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プロローグ・そして転生へ

 プロローグ


「本日、午前9時頃、〇〇県〇〇町、1丁目付近、国道0222号線の交差点内で大型トラックと大型トレーラーによる衝突事故がありました。」

 警察によりますと、大型トラックによる信号無視が原因と思われ、横転したダンプカーの下敷きとなった車に乗っていた男性1名の死亡が確認されました。」

「この男性は年齢40歳、同県に住む不動産店経営者、音無惣一郎さんとみられ・・・・・・」




 ―そして転生へ―


「はぁ!?はっ!?はっ!?いつからだ!?いつから化け物なんて居ないと錯覚していた!?」


 男は森の中を走っていた。

 数十メートル後ろには大きいゾンビ犬。

 犬というか、象サイズのボルゾイのような犬、もといゾンビ犬。


 目があったと思われる場所には既に目は無く、黒く窪んでいる。

 鼻は利いているのか分からないが、とにかくロックオンされてるのは間違いない。

 左前脚が無く、ひょこひょこ歩いているので歩みは遅い。

 ただ、巨体なので一歩がデカい。

 そのせいで男は走らなければ追いつかれてしまうので走っている。


 なんで!なんでこうなった!?ベェオハザードか!?なんとかウイルスでも撒かれたのか?

 走りながらも頭の中で叫びつつ、脳は勝手にここ数分の出来事を思い出していた。



 確かに数分前、俺は死んだはず。


 原因は交通事故だ。覚えている。


 交差点で右折待ち中、信号無視してきた大型ダンプがいて、タイミング悪く対向車線から来た大型トレーラーが信号無視ダンプの側面に突っ込み、ダンプが勢いよく横転した。

 その横転したダンプカーに車ごと潰されて死んだ。


 幸か不幸か、いや紛れもなく不幸なんだけど、潰されたのは全身ではなく、下半身だけ。そしてそれをしっかり確認したのが最後の記憶。


 その後視界が閉ざされ、気が付いたら森の中に居た。

 潰されたはずの下半身があった。

 五体満足の健康な状態で森の中に居て色々混乱したが、なぜか生きていた。


「ここはどこだ?なんで・・・・・・生きてる?」


 一人そう呟き、自分の体を確かめていた。


「夢か?夢にしては色もあるし、温度も感じるし音もある。なんていうか・・・・・・明晰夢?・・・・・・死後の世界?・・・・・・にしては意識も感覚もはっきりしているし・・・・・・財布が無いしスマホも無い。」


 そう思いながら立ち上がると、近くで何かが動いてる音がした。


 ガサガサっと音がする方向を見ると、そこには鼻を劈く異臭と共に、大きくてドス黒い何かが居た。


「な!?」


 姿が見えた瞬間にソレから逃げていた。


 そして今に至る


 知らない森の中で方向感覚など無い。

 何処に向かって何処まで逃げていいのかも分からなかったが、ただひたすらに逃げるしかなかった。


 しばらく走り、軽く振り返るとそいつが走れない事に気が付いた。

 自分が全力で走れば逃げられる事に気が付いたのは不幸中の幸い。


 「さ、流石にこの靴で全力疾走は疲れる・・・・・・」


 服装は死亡時の物で靴は運動靴ではなく本革のショートブーツだった。

 肩で息をしながら小走りに切り替え、周りを警戒しながら取り合えず追いかけてくる赤黒いアレと一定の距離を保ち、安全を確保しながら頭を落ち着かせようと試みる。


 アレと同じのが複数いないとも限らない。

 少しの余裕が出てきた所で、自身の疲れと共に、ふと思いついた。


「逃げきれる思って油断すると、横からガブリってのがゾンビ系ホラー映画のセオリーだからな」


 ゾンビ1体みかけたら既に大惨事と思え。これが現代の標語の一つだ。

 今作った標語だけど。


「とは言え、これからどうするか?平和な日本ではマーケットで銃火器が買える訳でも無く、ロケランとかグレランでもなきゃ倒せそうもない大きさの化け物とは戦いたくないし、取り合えず逃げるしかないよな。かと言ってここがどこだかも分かって無いし、てか何でここに居るのかも分かっていない。夢なら早く冷めてくれ!」


 つぶやきつつそう願いながら5分程走った所で少し開けた場所に川が見えた。


「川だ!ゾンビは川が渡れないとか映画で言ってたの聞いた事あるけど、実際はどうなんだ?まぁゾンビなんて今まで誰も出会った事無いから何の根拠も無いよな・・・・・・今まではただのフィクションだった訳だし、でも警察犬なんかの尾行をまく時は川に入って匂いを消すとかあったな・・・・・・ゾンビなアレの鼻が利いてるか分からないが」


