8 時差
そういえば、テイムのこと話していないなと気づいたのは、夕食を食べている時だった。
少し寝室で待っていて欲しいと言われ、応接室に戻ってきたら立派な夕食が用意されていて驚いたものだ。その夕食を平らげてデザートを食べている時に思い出したのだが、聞かれないなら話さなくてもいいかと忘れることにした。
また寝室で待って欲しいと言われ、応接室に戻ると綺麗に片付けられていた。きっと、メイドさんでも雇っているのだろうと思う。私の存在はなるべく隠したいようなので、私は大人しくしようと思った。
「タマメ・・・僕はさっきのタマメの話を聞いたとき・・・いや、テイムという言葉を聞いたときに、引っかかるものがあったんだ。」
「・・・引っかかるもの?」
忘れていなかったようだと残念に思いながら、続きを促した。
「君は、マーモか?色欲の魔王、マーモなのか?」
「・・・」
マーモと聞いて、誰それとなり、色欲の魔王と聞いて、言葉を失った。どこをどう見れば、私が色欲なのか!まだパンツのことを忘れていなかったのか!それとも、テイムしたときに無理やり唇を奪っ・・・あぁ、思い出すだけで恥ずかしい!忘れよう。
「僕は、君が魔王だろうと関係ない。たとえ、君が男だったとしても」
「真っ平で悪かったね!この馬鹿!もう、知らない!」
私は男なのかと聞かれて非常にショックを受けた。確かに、ぼいんではないけど!それはあんまりだ!まな板なのは気にしていなかったが、流石に男かなどと聞かれればこっちだって怒るわ!
座っていたソファから立ち上がって、寝室に逃げようとするが、腕を掴まれた。
「待て、そういう意味じゃない!別に男に見えるとかではなくて、違うのか?」
「はぁ?やっぱ男にしか見えないって思ってんの!?」
「いや、違う。魔王ではないのかって・・・だってお前の色も能力も、魔王と同じだから。」
「・・・・・・・・何それ。」
私と同じ?
顔を上げて、青い瞳を見上げると、少しだけほっとしたような顔をされた。
「魔王は、髪と瞳の色が黒なんだ。そして、テイムという能力を使って、古代竜や多くの人間を従えたと聞く。」
「黒髪黒目に・・・テイム。」
「同一人物だと疑う気持ちわかるだろ。」
「・・・いやまさか・・・魔王って、百年以上前に現れたんだよね?」
「あぁ。」
一瞬、力を分け合った守君かと思ったが、百年以上前なら違うだろう。彼と別れたのは数か月前、まだ一年もたっていない。
守君は、私と同じで黒髪黒目で、私と同じ異性をテイムする力を持っている。だから、もしかしたらと思ったが・・・でも、だとすると魔王はいったい何者なのだろう?
「ん?あれ、魔王ってその百年以上生きてるの?」
「あぁ。人間じゃないみたいだからな。」
「それって、私も人間じゃないと思ったわけ?」
「・・・いや、あまりに常識がなかったから、妖精か何かかと思って。」
「妖精・・・ま、まぁ、確かに常識がなかったのは確かだし、そうだね。」
「機嫌が直ったようで良かった。そうだ、確か仲間がいると言っていたな。それもこっちで探すから、どういう人物か教えてくれるか?なるべく特徴があればいいが。」
「仲間・・・あぁ、守君のことか。特徴と言っても、私と同じ黒髪黒目で、テイム能力を持っているくらい・・・え、何その目。」
「いや、それこそ魔王じゃないかと思って。」
「私も思ったけど、守君がこの世界に来たのは数か月前だよ?私よりちょっと早く来ただけで・・・」
「この世界?」
「・・・世界というか、国というか・・・その・・・」
異世界から来たなんて言えば、頭がおかしいと思われるに違いないので言えない・・・ん、あれでも勇者が召喚されたって言ってたっけ。もしかして、別の世界という概念があるかもしれない。
「アドミス、勇者って別の世界から召喚されてきたの?」
「あぁ。そうらしいな。」
「私も、その勇者と同じで、別の世界から来たって言って・・・信じてくれる?」
「疑うことはないな。」
「理解早!」
もっと悩むとか、あいまいに返事して心の中では信じていないとかいう反応だろうと思っていたが、疑いのかけらすらないとはどういうことか?やっぱりアドミスはいい人過ぎる。きっと騙されて路頭に迷うようなことを何度も経験しているんだろうな。
「なんだその目は。信じると言ったのに、急に哀れんだ目を向けるのはやめろ。まさか騙したのか・・・いや、ないな。」
「なんでそんなにはっきり断言できるの?大丈夫?」
「人が信じてやるって言ってるのに、その言い方はないぞ!あんたのことは信用してるし、よくよく考えれば別の世界から来たと言われればしっくりくることがたくさんあるんだ。」
「そういうことか。」
「はぁ・・・それで、他に仲間の特徴はないのか?これだけだと、魔王を探していると思われる。」
「うーん・・・あ、身分証があった!」
お互いを探すために、私と守君は身分証を交換していた。それがついに役立つ時が来たようだ。
カバンから身分証を出して、守君の顔写真を確かめた。
人懐っこそうな笑顔を浮かべる守君。彼と接したのは10分にも満たない時間だが、とても悪そうな人には見えなかった。緊張してお嬢様モードになった私を励ましてくれた、とってもいい人だ。
「タマメ?」
「あ、あったよ。この人が、守君。早稲守君だよ。」
身分証をアドミスに手渡して、私はソファに腰を下ろす。
守君は、このテイム能力を上手に使って仲間を増やしているのかな?守君の場合は血と血を混ぜないといけないから、辛いだろうな・・・私も、キスができないなら血でテイムをする覚悟もしないといけない場面が来るかもしれない。相手が怪我をしていれば、何とかなるかもしれないけど・・・痛いのは嫌だな。
「タマメ。」
「ん?」
「ワセ、マモルだったか・・・おそらくこいつは、魔王だぞ。」
「・・・・・・は?」
守君が魔王?




