―夜明け―
夜明け前の急襲を一掃すると朝日が昇り始め、準備を整えて兵士達の陣形が整う。
オーソドックスなW型の陣形で中央が若干後退している形。
陣形が完成し、シェーナが兵士達を鼓舞する演説を始める。
「これより敵の本陣を叩く! 知っての通り敵の数はこちらより勝る! だが数だけだ! 我々には眼前に居るただ力任せに噛みつき引っかき武器を揮うだけの無知の軍勢を殲滅するだけの知恵と力がある!」
「勇猛な赤の兵士達には知る者も多い、かの英雄、オトナシ伯爵のお力添えを頂いて要る!」
シェーナはスクロールの束を掴み、目の前に掲げるとルーナがどこからか飛び跳ねて彼女の真横に降り立つ。
「ワオォォォォォォォン!」
ルーナの勇ましい遠吠えを聞き、兵士達は歓声を上げる。
「ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「勇敢な者達よ! 今こそその力を見せろ! 理を知る知者達よ! 愚かなるモノ共に叡智の鉄槌を下せ!」
「ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「この地にて無知蒙昧な蛮族共を殲滅し、我ら人の世の安寧を取り戻すぞ!」
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ひと際大きな歓声と共にシェーナは演説を終え、対峙するゴブリンに向かいスクロールを開くと魔法を発動させた。
「我らに勝利を! 」
「 ハイボルテージ ! 」
一瞬の閃光と共にゴブリン軍の中央に大きな光の柱が落ちる。
「 ドン !」
戦場がまばゆい光に包まれ、光が消えると光の柱の落ちた場所は地面が赤く焼け、大きくくぼみ、消し炭になった敵が所々に飛び散っていた。
この一撃で見えている敵のおおよそ四分の一程度が居なくなった。
「ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
目の前の光景に歓声を上げる兵士達。
「突撃!!!!!」
シェーナの号令で陣が動く。
ハイボルテージの一撃でゴブリンの兵士達は尽く怖気づいた。
派手な見た目に引けを取らない威力は集団戦闘における開幕の一撃に相性が良く、ゴブリンのように知性が低く元々臆病な性格で「弱い物には強く、強い物には弱い」魔物の心を折るには最適だった。
それでも数で勝るゴブリン達はナイトやライダーに引き連られて勢い良く駆け出して応戦してきた。
「銃兵はビショップを優先的に狙え!」
櫓を組んで一段高い場所から狙撃出来る銃兵達は奥に見えるビショップクラスのゴブリンに狙いを定めて引き金を引く。
銃には王都の戦いでは無かったスコープが載っている。
これも惣一郎がだいぶ前に指示して作らせたものを何度もテストして完成させたのだった。
ただの望遠スコープでレティクルやレンジファインダーは無いが、着弾点が見えるというのはかなりのアドバンテージになる。
銃兵達は次々にゴブリンビショップの頭や体を撃ち抜いて行く
中央の右翼側にはルーナとセレーナ、同じく中央左翼側にはダリアとメリッサが戦っている。
「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
ルーナのハウリングバインドに合わせて中央部分の全員が的確に動く。
ハイボルテージで割った敵陣中央に入り込み、両翼と中央で挟み撃ちの形にもっていく作戦だ。
銃兵がビショップ達を撃ち終わり、目についたアーチャーやハイゴブリン等の巨体を狙い始める。
開幕の一撃で士気を下げたゴブリン兵達を次々に倒していくが、負傷した味方の兵士達も次々に運ばれてくる。
「ハイポーションならいくらでもある! ケチらず使え!」
本陣で指揮を執るシェーナの手には新しく作られた音無印の道具袋が握られている。
こちらはいくら負傷してもハイポーションで回復し放題というチートによりヒーラーの数を最小限にし、魔術師は全てDDに出来るというハイポがぶ飲み脳筋スタイルである。
我が陣営の財源はセレーナの持つアーティファクト無窮の水筒だ。
彼女が合流前の最初の戦闘参加時から夜なべし、余ってる酒瓶やらなんやらを使い、数多のハイポーションを量産していたのだ。
偉いぞセレーナ。
工兵が定期的に走り全線にハイポーションを補充しているが補給が無くなる事は無く、前衛にとってこれほど心強い事は無く彼等は安心して戦う。
「ハイオーク打ち取ったぞー!」
兵士が大物を打ち取る度に歓声を上げ、次々に士気が高まっていく。
倒されても倒されても復活し一向に数が減らないアンデットのような生者の軍勢に、ゴブリン達は益々恐怖を感じ怯えながら戦うがその攻撃は徐々に力が無くなっていく。
「メリッサ! セレーナ!ルーナ様!!そろそろ行くぞ! 」
ダリアの号令で全員が動く。
「ワン!」
