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―渓谷の奇病④―

 体長二メートル程はあるだろう長身、深いスリットのあるタイトな赤いドレスに白い肌、線は細いが肉付きの良い体に長い黒髪の女。手には房の付いた扇を持っている。


(黒髪・・・・・・魔族かワンダラーか。いずれにせよこの世界の人間では無いな)


「ようやくお出ましだ。惣一郎油断するな」


「ああ、分かってる」


 周りのアンデッド達に注意しながら武器を構えて陣形を組みなおす。


「みんな、こっちに!」


「「「はい!」」」

「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」


 ルーナのハウリングバインドを合図に敵を蹴散らしつつ陣形を組み直す。

 この部屋の広さか魔法陣の所為か、ハウリングの効果は強くない。

 

 全員が集まりつつあるので時間稼ぎも含め話しかけて会話をするタイプか確かめてみる。

「この付近の村人達に何かしているのはお前か?」


「冒険者風情が・・・・・・」


 どうやらあまり会話が好きじゃないらしい。手をひらひらさせる仕草を取り、自身の周囲のアンデッドをけしかけて来た。


 俺は杖に持ち替えて頭の中で詠唱とイメージを終えて魔法を放つ。


(我、放つは永久(とわ)(さえ)


天牢氷獄(アイスプリズン)


 パキ! パキパキ! パキン!


 アンデッドのボスらしき黒髪の女ごと魔法で氷漬けにしようと広範囲の氷魔法で敵の一団を氷漬けにする。


「女の姿が無い。避けられたか」


「この程度か? 人間」

 黒髪の女は目の前一面に出来上がった氷塊の上に立ち、こちらを見下ろしている。


 女の方から話しかけてきたのでチャンスと思い、素性を探るべく話しかける。


「いや、小手調べだ。所でお嬢さん、名前をお伺いしても宜しいですか?」


「ソウイチロウさん何を?」

 ダリアが戸惑うがスミレがそれを制した。


「礼儀を知らぬ愚か者に名乗る名は無い」


 女は見下したままの姿勢で腕を組んでいる。

 いきなりアンデッドを仕掛けておいて礼儀も何もないだろうに。そう思いつつも敵の正体を探るべく会話を試みる。


「これは失礼、私は惣一郎と言います。貴女のお名前をお伺い出来ますか?」


「下賤の者に名乗る名は無い」

 ツンデレか? 本当は言いたいくせに素直じゃないな。まあいい、会話が成立するだけどこかのフォルス(ワンダラー)とは違う。ナンパをした事は無いが、これも経験だ。頑張ろう。一瞬だがアイツの事が頭に浮かんだので奴の話題を振ってみよう。何か出るかもしれない。


「これは手厳しい。お嬢様はご立腹ですかね。所でご友人のフォルスはお元気ですか?」


「!?」

 フォルスの名前を口に出すと女の眉がピクリと動き、こちらを睨んで来た。どうやら話題が気に入ったらしい。面倒な奴だがこちらの役に立つ事があった。勿論、奴に感謝などしないが。


「貴様が奴の人形と戯れていた人間か」


「奴と知り合いなら、いい加減かまってちゃんはやめてくれ。こっちはうんざりしてる。と伝えて欲しいんですが」

 伝言してくれるとは思っていないが、共通の話題の方が盛り上がる筈と、正直に思った事をそのまま口にしてみた。

 

「アハハハ! こんなふざけた人間に邪魔されるとは、奴も憐れよ」


 やったぞ、笑いが取れた! つかみはOKだ。この調子で仲良くなって何とかデートの約束を取り付けたい。いや、今からデートに誘った方が良いのか? ・・・・・・違うな。


 ふう、焦るな、まだ名前を聞いていない。名を聞いてもう少し親交を深めなければ。取り合えず奴の話題を続けよう。


「お嬢さんは彼のお仲間の方という認識で宜しいですかね?」


 いかん、会話が社会人ぽい。ナンパの経験値が足りなさすぎる。若い頃にもっと遊んでおくべきだった。

 自分の未熟さを嘆きながら彼女の答えを待つ。


「奴等とは目的が共通しているだけで仲間では無い。一緒に扱われるのは不愉快だ」


「ですよね~。失礼しました」

 まずいぞ、不快感を与えてしまった。なんとか機嫌を取らないと。


「所で、スタイルも良く、お美しいお嬢さんの事は何とお呼びしたら宜しいでしょうか?」

 自分でもドン引きするくらいセンスの無いセリフだった。


「え!? ホント!? 私キレイ?」 

 黒髪の女は赤らめた頬に手を当ててこちらをチラ見してくる。


(何故か喜ばれた―! こんなベタな褒め方で良いの? ちょろ過ぎない? キャバ嬢さんの接客対応受けてる訳じゃないよね?)


