―ダリアの休日―
「ん、う、う~ん・・・ふぁ~あ。 今日もいい天気だな」
ダリアは自室のベッドで気持ちよく目覚めて背筋を伸ばしてあくびをする。
今日は久々に休みとなり、何をしようか考えている。
「スミレ姉さん以外はホルン村だっけ。 セレーナの親戚に野菜の栽培方法を聞きに行くとか言ってたな」
惣一郎達は朝早くに転移陣を使ってローランドからホルン村へと農法を聞きに出かけていた。
「オレは何しようかな。 何か見て回るほど街に店も無いし・・・姉さんはここの所ずっと読書してるみたいだけど、オレは読書苦手だからなぁ」
ダリアは何度かスミレに読書を誘われていたが、付き合ったのは最初の一回だけであとは断り続けている。
着替えも終わり、場内をうろついている。
「姉さんはいつものようにバルコニーか」
スミレはバルコニーが気に入ったらしく、何も用事かない時は常にバルコニーで読書をしている。
ダリアはバルコニーをチラ見して通り過ぎ、武器庫へと向かう。
「装備の手入れしとかないとな」
この街にはまだまともな鍛冶職人が居ないので自分の装備は自分で手入れをするしかない。
コルグに居た頃でお金が無い時には自分で手入れをしていたので特に問題は無い。
武器は通常であれば研ぎ具合などを考える必要はあるが、神宝武器であるツヴァイダガーは刃こぼれしないので殆どメンテナンスフリーとなっている。
防具や予備の装備が消耗したり劣化した部分など、手に負えない時はガボットに頼んでいるが、通常のメンテナンスに関しては自分で行っている。
ちなみに惣一郎は装備の事に関してはメンテナンスも全てガボットに頼んでいる。
「ほんと、このダガーは凄いよな・・・。一生物の宝だぜ」
二本のダガーを見つめ、軽く手元で回したりお手玉のように軽く空中に投げたりしながらつぶやく。
「よっ!」
掛け声と共に壁にかけて有る木の的にツヴァイダガーの片方を投げつける。
タン!
ダガーが良い音を立てて的の中央に刺さる。
「こい!」
ダリアがダガーを投げた手を伸ばしたまま掛け声をかけると、的に刺さったダガーが勢いよく彼女の手元に戻って来る。
戻って来たダガーを掴んだ勢いで回転し、次は反対の手のダガーを的に投げた。
パシッ!
クルッ。
シュッ!
タン!
「こい!」
もう一度ダガーを手元に戻すと武器を手元でクルっと回して逆手に持ち替えてから二本とも腰の鞘へと納刀する。
パチン。パチン。
「うん、今日もバッチリだ」
投てきの練習を終えるとキューブから予備のダガーやナイフを取り出し、丁寧に1本ずつ刃こぼれを確かめ、グリップやがたつきなどを確認してから再度キューブにしまった。
次は防具か。
ガルーダブーツも特にメンテナンスする必要が無いので汚れを確かめて埃を払う程度の手入れをしてから他の装備を外して丁番や革の繋ぎ部分を確かめる。
「ガボットさんの装備は本当によく出来てるよなぁ。ポプリちゃんの細工も入ってて可愛くなってるし、親子そろって天才か」
独り言をつぶやきながら細部を細かく見る。
先日の蛮族討伐で敵の矢がかすったり、直撃では無いが攻撃を受けてしまった部分を確かめるが、しっかり修理されて綺麗に直っている。
「全部元通りだもんな。直したところが全然わかんねーや。よし、少し油をさして磨いておくか」
ダリアは女性らしい服を着たりオシャレなどした事は無いが、人前に出る時は装備を磨いたりして綺麗にする事を心がけている。
彼女もその辺りの女性らしさはしっかり持っている。
ただ残念な事にそこに気が付く男は殆どいない。
装備の点検も終わり、武器庫を出るとその辺に居たメイドに一言告げてから城下町へと出かけた。
「新しいギルドか・・・もとは劇場だったんだっけ。コルグとは違って全然ギルドに見えないな。看板が無かったらわからないぞ」
入口の大きな扉の左右には、女性の像と男性の像が向かい合って立っていて、劇のワンシーンのように何かを伝えあっているかのような仕草をとっている。