「了解!」
「了解です!」
4人は再度集まり、メリッサがスクロールを取り出すとオバードライブとメタル、ディストーションをかけて姿を眩ます。
敵の数と味方の数が同じになりかけた頃、洞窟の中から上級ゴブリン達が精鋭達を連れて現れた。
「ジェネラルだ! ジェネラル達が出て来たぞ! 」
彼等の登場に気が付いた兵士達が声を上げ、斥候が本陣へと報告に向かう。
「報告します! 敵の本体、ジェネラルと複数のヒーロー、他数百の精鋭と思われるゴブリンを確認致しました!」
「やっと出て来たか。私も牽制に出る! しばらくの間ここを頼むぞ!」
シェーナは道具袋からスクロールを取り出しつつ敵を目視できる距離まで走る。
「出来るだけ数を減らす。全軍、陣形直せ!」
「全軍、陣形直せ!」
兵士達はシェーナの号令を復唱しながら乱れた陣形を整え始めた。
「構えろ!「結界を張れ!」」
号令と共にスクロールが開かれて敵陣最奥に魔法が放たれる。
「アサルトブリザード!」
空から大量の氷の矢が降り注ぎ、ゴブリン達に降り注ぐ。
重厚な盾を持たない雑兵達が次々に撃ち抜かれていく。
巨体なハイオーク達は近くのゴブリン達を掴んで盾代わりにして身を守っている。
前線の第三魔の兵士達は号令と共に結界を張って巻き込まれないように味方を守る。
「再強化!」
氷の矢弾が降り注いでる間に味方の強化をするべく、ひと際大きなスクロールを4枚取り出して側近の魔術師達と共に広げる。
「「オーバードライブ!」」
「「メタル!」」
シェーナ達は決戦に挑むため両翼の陣それぞれに強化を掛け、兵士達は個々にポーションやマジックポーションを飲んで回復し、呼吸を整える。
「矢弾が止まり次第に突撃せよ!」
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
氷の矢弾が止まると兵士達が再び攻撃を始める。
オーバードライブで強化された兵士達はハイオークの攻撃を避け、耐えられる程の体力を得て敵を切り伏せて行った。
「勝てるぞ!」
兵士達は先程よりも容易く巨大な敵を切り伏せて行く味方を見て一気に沸き立つ。
「ゴブリンヒーローだ!」
トロールのようにひと際大きな巨体のゴブリンが数体現れ、味方を薙ぎ払っていくのが見える。
「ウガァァァァァァ!」
ゴブリンヒーローは大声と共に巨大な棍棒を振り回し、立ち向かう兵士達を盾ごと吹き飛ばしていく。
「デカい、デカすぎる!」
強化された事で、致命傷は防げるものの、ヒーローの攻撃には吹き飛ばされる兵士達。
「援護射撃が入る!構えろ!」
斥候が号令を出すと兵士達は牽制しながら後退していく。
ドン!ドドン!
いくつかの銃声と共にゴブリンヒーロー達の巨大に穴が空き、大きな音を立てて地面に倒れる。
巨大なゴブリンと言えど、対物ライフルの前にはただの的にしかならない。
ヒーローを容易く葬られてジェネラルとその取り巻き達が焦り始める。
「ニクノタテヲダセ!」
ジェネラルの号令で洞窟内からゴブリン達が現れる。
「ドウシタ!?ハヤクニクノタテをダセ!」
現れる筈だったが現れない。
「残念だったなク〇野郎」
ジェネラルは自分の背後から人間の女の声が聞こえると、自身の首元にブスリと何かが刺さっていくのを感じた。
「アガガガガ!?ギギギ!?」
ゴブリンジェネラルの首元から濁った赤黒い液体、ゴブリンの血が流れる。
「ナ、ナゼ・・・ダ!?」
「黙って死ね」
ゴブリンジェネラルは女の声を聞ききつつ混乱したまま首を刎ねられた。
側近のゴブリン達も混乱するが逃げ惑う暇もなく次々と首が地面に落ちて行った。
「ゴブリンジェネラルが落ちたぞ!!」
「敵将が落ちた!!」
狙いをつけていた銃兵がいち早く気が付き、声を上げる。
続いて前線の兵士も気が付き声を上げた。
「敵将が落ちたぞ!蛮族共を殲滅せよ! 1匹たりとも逃すな! 」
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
再びシェーナの号令により兵士達は残りのゴブリン達の殲滅し、蛮族討伐は終わった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
10月も僅かですが出来るだけ頑張って投稿したいと思います。
読みに来て頂いてる方々、感想頂いた方、評価頂いた方々、誤字報告頂いた方々、ブックマーク登録頂いた方々、ありがとうございます!
少しずつ見てくれる方が増え、嬉しい限りです。
これからも頑張って続けて参りますので、応援よろしくお願い致します。
読み辛い所もあるかと思いますが、気に入って頂けたらブックマークや評価、感想を頂けると嬉しいです。
栞代わりのブックマークでも構いません。(言葉の意味は同じですが)
誤字報告なども頂ければ幸いです。
今月も頑張ります!
宜しくお願いします!




