9 ハーレム!
白い空間で、守君の姿が消えて、私は次は自分の番なのだと固く目を瞑った。
「さて、あなたはここで少し待機してもらうわ。だから、もう少し詳し話すことにするわね。」
「え、えぇ?でも、早く送らなくっちゃいけないんじゃ・・・」
「あー・・・さっきの男の子が言ったから大丈夫でしょう。それに、あなたの体ももう透けてないでしょう?」
「あ、本当だ・・・え、どうして?さっきまでは透けて消えそうだったのに。」
「消えてないからいいじゃない?」
そして、私は守君が聞けなかった能力の詳細や異世界に送られる目的などを詳しく聞けた。
「突然変異、ていうのかしらね。稀に生まれるのよ・・・神に近い人間が。でも、そういうのはたいてい人格破綻していて、自分の能力がどこまで行けるかっていうのを試したくなるみたいでねぇ・・・迷惑なことに、それが生み出した召喚能力というものがあって・・・」
それは、召喚能力を作った人間の話で、そしてそこから私が止めなければいけない人間の話になった。
「その子孫が、能力を開眼しちゃって、召喚魔法が使える人間が生まれるの。守君を送った時にはもういて・・・それで焦ったのもあるのよ。あと、それから100年くらいたった時に、また現れるのよね。悪いけど、長生きしてもらうからね。」
「え・・・さすがに100年は。」
「大丈夫、人間頑張ればできるわ。1000年したら、その召喚能力が受け継がれるのも止まるから、そしたら帰ってきてもいいわ。」
「それは・・・」
はっきりとは言わないが、女神さまは私たちをもとの世界に帰す気はないらしい。
「・・・なら、一つ聞かせてください。なんで私達なんですか?人間なんていっぱいいますし、高校生だってたくさんいます。なぜ、私達が選ばれたんですか?」
「もちろん、才能があったからよ。そうでなければ、力を受け取った時に爆発したでしょうし。それと、あなたたち日頃の行いがよかったから。」
「・・・そうですか。」
とんでもないことを聞いてしまった。
女神との会話を思い出し、複雑な心境になりながら遠くにそびえたつ城を見下ろした。
ここは、魔王領手前のゲッツェ山脈。魔王が守君だと知って、私は魔王に会うことを決めた。そして、そんな私にアドミスが協力してくれてここまで来ることができたのだ。
この世界に来てからアドミスに頼りっぱなしだと思う。
「あそこに、守君が・・・」
「勇者もな。もしも勇者と魔王が戦っていたら、どうするんだ?」
「・・・」
最初に女神様が現れた時、私と守君2人いることに驚いていた。たぶん、私か守君どちらか一人でよかったんだと思う。でも、私は2人でよかったと、何度考えてもそう思う。
一人であの白い空間に立っていたらと思うと怖いし、たった一人異世界に行くということはとても恐ろしく感じた。先に守君がいたからこそ頑張れた気がする。
もちろん、アドミスがいてくれたから、私は寂しくなかった。でも、いつか別れると思っていたアドミスよりも、いつか一緒にこの世界を守るだろう守君の方が、心の支えになっていた。だから、答えなんて考える間もなく決まっている。
「勇者を、テイムする。」
「それはやめろ!」
「え・・・だって、勇者を止めるにはテイムするくらいしかないし・・・」
事前に勇者の情報を集め、男であることは確認が取れた。なら、頑張れば勇者をテイムできるはずだ。勇者を倒すよりは、勝算があると思うのだが。
「僕が全力で止めるから、それは最後の、本当に最後の手段にしてくれ。」
「アドミスがそんなに言うなら・・・でも、絶対怪我とか負わないでね。危ないと思ったら、絶対に逃げてね。」
「嫌だ。」
「・・・嫌がっても、その時は命令するから。」
「善処するが、怪我くらいは・・・」
「駄目。」
「怪我くらい、回復魔法で治せるのに・・・」
そういえば、アドミスは神官騎士だと言っていた。よくわからないけど、聖魔法を使って、剣を振ことができる騎士のようだ。よくわからないけど。
「タマメ・・・逃げたほうがいいかもしれない。」
