―新たなる旅へ―
パカーン!
良く晴れた日、惣一郎は斧で薪を割っている。横には大量に割れた薪と、薪割り眺めている老婆が居る。
「やはり若いもんは勢いが違うのう。スパスパ割りおるわい。ふぇっふぇっふぇ」
老婆は杖を立てたまま切り株に座り、笑って居る。
俺はひたすら斧を振っている。
薪割りなど初めてだが、強化魔法のお陰で疲れは感じない。
このペースなら今日中に冬を越せる分の薪は確保できそうだ。
「今日中に予定数は確保出来そうですね」
――さかのぼること数時間前――
ファフニールに乗って順調に緑の国へ向かっている途中、女性陣三人がほぼ同時に青ざめて腹痛を訴えたので、野営出来る場所を探して着陸し、天幕を張って休んでいた。
「まさか3人同時に来るとはな・・・・・・」
「いつも一緒に行動しているとこれの周期も同じになるのでしょうかね・・・・・・」
「・・・・・・うう、すいませんソウイチロウ様」
三人共痛みの原因は女性特有の腹痛である。
「気にしないでゆっくり休んで下さい。無理をしても良い事はありませんから」
俺は天幕を張って湯を沸かし、痛み止めの薬湯を作って彼女達に振舞っている。
今回、天幕は軍仕様の一度に多人数が寝泊り出来る大きな物を使っている。ミハエルからの差し入れだった。
レミが俺達にと彼に持たせてくれたらしい。気が利く子だ。
「仕方の無い事だが人間は不便だな」
スミレは彼女達の頭を撫でながらつぶやいている。スミレとルーナは人では無いのでそれらは無く、また魔法で治癒してはいけない類の事なので誰にもどうする事も出来ない。
心配そうに見つめるルーナとスミレに彼女達の事を任せ、男は一人、野営に必要なアレコレを探しに森に入る。
「薬草や食材を確保してくるよ」
そう言って森へと入る。夜明け前の森は昼間よりも静かで暗い。魔法で杖を光らせて照明にしながら薬草を探す。
「この辺りは珍しい薬草があるはずなんだけど・・・・・・」
図鑑を片手に生息場所と形を確認する。チューリップのような形の緑の花に緑の葉。全てが緑なのでしっかり見ないと確実に見逃す薬草だ。
迷彩効果100%で、見つけにくい薬草ランキングでベストテンに入っている位わかりにくいらしい。
この薬草はマジックポーションの原料になる物で、根の部分を使うらしい。
葉の部分は魔力草のようにお茶にして飲む事も出来て、花弁はそのまま食べる事が出来るらしい。
茎部分は特に使い道は無いが、普通の草木と同じく畑の肥料程度にはなると書いてあった。
「チューリッピって名前も殆どそのまんまだな。覚え易くて良いけど」
しばらく森を彷徨い、目を凝らしながら薬草を探していると道に出た。
「こんな所に道が・・・・・・」
左右を見渡す。細い道だがしっかり使われているみたいで雑草などが生い茂っていない。近くに人のいる集落があるのかと、薬草を見つけるついでに道を辿ってみた。
数十分程歩くと村の入り口らしき柵が見えた。
「うーん、どうしようかな」
中に入るかどうか迷っている。こんな辺境に一人、夜明けに尋ねるのも怪しい気がする。しかも馬車ではなく徒歩。尚且つ女性の連れも複数人居るのだから余計に怪しい。
こんな人数で歩いて旅する奴など居ない。怪しさ満点だ。馬車が壊れて馬に逃げられた設定にでもしておこうかな?
女性が三人腹痛で寝込んでると言えば彼女達が休めるベッドを貸して貰えるだろうか?
