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11 終わり



ブクマ・評価してくださった方だたありがとうございます。

励みになっています!

これで最終回になりますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。





 勇者が魔王を倒した。その報告は、ゲルベルドにお祝いムードを作り出し、その日の夜にパーティーが開かれ、功労者の勇者はまだ帰還していないというのに、王族すべてが参加し、高位貴族もそろう豪華な顔ぶれのパーティーとなった。

 前々から準備をしてたとはいえ、規模が大きく詳細な日程を決めていなかったパーティーには、臨時に雇われた者も多く参加していた。


 不用心なことだと思う。


 ダンス用の曲が流れ、人々が男女一組になって広間の中央に集まる。ダンスなど間近に見る機会などないだろうと思い、私は広間の隅で見物させてもらうことにした。

 あとは、待つだけだ。


 アドミスからアドミスの国、そしてゲルベルド。伝手を頼って私はこのパーティーにメイドとして参加することになった。最低限の礼儀作法は、守君にテイムされた元王女のセリアに即席で教えてもらい、何とかここまで来た。

 広間を隅々まで歩いて、あとは時が来るのを待つだけとなった私は、広場の隅で気配を消す。視線を感じて顔を上げれば、少し離れたところでアドミスが私よりも上手に気配を消して立っていた。

 アドミスの場合は、魔法を使って姿を消しているので、周囲には全く見えていないはずだが、私にだけ姿を見せるようにしているのだろうか?それとも、広間の中央に視線が集中する今は、必要ないと魔法を解除しているのか?


 どちらにせよ、心配をかけているのだろう。私に微笑みかけて、緊張をほぐそうとしているのがわかったので、私も小さく手を振った。


「・・・ふぅ。」

 息を吐いて、緊張をほぐす。心臓が暴れるような音を立てるが、なるべく落ち着くようにと、ダンスを踊る令嬢たちのカラフルなドレスを眺めた。


 しかし、可愛いとかきれいとか思う以前に腰に目がいってしまい、ドレスを純粋に楽しめない。だって、腰がありえないくらい細いんだもん!


「あれでどうやって食べるの・・・」

 私の腰の3分の2くらいしかないのではないか?押したらぽっきりといってしまいそうな腰の細さに、絶対体をぶつけないようにしようと決めた。

 怪我をさせても、私には治す方法がない。アドミスに頼めば治してくれるが、だからといって怪我をさせていいわけでもないので、距離を取ったほうがいいと判断する。




 何曲目か、ダンスのために奏でられる曲が止まって、王が立ち上がった。

 ついに時が来たのだと、私は大きく息を吸う。


 いまだに王が立ち上がったことに気づかない者もいて、ざわざわとした空気だが、徐々にそれは収まっていき、静かになる。そして、それを見た王が口を開け―――――


「テイムっ!」

 私の張り上げた声が、広間に響き渡る。


「全員、跪いて!」

 続けて出した命令に、男性は例外なく跪く。もちろん、一つ高いところからこちらを見下ろしている王と王子もその場に跪いて、驚きの表情を浮かべていた。


 どうしてこのような光景が広がっているのか。まさか、一人一人とキスをしたのか?そんなわけあるか・・・こんなに大勢の男性とキスをしたら、たらこ唇になるわ。

 なら、血や唾液を料理に混ぜた?干からびるわ!

 どちらも正解ではない。私はただ、この広間を歩き回っていただけ。それだけだ。


 テイムをするには、異性であること、自分の血液か唾液をテイム対象の血液か唾液で混ぜ、テイムということが条件だ。でも、それは最初の条件に過ぎない。


 テイム能力は、使う度に成長するものだった。

 本来は、血と血を混ぜ合わさなければならないが、私の場合女神様の好意で能力を成長してもらい、唾液と唾液でよくなったのだ。そして、今はもっと簡単にできるようになった。


 呼気と呼気・・・自分が息を吐いて、テイム対象も息を吐いていれば、第一段階終了。あとは、テイムといえばいいだけ・・・恐ろしい能力に成長したものだ。

 自分の能力について振り返っていると、私を見下ろして高圧的な態度をとる女性が声を張り上げた。


「この無礼者!その悪しき力を今すぐ解除なさい!出なければ、討ち取った首をさらすわよ!」

 王女だろう。彼女の言葉を正しく解釈するなら、どちらにせよ私の首は討ち取られるらしい。そんな命令、誰が聞くと思うのか?


