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1 森はない



 走る。息が上がって、足がもつれそうになるが、それでも足を動かして走った。背後から聞こえる荒い息遣いと枝や草を踏みしめ壊す音。


 あれは、何?狼?でも、くちばしがあって、翼が生えていた・・・あれは何?この世界では、当り前の生き物なの?


「はぁ、はぁ、はぁ。」

 息が苦しい。どこを進めばいい?ここは、森?転びそう、転んだら死ぬ。


 異世界の森。ところどころ光がさしているが、今のところ道らしきものはなく、ただ追ってくるものから逃げるために進む。行き当てなどなく、状況を打開する力も・・・そうだ、私には力があった。


「はぁ、はぁ、はぁーーーーー!むりぃーーーーー!」

 どうにかできるかもしれないが、もしどうにもできなかったら・・・というより、この獣相手に何の行動もできないように思えて、怖気づいた私は走り続けた。


 でも、もう限界・・・限界が来たら、腹をくくるしかないけど・・・


「うわっ!」

 何かに足を取られて、私は前方にダイブし万歳の形で地面を滑った。顔に枝や葉が刺さって痛い・・・


「げほっ、がほっごほごほっはぁはぁはぁ・・・」

 せき込み、涙を流す私はそれでも起き上がろうとしたが、強い力で押されて仰向けとなった。目の前には鋭いくちばし。目をえぐられたら痛いだろうな・・・


「ごほっ、ごほっ・・・」

 涙で視界がゆがむ中、私を襲う獣をよく見る。四足歩行で、全身が灰色の毛でおおわれているが、頭と羽の部分は色が違って、無理やりパーツを組み合したような生き物だ。狼の体と、強そうな鳥の顔と翼をくっつけたような感じ。でも、こんな狼の体に合う鳥なんているのかな?

 もしも普通の狼だったなら、私によだれでもたらしていただろう。それなら勝機はあったのだけど。


「はぁはぁはぁ・・・・」

 獣は、私の体を隅々まで見まわして、肩を見て動きを止める。私の守護霊様でも見ているのか、なんて冗談を考えている間に、その鋭いくちばしが私の方の肉をえぐった。


「うぅぐあああああっ!?」

 なんで肩!?もっと柔らかそうな腹とか狙えばいいじゃん!いや、それも嫌だけど!


「ひぐぅ、い、ふぅ・・・」

 痛い痛い痛い痛い痛い!嘘、もう嫌だ。なんで私がこんな目に合わないといけないの!女神様、あんまりだよ!


 やめて、もうやめて!


「いやだ・・・もう、やめて・・・」

 たった一撃で、私の心は折れた。早すぎるだろう、一撃くらいでという人がいるなら、私はその人の肩にナイフを突き刺してやる。


「うぅ・・・いだい・・・うっ、うっ・・・」

 だらだらと流れる涙と鼻水。息ができない。


「ガル・・・ガホ、グハ!?」

 生暖かいものが上半身にかかった。臭い。血の匂い・・・獣が吐いた?


「ガガガガガぐああああああああ!!!!」

「ぐふっ、ゲホ、ガホ。」

 バタバタと獣が暴れる音が聞こえ、私の腹を獣が踏み、私は痛みと吐き気が込み上げてきた。


「ガ、ガ、ガ、グガァ・・・ガホッ。」

 ビシャビシャと水音が聞こえ、獣が倒れる音が聞こえる。

 痛い・・・肩がいたい。苦しい、息ができない。お腹が痛い、気持ち悪い。どうして、誰か、助けて・・・


 森に光を届ける太陽は、真上。仰向けになった私は目を瞑った。

 眩しい。痛い、苦しい。寒い・・・


 ズキン、ズキンと痛むからだ。心臓が動くたびに、血が流れ痛みを感じるようだ。痛い。もう嫌だ。

 異世界に来て10分。すでに私の心は折れた。


 全く、なんでこんなことになってしまったのか・・・それは私にも彼にもわからないだろう。




 私たちは、唐突に白い空間に放り出された。私たちは、初めてであって、力を分け合って異世界に行くことになった。なぜかは知らない。


 宝玉芽たからたまめ、それが私の名前。それを証明する学生証は、同じ運命を共にする早稲守わせまもる・・・守君に託して、私は彼の学生証を持っている。

 もしも、元の世界に戻れたら、お互いの両親に遺品として渡すという約束と、また再会できる様にと言う思いを込めて交換したけど・・・ごめん、1日ももたなかった・・・


「・・・い、たい」

 慣れたのだろうか、どうにかなってしまいそうな痛みは変化し、息も少しだけしやすくなったような気がする。

 しかし、かゆみを伴い始めた痛みに顔をしかめて耐える。かきたいけど、かいたら傷口が広がるし、絶対痛い。


痛みが治まってきたが、疲れが出たのだろう。意識がもうろうとして、自分がどこにいるかもわからなくなってくる。ぐるぐると体を転がされているような、前転や後転などをしたときのような、定まらない感じが気持ち悪い。


 ザクザクと、砂の混じった葉っぱを踏みしめる音。

意識を飛ばしかけた時、規則正しい足音が聞こえた。


「・・・か、いる・・・の?」

「生きているのか?」

 かろうじで出した声に答えるものがいた。助かったとなぜか思った。誰かが答えてくれたとしても、それが助けだとは言い切れないというのに。

 何か、話さないと・・・駄目だ、もう意識が・・・

 体が重く、口も重くなって開きそうにない。意識も沈んでいく。


 怪我をして、血を流して、痛くて苦しくて。最悪の状態になった私は、遂に意識を飛ばした。



 これが、異世界初日の最悪で最高の日。

 死にかけてひどい目に合ったけど、アドミスに出会えた最高の日ということにしておく。






ギャルゲ式無差別テイマーもよろしくお願いします!



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