凡人の願い
いつからこんな人生を送る羽目になったのだろうか。
鼓膜が破れるくらいの発砲音が絶えず辺りに鳴り響いている。
遮蔽のための樹にもたれかかり、額の脂汗を手のひらを押し当てて拭う。
ここで樹と共に眠れたらどれだけ楽だろうか。
しかしそんなことを言える立場でもない。
隣の樹にいる男は恨めしそうな目でこちらを見ている。
俺と同じ服を着ているが、右腹には大きな赤黒い染みが出来ていた。
覚悟を決め、顔を出そうとした瞬間。
甲高い金属音と共に跳ね返った銃弾が首を掠めた。
体からどっと汗が吹き出し、体温が一気に上がる。
鼓動と脈動の音が聴覚を支配する。
一瞬息が出来なかったが、その後すぐ呼吸が荒くなった。
しかしその時、
服の隙間に氷でも入れられたかのような冷覚を覚えた。
正確に記すと肋の間に金属が張り付いたのだ。
首を掠めた銃弾が断ったロケットペンダントのチャーム部分。
中を開くと妻と子供の写真。
それを拾い、握りしめる。
心の底から生まれるのは、燃え盛るような勇気。
なんかではない。
ただ、生きてもう一度会いたいという切望。
体の末端から末端までを支配する恐怖。
握りしめたチャームを額に持っていったが、金属の匂いが酷かった。
溢れた涙は妙に熱く、妙な味がした。
まだ、死ねない。