 諦めた矢先に、望んでいた方向の反応を得られた事を驚き、自身も動揺し語彙力を失った返事をする。


「あ、え、はい。凄く可愛いです」

(なんだそれ!? 童貞か! 心の籠っていないのがバレバレだ。今度こそ終わった・・・・・・)


 落胆しながら氷塊の上の彼女を見上げると小刻みに震えながら両手で完全に顔を覆っていた。


(あー、これはダメなやつだな。よし、攻撃に備えておこう)


 杖を黒鉄1号に持ち替えようと思った時、黒髪の女が何かをつぶやいたのが聞こえた。


「・・・・・・ン」


 声が小さく聞き取れなかったので聞き返す。


「あの、すいません、聞こえませんでした。もう一度良いですか?」


「・・・・・・キュリアン」

 彼女は顔を覆った両手を少しずらし、口元をあらわにして自分の名前を告げる。


「名前がキュリアンという事ですかね?」


「はい」


 ようやく彼女の名前が判明した。キュリアンと名乗る彼女はフォルスの同類のワンダラーで、会話の内容から仲間も複数いる事が判明した。なにやら好感度は上がったらしく、彼女はアンデッド達の詰まった氷塊の上でモジモジしている。


 さて、どうしよう、彼女の反応を見るに、あんな語彙力もロマンの欠片も無い言葉で好意を持たれてしまった・・・・・・。取り合えずは今回の目的である奇病の解決を図りながら、折角上がった好感度を利用してワンチャン、仲間になって貰えないかという方向性で交渉を試みるか。

 

「あの、キュリアンさんはこの付近の村に何か仕掛けをしていたんですよね? もし良かったらその辺りの話を聞きたいのですが」


 やんわりと当り障りのない言葉に変えて再度問いかけると、キュリアンは氷塊から飛び降りて地面に立ち、こちらへと静かに歩いてくる。長身のキュリアンは近寄るとその大きさが良く分かる。


 自分の身長が百七十五センチなので、彼女はほぼ頭一つ分大きい。目の前に彼女のおっぱいがある。

 余談だがそっちも大きい。ただ、長身の女性はその事がコンプレックスになっている事が多い。

 ()()の話題には()()に対応したい。


「はい、エルフ達に死なない程度に自然魔力を吸収させ、その上澄みを私が頂いていました」

 彼女は頬を赤らめて俺と目線を合わせず、時折こちらをチラ見しながら答える。

 反応は悪くない。今のうちに聞き出せるだけ聞き出しておこう。


 次は彼女の能力について尋ねた。

 

「なるほど、その装置がこの上下に展開させる綺麗な魔法陣ですね。キュリアンさんの能力ですか?」


「え?、キレイですか? そんな、嬉しい・・・・・・」


 どうやらキュリアンは容姿等を褒められるのに弱いらしい。綺麗とか美しいとか可愛いとかに反応しているのが分かったのでその線で褒めまくろう。まあ実際に美人だとは思う。出来れば争わずに仲良くなりたい。揉め事は好きじゃないし。


「キュリアンさんの美しさの秘訣をお聞きしても良いですか?」


「え? 秘訣?・・・・・・そうね。エルフ達の持つ綺麗な魔力を吸い上げる事かしら。それも毎日、沢山、浴びる程よ」


 魔力を浴びる。言葉の意味は分からないが、とにかくすごい秘訣だ。

 彼女はこの魔法陣を使って周囲の村人を死なない程度に魔力過多の状態を維持して、彼等の中に集められた魔力を吸収しているといった所か。それにしても魔力に綺麗とか汚いとかあるのだろうか?


「この国のエルフの魔力は人間のモノとは違ってとても美しいの。この透き通る色の魔力が分かるかしら? ほら」


 彼女はそう言うと右手を上に掲げ、魔法陣を起動させる。

 赤黒く光る魔法陣から白く光る液体のようなモノがキュリアンに向かって降り注ぐ。

 これが彼女の言う魔力なのだろう。


「はぁぁぁぁぁん!」


 キュリアンは恍惚とした表情を浮かべながら降り注ぐ半透明の白い液体のような魔力を全身で浴びている。


「はぁぁぁ・・・・・・気持ちイイ・・・・・・フフフ。アナタも一緒に浴びましょうよ・・・・・・」

 キュリアンは俺に手を差し伸べて一緒に魔力を浴びようと誘ってくる。彼女には申し訳ないが、色々な想像を掻き立てられた結果、無理でした。


「いえ、私は大丈夫です」


「そうなの? 気持ちイイのに・・・・・・」

 キュリアンは体中にまとわりついている白い液体のような魔力を恍惚の表情のまま腕や胸元に塗り込んでいる。


「はぁ・・・・・・気持ち良かった」


 一人盛り上がっているキュリアンを横目に今まで傍観していたうちの女子達がその光景を見てドン引きしていた。


「あれが魔力なのか?スライムを浴びてるみたいでなんか気持ち悪いな」


「あまり健康的には見えませんね・・・・・・」


「良く分かりませんが、すこし寒気が」


(クァァァ・・・・・・)ルーナはあくびをしている。


「惣一郎、とにかく魔力を吸い取るのをやめさせねばな」


「はい」

 スミレの指示を受けて再び彼女に交渉してみる。


「あの、キュリアンさん。一つご相談があるのですが」

 地球で身に着けた営業スマイルを使い、にこやかに相談を持ち掛けると、彼女の様子が少しおかしい


「・・・・・・あの女はダレ?」

 表情から感情が消えている。どういう事だろう。先程まであんなに楽しそうだったのに。

 キュリアンの言うあの女というのはスミレの事だろうか。言わなくても分かるだろうが、取り合えずあの子達は仲間という事は伝えておこうと語り掛けた。


「スミレも後ろの子達も同様に仲間です」


「私の事、裏切ったわね・・・・・・」

 

「え?」


「浮気・・・・・・許さない」


「浮気って何ですか?」


 彼女が何を言っているか良く分からないが、なにやら物凄い勘違いをしている事だけは分かった。


(彼女はツンデレではなくヤンデレの方だったか。ハハハ・・・・・・)


「よし、修羅場だ」




いつもお読み頂き、ありがとうございます。


11月も頑張って投稿したいと思います。


いつも読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!


少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。

これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。


読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。


誤字報告なども頂ければ幸いです。


今月も頑張ります!

宜しくお願いします!

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