当然だが天幕にはベッドが無い。
一応ホルンで作って貰った座布団は敷いて寝かせてあるが、しっかりと休める環境があるのなら休ませてあげたい。
村の入り口手前でうんうん唸っていると知らない声に尋ねられた。
「お前さんこんな所で何やっとるんじゃ?」
「ぉ!?」
声に驚き目を開けると杖をついた老婆がこちらを見上げて佇んでいる。
「あ、いや、えっと、村があるなと思って、どうしようかと悩んでました」
「どうしようかとはどういうことじゃ? この村を襲う算段でも立てておるのか?」
老婆は片目を大きく空けて睨むように覗いてくる。しわくちゃの顔が怖い。
「いえいえ、とんでもない。体調の良くない連れが居まして、森で休んでるのですがこの村で宿が借して貰えるかどうかお聞きしたかったのですが、こんな朝早くに尋ねるのも悪いかなって思って・・・・・・」
しどろもどろになりながら経緯を説明をしてる間、老婆にじろじろ見つめられていたがそれが終わると老婆が口を開いた。
「見ての通り辺境の小さな村だから宿は無いよ。でもお前さんが家の手伝いをしてくれるならあたしの家で休ませてやるから連れておいで」
「ありがとうございます! ちなみに女性が四人と狼が一頭居ます」
「女四人と狼じゃと!?」
老婆は目を丸くして叫ぶが、それでも一度言った事は曲げないと、男前な態度を見せてくれたので再度お礼を述べてから野営地へと戻り、全員を連れて村を訪れた。
村に来るまでの道中で先程考えた通り、馬車が壊れて馬に逃げられた設定を話し、全員の口裏を合わせておいた。
「悪い事をしてる訳じゃないのに申し訳ない気持ちになりますね・・・・・・」
「うん、メリッサの言いたい事はよーくわかる。私も同じ気持ちだもん。でも、かと言って龍に乗って移動してます。なんて言えないし、言った所で信じて貰えない所か頭のおかしい奴等だと思われて追い出されたり何かされても面倒だからこれでお願いします」
そうして村に着くと入り口に先程の老婆とほかに数人の老人たちが出迎えてくれた。
老人たちの朝は早いな。
「ふぇっふぇっふぇ。本当に女子四人も連れておったのか。この色男め、なかなかやるのう。ふぇっふぇっふぇ」
笑顔の老人たちにざわつかれながら惣一郎達は村の中に案内された。
老人の歩幅に合わせて歩きながら村を見渡すと本当に小さな集落で所々朽ちている家も少なくない。
時折家の中からこちらを覗いている顔も見える。
そして何より若者が居ない。少ないのではなく居ない。どうやらここは限界集落のようだった。
「ここは死にゆく者の集落じゃよ」
一人の老人が惣一郎に話しかける。
「・・・・・・ご家族の方達はここには住んでないのですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。お若いの、気になさるな。わしらはこの地を気に入っておるのだ。故に離れられん。ここで生きてここで死ぬ。好きでこの集落に住んでおるのじゃよ」
彼は多くは話さなかったが老人達の子供らは全員ここから巣立って行ったという事だった。
老人は終始にこやかな表情で話す。
そこには後悔も悲壮感も無く、ただ自然と朽ちていく運命を受け入れて余生を過ごす笑顔の老人達が居た。
「わしの家に泊めようと思ったが、人数が多いのでなこの家を使うといい。今は空家だから遠慮する事は無い。それと壊れてる所は適当に直して使っておくれ」
老婆は集落の中ではあまり朽ちていない空家に案内してくれた。
俺達は礼を言って中に入り、軽く掃除をしてからベッドを使わせて貰った。
「色々とありがとうございます。早速ですが彼女達も落ち着いたので約束通り手伝いに来ました。何からやりますか? みなさんの家でも直しましょうか?」
この村で手伝えることは沢山あるだろう。一番目立つのは老朽化した家々だったので、こちらから提案して見たが、それより先にやって欲しい事があると言われ、案内されたのが集落の端にある薪割り場所と炭焼き小屋だった。
「冬を越す為の薪と炭を作って欲しいのでな、宜しく頼むぞ。分からない事があったら何でも聞いておくれ」
「なるほど、了解しました。取り合えず薪割りからですね」
そうして俺は指示通りに近くの木を数十本切り倒してから薪を割る作業を開始したのだった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
11月も頑張って投稿したいと思います。
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これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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