていたぞ」
スミレを覗いて全員が納得した。
間欠泉の影響を受けた木が巨大になり、その木を目印に人が集まり、やがて街が出来たという事らしい。湖はこの木が巨大化する際に地形の変動があって出来た副産物という事らしい。確かに森の中に魔力間欠泉がふき出せばその場所に有った木々は色濃く影響を受ける。クラーケンを思い出せばわかるが、普通のイカがあれほど巨大になるのだから、元々巨大な木がその影響を受ければこうなるのは必然だ。
「間欠泉の影響という事は、ここにクリスタルが?」
「そう言う事にゃ。クリスタルに案内するにゃ」
彼女は巨大樹に作られた建物の扉の一つを目指して歩いて行く。扉の前にはやはり兵士達が居て、ハーシーに敬礼をすると扉を開けた。
「この先にゃ」
扉の先は真っすぐな通路になっていて、明かりは灯されているが先は見えない。
長い通路の先に螺旋階段があり、そこを降りた先には広場があり再度扉と兵士の姿が見える。
「パヴァーヌのクリスタルだにゃ」
「綺麗ですね・・・・・・」
扉の先には神々しい光を放っているクリスタルが見える。
この場所にはどこにも照明は見当たらないのだが、まるでクリスタル自体が光を放っているかのように見えた。
(他のクリスタルはここまでは輝いていなかったと思うが、パヴァーヌのクリスタルは特殊なのだろうか。あとでアンダンテに聞いてみよう)
俺達はパヴァーヌのクリスタルに触れてゲートを解放した。
「ちなみにヒューム族でここのゲートを使える人間は限られているにゃ。これもお師匠様のおかげにゃ。感謝すると良いにゃ」
彼女の話だと、ここのゲートは場所の関係もあって自国の冒険者にも開放していないらしい。
許可されているのは各国の政府関係者と他一部の者だけとのこと。冒険者や旅人がパヴァーヌに来るには自分の足で来るしかないという事だ。それでもこの街が大きく成長したのはやはりここに魅力があるからなのだろう。確かにこの街の景色は圧巻だ。長旅をしてでも来る価値はあると思う。王都ではないのにこれだけ発展している森林都市も珍しいのではだろうか。ここと比べてしまうのも気の毒だが、ローランドがいかに辺境かがわかる。
「さて、この街でやる事はこれで終わったにゃ。明日の朝、出発するから今日は十分に休むと良いにゃ」
クリスタルを解放したあと街に出てから一旦ハーシーと別れた。明日、依頼の場所へ案内すると言っていたが依頼が何かを聞くのを忘れた。
「さてここからは自由時間で良いですかね? まだ十四時前ですし、街を見て回るのには十分時間がありますね」
「惣一郎、ここには服屋があるらしいのでな、良かったら皆で見て回りたいのだがお主も付き合え」
半ば強引にスミレに連れられて服屋を巡る事となった。
「まずはここから入るぞ」
この街のショッピングスポット的な通りに来ると、オシャレな店が立ち並ぶ。石造りの建物にガラス張りのショーウィンドウ。中には木製のマネキンがあり、お店自慢の服や装飾品を身に着けて様々なポーズで立ち並んでいる。スミレはその通りで目についた店に片っ端から入っていくつもりらしい。【キューブ】があるから荷物持ちにはならなさそうだが今日は彼女達が満足するまで買い物に付き合う事になるだろう。
(ま、たまには良いか)
中に入るとエルフの店員と挨拶を交わし、彼女達は服を選び始める。
「ねえ、ダリアこれなんか良いんじゃない?」
「ダリアさん、これも可愛いですよ!」
「こういうのもあるぞ。着てみろ」
「お、おい、お前等?!」
三人が一斉にダリアに似合う服を見繕って彼女の下へと服を持って行き、そのまま試着室へとダリアを連れて行った。
(そう言えば今日はダリアが大人しかったな。落ち込んでいたようには見えなかったが、何かあったのだろうか? これは彼女を元気づける為の買い物かな? だとしたら俺も協力してあげないとな)
以前スミレに言われていた事を思い出し、俺もダリアに服を選ぶために店の中を見て周った。
(ダリアに似合いそうな服か・・・・・・)
とはいえ女性用のオシャレ服店にはなじみのないオジサンは勝手がわからずに狼狽える。
(これはドレスか、普段着では着れないな。ズボンだといつもと変わらない服装だな。となるとやはりスカート一択か。スカートと言ってもワンピースも含めるとかなりの数があるな。フワフワしてそうなのからレース一杯のとか多すぎてわからん)
マネキンを見たりルーナの相手をしてくれているエルフの店員を見たりしてイメージしていると、試着室から声が聞こえて来た。
「じゃじゃーん! ソウイチロウ様! 私が選んだダリアさんのこの服どうですか!?」
一番手で着替えた服はセレーナのチョイスだったらしい。シンプルだが可愛らしい水色のワンピースに着替えたダリアが恥ずかしそうに顔を隠しながらメリッサとセレーナに押し出されるように出て来た。
「オ、オレには似合わねえよ・・・・・・」
ダリアは恥ずかしさを我慢しながら声を絞り出す。
「そんなこと無いですよ! ダリアさん可愛いです! ねえ、ソウイチロウ様も可愛いと思いますよね?!」
大きい声で可愛いを連呼するセレーナの口をふさぐ仕草をするダリアの慌てっぷりが微笑ましい。
俺はセレーナの問いかけに即答する。
「ああ、可愛いぞダリア! ワンピース姿も良いじゃないか」
あくまでも自然にナチュラルに平然とした態度で、かつ笑顔で答えて見せた。
「なっ?!・・・・・・」
ダリアは顔を隠しているが日焼けした肌が耳まで赤いのが分かる。
ダリアは後ろを向いて試着室へと逃げ込むように走って行った。その後を他三名が追うように入っていく。その際に三人は俺を見て『グッド!』と笑顔で親指を立てて見せた。みんな楽しそうで何よりだ。
俺は再び彼女の為の服を選ぶ。
「じゃーん! ソウイチロウ様! 次は私の選んだお洋服です! この服も似合ってて可愛くないですか?」
「セレーナ、わ、わかったから、押すなって!」
「はやく見て貰いましょう!」
ダリアがセレーナに押されて試着室から出てくる。今度のダリアはドレス姿だった。
試着室から押し出された彼女は花柄のレースをあしらった綺麗なミントグリーンのドレスを着ている。
「おお!? これは!!」
「うぅっ・・・・・・恥ずかしぃ・・・・・・」
何をどうして良いか分からない彼女は俯きながら頭から湯気が出そうな程の赤面している。
本人以外は凄く盛り上がっているが、ダリアのライフは既にゼロだった。
「凄く良いと思う!」
「ですよね! ほら! だから大丈夫だって言ったじゃん!」
メリッサはダリアの背中から顔を出して彼女に話しかける。
「そのドレスも凄く似合ってるよ!」
ダリアを見つめながら彼女を褒めると、彼女がこっちを見る。一瞬目が合った。
「あ、あ、あ・・・・・・」
ダリアは声が詰まって言葉を発せない様子だが彼女の言いたい言葉は何となく雰囲気でわかる。
「それでは次の試着にゆくぞ」
スミレのエスコートでダリアはゆっくりと試着室へと戻って行く。
戻り際に三人から再度『グッド!』が飛んできた。満面の笑みだった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
11月も頑張って投稿したいと思います。
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少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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