我、異世界カラ帰還セリ!(秋刀魚の課題)
世界は救われた…。
4つの大陸と3つの海を支配していた、魔王は今ここに滅んだ。
幾多の試練を乗り越え、多くの犠牲を払いながらも、彼と三人の仲間は最後まで諦めなかった。
魔王の居城に乗り込み、四天王と呼ばれた四体の魔人を倒し、そして、最後に彼の聖剣が魔王の体を貫くと、彼の体は光に包まれていった…。
「やっと終わった…。これで俺の役目も終わりだ…。」
満身創痍となった体から感じる痛みも、今はどこか心地良い。
彼は成し遂げたという満足感に満たされていた。
朧げな意識の向こうから、何者かが労いの言葉をかけてきた。
聞いたことのある声だ。
そうか、この世界に転生した時に聞こえた、あの声だ。
「勇者よ、よくぞ魔王を倒してくださいました。
あなたは約束通り、これから元の世界へと帰ります。
お礼として、あなたに一つだけこの異世界から何か持って帰っても構いません。」
「本当なのか?それは。」
彼は少し考えた後、一つだけお願いをした。
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眩しい光が消えた後、目の前の広がる世界は懐かしい喧騒に包まれていた。
そういえば、こんな世界だったよな、と。彼は改めて実感した。
街を行き来する人波や生活の音、都会の汚れた空気がなにもかも懐かしく感じられた。
彼は時計を見た。
時刻は1時46分。彼が異世界に召喚される寸前に見た時間より少し早い。
掌に固い感触があるのに気が付くと、ゆっくりと開いてみた。
中には、紅の宝石が埋め込まれた小さな指輪が一つ。
彼が最後に頼んだものがそこにあった。
彼はすこしはにかむように微笑むと、掌をを天に翳し、こう叫んだ!
「我ハ帰還セリ!」
その言葉とともに、指輪に込められた呪文が発動する。
紅の宝石から瘴気ともいえる暗黒の渦が巻き起こると、彼の全身が飲み込まれていく…。
死者の指輪。
その指輪はかつての異世界でそう呼ばれていた。
その指輪を使用した者は、生者としての肉体を捨て、不老不死の存在へと転生する。
あらゆる魔法を行使することができ、また霊体でもあるために、いかなる物理的な攻撃を一切受け付けない。
彼は願ったのだ。
元の世界に戻っても、家族もいなければ、友達もいない。
お金もない。
仕事もない……。
そんな世界に、彼はそもそも戻りたくはなかったのだ。
だから、願ったのだ。
終わることのない永遠の命と、強大な力が欲しいと!
暗黒の渦が消えさると、彼は異形のモノとなっていた。
薄褐色のボロを纏った骨だけの体を、黒い霧が覆っている。
「我こそは死者の王! 新たにこの世界を統べる者!」
彼は心の底から咆哮した!
そして、内から溢れ出る力に歓喜した!
「さて、では最初にこの町から滅ぼすか。」
彼が手をかざすと、街は一瞬にして灰へと変わった。
なんという力だろう。彼は自らの行いに狂喜した。
その時、彼は灰へと変わった街の中に、ただ一人立ちすくむ人影があることに気づいた。
人影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
まだ若い青年だ。
そして、彼は驚愕した。その若い青年が手にしているものに。
その瞬間、彼の肉体は両断されていた。
切り離された胴体が炎に包まれながら弾け飛んだ。
物理的な攻撃が通じないはずのこの体が霊体ごと切り裂かれていた。
「そんなバカな…。」
再生すら許さない、絶対的な消滅をその身に受けながら、消えゆく意識の中で、最後にその青年はこう言った。
「こっちの世界に帰る時、なにか一つ持って行っていいっていうからさ。
この聖剣にしたんだ。
早速使えて良かったわ。」
すみません。微修正しました。
この課題を出されたとき、僕は話の通り「リッチー(アンデッド)」に転生する為のアイテムを持っていくと答えました。で、その後はどうするんだ? って話になった訳ですが、その答えが「南国でバカンスかな?」でした。
わざわざアンデッドになってそれかよ! って突っ込まれましたが、まぁそんな感じです。