「うーん、劇か。見たいと思わないなぁ。芝居とか見てて面白いのかな?」
稼動前のギルドの前で腕を組んで考えていると見回り中の兵士が話しかけて来た。
「姉御? ダリアの姉御じゃありませんか!」
「ん? 誰だお前」
兵士に馴れ馴れしく姉御呼ばわりされたダリアは睨みながら返事を返した。
「あ、あっしです! クロイツェルで大変お世話になりました、ガスでございます」
「ガス? クロイツェルでそんな奴と知り合ったか? ・・・知らないぞ」
「ええっと、姉御とスミレ姉さんとメリッサお嬢さんにご迷惑をおかけしたチンピラ達の一人でございます」
兵士は自らをチンピラと名乗って自己紹介をする。
「ああ、あいつらの一人か! いっぱいいたから顔おぼえてねーや。んでなんでこんな所で兵士の格好してるんだ? この街でなんか悪さしてんじゃないだろうな?」
ダリアはチンピラ達の事を思い出すもすっかり顔を忘れ、彼らがクロイツェルで強制的に兵士にされて討伐隊に組み込まれた事もすっかり忘れていた。
「そんな、滅相もございません! 姉御たちのお陰で今はこうして兵士となって弟と二人、国の為、領民の為にしっかりと働いております!」
ガスと名乗る元チンピラは背筋を伸ばして片手を胸に当てて兵士式の敬礼を見せた。
「そうか、まあしっかりやれよ。 今さら良い子ぶったって今までお前らがして来た事がチャラになる訳じゃないからな」
「はい、もちろんでごぜぇやす。 俺達が今までして来た事を許して貰おうなんて思っていません。 あの国で姉御たちと別れた後、命約を交わして兵士になり、蛮族討伐の前線に放り込まれて戦って、気が付いたら生き残ったの仲間は俺を含めて三人になってました。 それで俺達はあの戦いを生き残って思ったんです。 生き残った俺達は運が良い方だって」
男は死線を超えた事で何やら考えを巡らせて答えを得たらしい事をダリアに告げて来た。
「俺と弟は姉御たちに迷惑をかけたあの日があの一味に加わってからの初仕事でした。
それであんな事になってついて無ぇなって、その後戦場へ送られて、俺達はもうここで死ぬんだって蛮族の軍をみて覚悟しました。
ですがトロールを全て倒し終わって次にバカみてえな数のゴブリン軍団と戦って、それでも弟と二人生き残って戻って来れて、同じ兵士の同期や諸先輩達からもよくやったって声をかけて貰って、ここに戻って来る途中も村人達から感謝されて、今まで誰かからこんなに大勢から笑顔で感謝された事なんてなくて、そしたら今までしてきた事が本当に申し訳無ぇって感じるようになって、急にスミレ姉さんに言われた
『死ぬときは誰かの役に立って死ね』
って言葉を思い出して、出来る事なら今まで迷惑をかけた分だけ、兵士として誰かの役に立ってから死にたいって思ったんです」
男が熱く語り終わるとダリアは特に気にする事も無くガンバレよと一言だけ声をかけてその場を去った。
「ダリアの姉御! あの時、生かして頂いてありがとうございました!」
元チンピラの兵士、ガスは去っていくダリアの背中を見ながら声をかけて敬礼をするとダリアは振り向きはせずにだるそうに片手をあげて答えた。
(ふん、すぐに死んだら許さねえぞ・・・)
ダリアは小さく呟きながら上げた手を下げ、次は何処へ行こうかと適当な道を曲がった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
11月も頑張って投稿したいと思います。
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少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
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