 更に小声で呟きながら川へと走り、川の深さを見る。

 川は透き通っていて、流れも緩やかで浅い所ならひざ下半分位の深さだった。


「渡れる。」


 後ろを振り返りゾンビ犬が居ない事を確認し、急いで靴と靴下を脱ぎ、川を渡る。


 そして渡ってる最中に気が付く。


「家だ」


 川の向こう岸の森の中に見えたソレは、小さい平屋のログハウスで、かなり年期の入った感じだが、確かにそこに在った。


 あのでかいゾンビ犬に襲われたら壊れるかもしれないが、取り合えず一瞬でも避難は出来そうだ。


 大自然の中、少し文明が見えただけで安心してしまう、悲しい現代人である。


 防犯の為か窓にガラスが無い。採光の為の細長い窓枠に雨戸と思われる板が被さっている。

 流石に今ここには住んでいないだろう事は外観を見ればわかる。

 玄関らしき扉の前には雑草が生い茂り、手入れがされていない状況からしばらくは誰も訪れていない事は分かった。


「扉に鍵がかかっていなければ良いんだけど・・」


 靴を履き直し、まいてきたゾンビ犬がまだ対岸に見えないのを確認しながらドアを引いてみる。


「ガチャ」


 すんなり開いた。

 心の中でガッツポーズをしながら中へ急ぐ。念の為挨拶はしておこう。


「お、お邪魔します」

 中は薄暗いが、天井と壁の間に採光の為の隙間があるらしく、その光でなんとか中は見渡せる。


 なにか違和感がある。


 ドアを開けて中に入ると床に仕切りが無く、そのまま平坦な板間が続く。

 靴を脱ぎ揃えておくような場所が無いのだ。


「欧米か?」


 この状況なので深く考える事は止め、靴のまま中に入る。

 奥に進むと暖炉があった。


 そのリビングのような部屋で何か役に立ちそうな物はないか探す。

 祈る様に見渡すと、暖炉の横に立てかけてある物に目が留まる。


「これ、剣か?」


 西洋剣を思わせるベルト付きの鞘に収まった剣を手に取り抜いてみる。


「あ、折れてる・・・・・・」


 それは刃渡り40㎝~50㎝位の長さで、折れた両刃の剣だった。

 軽く振ってみる。


「見た目のわりには軽いなこれ。アルミ製か?コスプレ用?」


「取り合えず金属製っぽいし、貰っておこう」


 この状況で命を守るために必要であれば、何かを盗んでも罪悪感など微塵も沸かないし、機会があれば後で返せば良い。

 そう思いながら剣を鞘に戻し、腰に鞘ベルトを巻く。


 他には何か無いのか?薪割り用の斧でも鉈でもなんでもいいけど、雑草焼却用の小型の火炎放射器とかその燃料とか有っても良いんだぞ。ゾンビなんて燃やせればなんとか倒せそうだし。


 山にある小屋なのだからそれ位期待したい。たとえ焼却後に、山火事になったとしても知らん。あんなにデカいゾンビ犬が居るって事は、近くの町や集落がゾンビに襲われていて、既に全滅してる可能性だってある。


 そんな余計な事を考えながら家探ししていると、4人掛けの四角いテーブルの上に分厚い本を見つけた。


「外国語?」


 ルーン文字に似たような楔文字的な感じの見慣れない文字。何か気になる。

 本を見てる余裕など無いのだが、惹かれるように手に取り表紙を開いてしまった。


「なっ!!!!」


 頭の中に文字や映像、何かの記憶、そういったイメージが一瞬にして通り過ぎた。

 驚いて本を落とす。


「うぇっ」


 瞬間的にかなり多くの情報が脳内に入った感じがして、立ち眩み、視界が狭くなって気持ちが悪くなり吐きそうになる。


「なんだこれ・・・・・・」

 次の瞬間、声が聞こえた。


「ワタ・シ・・・ヲ・コロ・シ・テ・・・・・・」


「っ!!」

 慌てながら剣を抜いて家の中を見渡すが誰も居ない。


「なんだ!誰だ!」

 返事はない。

 そもそも家の中に誰かがいる気配はない。


「ソノ剣・・・デ・ワタ・シ・・・・・・コロ・シテ・・・・・・」


 もう一度声が響いた。多分外だ。

 急いで外に出た。

 川の対岸にアイツが居た。


「おまえか!?喋れるのか!?」


「ハヤ・ク・・・ソノ剣・・・デ・・・ワタ・シ・・・・・・ヲ・コロ・・・シテ」


 頭の中で声が聞こえた。

 声の主はさっき追い掛け回された大型のゾンビ犬だった。

 そいつは川を渡って来る様子はなく、その場に座った。


 アイツ、意識はまだ残ってるのか?ていうかなんで犬のゾンビと会話出来てるんだ?

 何なんだこの状況・・・・・・やっぱり夢か?この川って三途の川か?さっき渡ってしまったぞ。

 こっち側があの世か?なんだこれ?


 混乱しながら、靴を履いたままジャブジャブと川を渡っていく。


「お前さん何なんだ?なんで話が出来る?お前さんを殺すとどうなる?」

 混乱したまま目の前のソレに向かって叫ぶように問いかける。

 目の前のソレは何も答えずに、そっと首を差し出した。


「オネガイ・・・・・・」


「な・・・・・・ほ、本当に良いんだな?」

 声も体も震えながら問いかけた。


「・・・・・・」

 小さく頷いた様に見えた。


 震えながら両手で剣を握ると、どうにでもなれと、思い切り振り下ろした。

 シュっと音がして剣を振り終わると、ソレの首だけが滑るように地面に落ちた。

 悪臭と恐怖と混乱で、嘔吐く。


「うっ・・・・・・はぐっ・・・・・・」

 朝食がまだだったため胃の中に何も入っておらず、わずかな胃液しか出ない。

 よろめきながら目の前の川へ走り口をゆすぐ。


 少し落ち着き、振り返ると腐った赤黒い血肉の亡骸は無く、代わりに白く美しい大きな犬が座って居た。


「ありがとう、人の子よ」

 白く美しい犬はそう言った。


スロースタートですが宜しくお願いします。

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