 強気の王女に感化されたのか、周囲の令嬢たちも鋭い眼差しを私に向けて、王女に加勢する。おそらく彼女たちは気づいたのだろう。守君が女性しかテイムできないように、私も男性しかテイムできない・・・つまり、自分たちはテイムされないから安全だと思ったのだろう。でも、よく考えて欲しい。


 自分がテイムされないから安全といえるのか?そんなことはない。だって、周りの人がテイムされた状態で、自分だけがテイムされない状態というのは孤立するということだ。

 それは周囲が敵だらけになるということ。


 テイムした男性に命令をして、テイムできない女性をどうこうするなんて簡単なこと。

 やらないけどね!だって、その必要はないから。


「それに、せっかく女神様がくれた力だもんね。お互いが傷つかずに、世界を救える力。」

「ごちゃごちゃ言っていないで、解除なさい!私が誰だかわかっているの?勇者を召喚した、イルゴマー・ゲルベルドよ!」

 あぁ、この人が勇者を召喚したのか・・・なら、ちょっと痛い目見てもらわないとね。もちろん、一番迷惑をこうむった彼に任せよう。


 出番だよ、守君。

 イルゴマーが私の方へ一歩踏み出した時、力強い守君の声が広間に響き渡った。


「テイム!みんな動くなっ!」

「・・・!?ま、まさか・・・魔王!?なぜ。一体どういうことよ!魔王は死んだはずではなかったの!?」

「のぞき見した人が勘違いしたんじゃない?」

「なんですって!」

 憤るイルゴマーから目を離して、私は堂々とした足取りで歩いてくる守君に微笑みかけながら、魔王城で守君を助けた時のことを思い出した。



 勇者の攻撃で、虫の息となった守君を救うため、守君をテイムすることを決めた私は、何度も自分の唾液と守君の唾液を混ぜてテイムと叫んだ。でも、何度やっても、アドミスのように上手にテイムできなくて、ある一つの仮定が浮かんだ。


 テイマーをテイムすることはできないのではないか?


 だとしたら、私に守君を救うことはできない。なら、アドミスに回復魔法を使ってもらうしかない。しかし、アドミスは勇者を抑えるので手一杯。戦闘能力のない私には、勇者を止めるすべなんて・・・あ、勇者テイムすればいいか!


 しかし、その思いはアドミスと勇者の戦いを見て消えた。目で追えない動きで戦う2人。こんな戦い方をする勇者の唇を奪う自信はない。


 私は、自分のテイム能力のことを思い出した。女神様に説明されたこと、自分がテイムを使ってわかったこと。

 血と血、唾液と唾液。

 テイムと叫ぶ。

 異性が対象。

 テイム直後に全回復。

 キスでテイム。

 恥ずかしいので忘れたい。


 次々と思い出し、一つ試していないことがあることに気づいた。それは、血と血でテイムする方法だ。私は女神様の好意で唾液でテイムすることができるが、本来なら血でテイムするものだった。本来のやり方の方が効果があるというのは、よくあることだ。


 そして、その考え方は正しかった。


 血を使ったテイムは成功し、守君は全回復した。

 そんな守君と並んで、私は悪名高いゲルベルド王国の王族を含めた貴族たちに命令を下した。


「今後、召喚を行うことを禁止します!」

「人間には過ぎた力だ。だから、召喚を行うことを禁じる。そして、召喚が行われるような事態を目撃したら、それを止めて欲しい。いや、止めろ!」

 お願いではなくはっきりと命令する守君。

 テイムされると、私達を攻撃できないし、命令に従わなければならない。でも、人格が変わったりするわけでもないので、私達のお願いを聞くかどうかは本人たちの意思にゆだねられる。だから、どうしても守ってもらわなければならないことは、命令しなければならない。


