―ハーシー―
「待っていたにゃ」
目の前にいる美少女は腰近くまでの長い髪をツインテ―ルにしているエルフの女性は見た目は若く、白いハーフローブにひざ丈のスカート、黒いタイツのようなものと革のブーツを履いている。
「えーっと、初めまして、もしかしてケットシー様の使いの方ですか?」
語尾から想像するに容易いが、念の為確認する。
ケットシーは最深部からは出ないと聞いていたし、まさか本人が来る筈も無いだろう。
「そう、師匠様から言われてきたにゃ。他の仲間は宿の方?」
彼女は正面にあるギルド宿の方向を見ながら問いかける。
「ええ、そうです。今日はここで一泊する予定です」
「ワン!」
「ルーナ様、ご紹介が遅れまして申し訳ありませんにゃ。わたくし、ケットシー様の弟子のハーシーと申します。師匠の下へ皆様を丁重にお連れするようにと言われて来ましたにゃ。宜しくお願い致しますにゃ」
「ワン!」
ハーシーと名乗る彼女はルーナの前に跪いて頭を下げて丁重に挨拶を述べた。
ルーナは彼女の挨拶が終わると顔を舐め回してべろべろにしていた。
「ル、ナさま、そ、くら、でごかんべ、くだ、いにゃ」
ルーナの歓迎を防ごうともせず全て受け止める彼女。何を言っているかは分からないが何が言いたいかは分かる。そろそろ助け船を出さないと彼女の綺麗な顔と髪が涎で酷い事になってしまうだろう。
「ルーナ、ストップ」
ハーシーとの間に割って入る。ルーナは既にサンシーカーの半分位の大きさまで育っているので行動を止めるのも一苦労だ。
「ふう、助かりましたにゃ」
よだれでベロベロになったハーシーは特に顔や髪を直すでもなくそのまま立ち上がると話を続ける。
「お師匠様からの依頼で少し寄り道をしますにゃ。既にギルドの依頼を受けておりますので、そちらにお付き合いくださいませにゃ」
「え? 既に依頼を受けているのですか?」
「はい。にゃ」
彼女の行動に驚きつつ、ふと受付の方を見ると受付嬢が見当たらない。受付どころか周りを見ても人が居なかった。
「あれ、ギルドの中に私たち以外居ませんね」
「お師匠様の名前を他のエルフに聞かれると面倒く・・・騒がれるので事前に人払いをしておきましたにゃ」
ハーシーは途中何かを言い直していたが、ここに来るまでに出会ったエルフ達のルーナに対する反応を思い出すと、この国の信仰の対象であるケットシーの名前を聞くだけで大そうな騒ぎになるのだろう。あまり名前を出さないように注意しておこう。それにしても建物内の人払いを出来るなんて聖霊の弟子というのは凄い権力を持っているのにも驚いた。
「街の中を案内するから全員連れてくると良いにゃ」
ギルドを出て宿へと向かうと丁度メンバー全員が出入り口から外へと出てくる所だった。
「惣一郎、宿は取れたぞ。そっちは何か良い依頼はあったか?」
珍しくスミレが先頭を歩いてくる。
「お疲れ様です。依頼の事も兼ねて紹介したい方が居るので一度部屋へ行きましょう」
隣を歩くハーシーを指し示すように彼女に手の平を向けると、彼女は片手を胸に当てて軽く一礼をする。そのまま全員で部屋に入るとハーシーをソファーに座らせ、他は適当な場所へ腰かけてハーシーの紹介を始めた。
「こちらは先程ギルドでお会いしたハーシーさんです。彼女はケットシー様のお弟子さんだそうです」
「はじめまして、ハーシーと言いますにゃ。お師匠様の下へ皆さまを案内してくるように言われましたにゃん」
ハーシーは立ちあがり両手を猫のような手つきで顔の前に出し、片膝を曲げて足を後ろへ突き出すポーズを取る。みんなの方を向いて独特な挨拶をするハーシーを見てメリッサとセレーナが目を輝かせている。
「可愛い・・・・・・」
「可愛いです・・・・・・」
「なんだろう、このメイド喫茶感は」
「惣一郎はこういうのが好きなのか? 我もこういう仕草を取った方が良いか?」
「しなくて良いです」
スミレもハーシーの仕草を真似ようとしたので即座に止めた。