「え、なんで?」
「魔王には、7人の側近がいるって言っただろ。側近はかなり強いらしいし、古代竜2匹もそこに入っている。そして、その側近らしき古代竜が・・・」
アドミスが指さしたのは、空に浮かぶ黒い点だ。何かと思って目を凝らすと、それは鳥のような形をしていた。
「鳥じゃない?」
「いや、あれだけ上空にいてあの大きさ・・・俺の何倍も背丈があるのは確かだぞ。」
「・・・話通じるかな。」
「言葉は理解できるだろうが、話に応じてくれるかはわからない。人間を格下とみているし、話も聞かずに殺される可能性だってある。」
「・・・なら、アドミスは隠れていて。」
「は、何を言っているんだ!?」
「だって、殺されるかもしれないなら、アドミスを巻き込めないよ。」
「だったら、僕と逃げればいいだろう!」
「でも、側近と・・・守君に近い側近と話ができるかもしれないって、すごいチャンスだと思うよ。それに、きっと守君の側近ならそこまでひどいことはしないよ。」
「・・・わかった。なら僕が絶対タマメを守る。」
私は、守君を信用していた。だから、あのドラゴンが襲ってくることはないと思っている。でも、アドミスが逃げたいと思うなら、一人で逃げて欲しいと思った。
なんかごめんと、心の中で謝る。
豪っと、強い風が吹いて、思わず目を瞑った。ドラゴンが降りてきたのだと思うが、あまり大きな音はしなくて疑問に思いながら目を開ける。
すると、そこにはアドミスと同じような綺麗な銀髪を持つ、赤い目の女の子が立っていた。あれ、ドラゴンは?周囲を探すがドラゴンは見当たらない。ということは、この女の子がさっきのドラゴンの正体?
「・・・たまちゃん。」
目の前の女の子が言った言葉を一瞬理解できず首をかしげたが、そういえば守君が私のことを呼ぶときにそう言っていたことを思い出す。
「あ、うん!私は宝玉芽。あなた、守君の側近だよね?」
「・・・ウチは、マモマモの第一のハーレム、リュウコ。」
「ハーレム?」
マモマモとは、守君の愛称だろう。魔王としてはマーモと名乗っているし、結構守君はこの世界に溶け込めているようだ。それにしても、ハーレムって何?いや、ハーレムの意味は分かるけど、まさかそんなアホみたいなものを作ったりしないよね。
「さすが、色欲などという2つ名をつけられる人物だな。そうなると、側近の7人すべてが・・・いや、魔王領の女性全てが、魔王のハーレムか?」
「いや、それはさすがにないでしょ。守君は私と一緒で一夫一妻制の世界から来たわけだし。」
「みんな愛をマモマモに捧げているよ。でも、マモマモは・・・」
リュウコと名乗った女の子が、私を恨めしそうに睨みつける。その視線の意味を感じ取って、それはないと言いたくなった。
リュウコは、守君が私のことを好きだと思っているようだが、そんなことはありえない。私と守君の付き合いは10分に満たず、確かに同じ境遇であることはお互いの心を近づけるかもしれないが、だからと言って恋に落ちるわけではない。
私も心の支えにしてはいるが、だからと言って好きかと聞かれても、好きかどうか判断できるほど彼を知らないと答える。
「今は、こんなこと話している場合じゃない。本当は、こんなこと頼みたくない・・・けど、マモマモの大ピンチだから・・・マモマモと同等の・・・たまちゃんに、頼みに来たの。」
「大ピンチって、まさか勇者に・・・!?」
「マモマモが、勇者と一人で戦うって言って、ウチ達を城から追い出したの。・・・ウチは、テイムされているから逆らえない。それは、みんな一緒・・・だから、お願いたまちゃん。」
「え、ちょっと守君一体何を考えているの!?本当に話している場合じゃない!リュウコちゃん、私達を城に連れて行って!」
「・・・最初からそのつもり。乗って。」
一瞬でドラゴンの姿になるリュウコ。やっぱり、見間違いでなくリュウコはドラゴンだった。どうやら人型になれるようだ。
そんなリュウコの背中に乗って、私達は城へと向かった。