 だから、私達は命令をした。


「守君。」

「何、たまちゃん?」

「私、守君がいてよかったよ。守君がいなければ、こんな大勢の人の間で堂々としていられなかったかもしれないから。」

「いや・・・俺がいなかったら、あの人が隣に立ってくれたんじゃない?」

「タマメ。」

「アドミス。」

「やることはやった、もういいだろう?さっさと帰ろう。」

「うん、わかった。でも、帰るって・・・」

 私の帰るところって、どこだろうか?もう元の世界には戻れないし、アドミスも最初に住んでいた家に戻るつもりはないようだ。それに、もうアドミスと一緒にいる理由がない。


「決まっているだろう、魔王城だ。」

「「え?」」

 アドミスの言葉に、私と守君の声が重なった。


「なんだ、駄目なのか、魔王?」

「いや、別にいいけど・・・えーと、アドミスさん?は、たまちゃんと2人がいいんじゃないかって、勝手に思っていたんだけど?」

「そんなことできるわけがないだろう。タマメとは、婚約者でもないのだし・・・危険だ。」

「危険って何が!?」

「たまちゃん、そこはスルーして。まぁ、俺は歓迎するよ。部屋も余っているし、好きなだけ使ってくれ。」

「ありがとう、守君。でも、アドミスはその・・・国に戻らなくても大丈夫なの?」

 確か、聖騎士だとか言っていた気がする。騎士ということは国に仕えているのだろうし、王都に部屋もあった。そんな彼が魔王城に住むというのは問題があるように思えるが。


「問題ない。」

「そ、そう・・・」

「あぁ。だって、僕が仕えるべき人は・・・一生そばにいたい人はもう見つけたからな。」

 ふっと笑ったアドミスを見て、私の顔に熱が集まった。


「タマメ・・・僕をテイムした責任、もちろんとってくれるよな?」

「アドミス・・・わかった。私、全力で応援するよ!」

「・・・応援?」

 私は気づいてしまった。いや、こんなにあからさまだと普通に気づくよね。アドミスが、守君に恋しちゃったことが。


「大丈夫、私薔薇に偏見とかないから!」

「ばら?」

「ちょっと待って、たまちゃん!?いったい何の話ぃぃぃいい!」

 大丈夫だと、私は守君に微笑みかけた。私は2人を応援するから。


「ちょっとぉぉおおおおお!?絶対勘違いしてる!絶対そうだよ!アドミスさん、このままだと俺らたまちゃんの中で大変なことになるぞ!」

「?」

「なんでわからないのこの人ぉぉぉぉおおおおお!」

 なぜか絶叫し始めた守君。よくわからないと言った顔をするアドミス。2人共大切な人で、私と・・・


 キスした人だ。


 駄目だ、恥ずかしくなるから、やっぱあのことは忘れよう。もうどうすればいいかわからないし、私のこの気持ちもよくわからないから・・・


「2人をくっつけよう!そうすれば何かが分かる気がする!」

「俺たちが新しい扉を開くだけだ!やめてくれ!せめて、せめて女の子と・・・もうこの際ウサミでもいいから・・・男とは勘弁だ。」


 こうして、私にとっては短い、守君にとっては100年以上かけた、女神様のお願いを達成した。

 それにしても、守君をテイムしてレベルが上がったこの能力は、どうすればいいのだろうか?もう、テイムの一言で異性をテイムしてしまうなんて・・・


 そんな能力に悩み、よくわからない2人への感情に悩み、意味不明な勇者に悩み、私はこの世界でこの先も生き続ける。






守君サイドの「ギャルゲ式無差別テイマー」もよろしくお願いします!



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