「お師匠様がこうやって自己紹介しろと言ったのでやりましたにゃ。気に入って頂けたら嬉しいにゃ」
ハーシーは特に照れる様子もなく、出会った時から表情もあまり変わらない。感情の見えづらい子なのだろう。見た目が幼く見えるが確実に俺よりは年上だとは思う。エルフの年齢わかりにくい。やり辛い。
「それでハーシー、ここからは我らと一緒に行動するのか?」
「お初にお目にかかりますにゃ。ファフニール様。お師匠様がご帰還を喜んでいましたにゃ。『よくぞ戻ってくれたにゃ』と仰られていましたにゃ。それと、惣一郎様にも『ありがとにゃ』と伝えて欲しいと言われて来ましたにゃ」
「そうか。ご苦労。所でハーシー、お主はなぜケットシーのように話す?」
俺も突っ込みたかった所をスミレが代わりに突っ込んでくれた。やはり龍でも違和感は感じるみたいだ。
「はい、お師匠様からこの様に話せと言われましたにゃ」
話し方も指導されるというのはなんとも不憫な話である。スミレはため息をついている。
「やれやれ、聖霊が弟子を取るなど人の真似事をした挙句に面白半分で何をさせているのだまったく。ハーシー、お主も嫌なら断って良いんだぞ。奴は面白がってやらせているだけなのだからな」
スミレがハーシーに語り掛けると彼女は少しだけ表情を緩ませて返答をする。
「スミレ様、ありがとうございますにゃ。ですが私も楽しんで居ますので大丈夫ですにゃ」
どうやら彼女に不満は無いらしい。きっと今の言葉は本心なのだろう。本人の表情や話し方からも楽しんでいるのが伝わってくる。あまり表情を読み取れない子だが、素直な良い子だというのはわかった気がする。
「師弟愛ですね!」
「ワン!」
セレーナがなにやら感動している。パーティーメンバーの中で唯一師匠を持つ彼女にはハーシーの気持ちがわかるのかもしれない。
そのあとこちらのパーティーメンバー紹介をしてからハーシーの案内でパヴァーヌの街中を見て回った。
「そろそろお昼なのであのお店でご飯を食べましょうにゃ」
彼女の目指した先には【湖上の煙亭】というレストランがあった。
「湖上の煙か、どこかで聞いた事のある名前だな」
「お外の席なら湖を一望出来るんですね!」
「ワン!」
「セレーナちゃんがお外の席が気に入ったみたいなのですが、みなさん席はここでも良いですか?」
かく言うメリッサも外の席が気に入ったみたいだったので、いわゆるテラス席で食事をとる事にした。
「ハーシーさんはここのお店は良く来るのですか?」
席に着くとメリッサがハーシーにオススメ料理を聞こうと話のきっかけに問いかける。
「三回来ましたにゃ」
ハーシーは指を三本立ててちょっとだけドヤ顔を見せながら答える。
「わあ! 三回も! では何かオススメの料理はありますか?」
メリッサもノリを合わせて驚きながら彼女のオススメ料理を聞く。
「魚の焼いたやつと魚のスープが美味しかったにゃ」
「魚好きのエルフとは珍しいな」
スミレが驚く。
「お師匠様にも言われましたにゃ。エルフは魚が苦手で殆ど口にしないのにお前は珍しいと」
「へーそうなんですね。ちなみに私の国では魚は色々な調理法で食べますよ」
好んで魚を食す民族である日本人としては焼き魚から刺身やら寿司やら南蛮漬けまで知り得る限りの料理をハーシーに教えてあげると、彼女は身を乗り出すように俺の話を聞いていた。
表情は変わらなかったが、口の端からちょっとだけ涎が出て居た。
「ちなみになんですけどハーシーさんの好きじゃない食べものってあるんですか?」
話の中でふと頭に浮かんだことを聞いてみた。
「・・・・・・そのへんの草」
真顔だった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
11月も頑張って投稿したいと思います。
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