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第1章「巨人殺し-Giant killing-」 参 駆引

 アデルは大剣のドラ子を振り、攻撃を避け、ヨーは氷というよりも冷気によって、巨大猿を翻弄する。それでもアデル自身は巨大猿の素早い動きから、たまに攻撃をもらってしまう。


 ヨーには対しては距離が離れているため、巨大猿が攻撃しようと近づくとヨーは全力で離れて、その背後をアデルが狙う。


 巨大猿は仕方がなく、アデルに専念するしかない。それに飽くまで冷気は搦め手なので、今は無視している。


『答えなくてもいいから、ちょっと聞いて』


 ドラ子はアデルに話しかける。その会話はヨーにも聞こえている。


 ヨーはドラ子が喋ることを知っているし、その精神的な流れを読み取っている。だから、ヨーは会話を聞き取ることができる。


『先ほどの傷口。もう出血が止まっている』


 確かに始めに傷を負わせた腕からは出血が止まっていた。それでも毛に追われていて、傷口自体はよく確認できない。


『回復力を甘く見ていると大変かも』


 確かにアデル自身、何度と斬りつけているのに巨大猿の動きは鈍ることはなかった。それに出血量も思ったよりも少ない。地面に零れた血もそれを証明している。


 巨大猿の巨体は見かけだけでなく、防御力と回復力はドラ子の攻撃力を上回っているのだろう。


 また、アデルは大剣に慣れていない。技能的にも補えていない。


 むしろ、アデルは巨大猿からの攻撃であちこちに痛手を負って、動きにも支障を来している。


『こちらも回復しておく』


 ドラ子には雀の涙ではあるが回復能力もある。ただ、この力の源は元をたどれば、装備者のため還元しているだけなのだが。


 そして、アデル自身も回復薬を所持している。こちらは多少、無理矢理に痛みを治すことが可能である。


「……まだ、いい」


 とはいえ、かなり状況は良くない。この発言もアデルの強がりが大きい。


 巨大猿にしても状況は悪いが、アデルと比べればまだ余裕があるようだ。ただ、逃げるそぶりはなく、命を奪おうとするアデルに対して、今後の憂いためにもトドメを刺しておきたい。それが巨大猿の今の判断だ。


 だから、アデルに攻撃を仕掛けてくる。


 だが、この状況下もまだアデルの想定の範囲内。


 切り札もまだ明らかにしていない。ヨーも今のところ、無傷。満身創痍はアデルのみで、敵もまた、そこそこ追い込まれている。


 アデルからすれば、上出来な状況。


 そもそも、アデルの格からいえば、巨大猿を相手にするのは無理がある。


 本来なら、それなりの格の人間が五、六人で前衛、中衛、後衛に分かれて対応して、まだ安全に倒せる相手。


 つまり、格も違えば、人数も足りていない。


 結局の所、完全に切り札頼みであるのがよく分かる。だが、切り札頼りにしても安全に戦える要素は含まれていない。飽くまで倒せるという点だけだ。


 ヨーも想像している。いかに効率的な破壊、攻撃ができるかと。


 巨大猿を内部から凍らせるということも考えたが、さすがに抵抗されて無理であった。山にある水分から氷柱を作ろうとしたが、剣よりも小さいモノができただけだ。


 一番、効果的だったのは血だまりを凍らせ、滑らせたこと。


 それでも猿特有の器用さで転ぶことはなかった。


 アデルも氷の魔法で戦闘が完結しないことは分かっていた。ただ、有利に進められれば、それで良かった。


 ヨーはもどかしかった。


 ふだんであれば、炎、雷で何も考えず、力押しができるからだ。氷は場面によっては有効に使えるが、大抵はいかに使うかを考えなければならない。


 ヨーの性格では本来、繊細さを求める魔法は不向きな部分がある。何しろ、人間であれば、知識と繊細で魔術、魔法は扱うモノだが、悪魔であるヨーには息をすると同じこと。


 それは泳ぎの息継ぎ、もしくは歌い方を聞かれても、ただ、息をするだけできているヨーには知らない、分からない話だ。


 それにヨーにしても、切り札はある。それで現状を打開することはいとも簡単で、容易だ。ささやかな捧げ物がモノを必要ではあるが。


「……さあ、どうするか」


 ヨーはつぶやいた。


 そんな様子を客観的に眺めていられるドラ子は特に何も言わなかった。


 自身の切り札はもちろん、ヨーの切り札で流れが変わることは分かっていた。少しアデルの体への損傷はひどくなっているが、回復方法があるので危機的状況でもない。


 むしろ、問題は巨大猿の方だ。


 幾ら優勢であっても、死ぬ気でかかってくる敵に何処まで相手をしていられるか。獣にとって、そのような行動は恐怖でしかないだろう。命とは散らすモノではないから。


 逃げることも容易である以上、その選択もしてくる頃だ。


 ここで逃げられると、次に巨大猿を見つけ出すのは難しくなるだろう。何しろ、この手の獣は警戒心は強く、学習能力も高い。


 たとえ、警戒していても、策略で油断をさせることができる人間の方がまだ楽である。


 それで人前に出なくなるというのであれば、それもそれで有りだろう。だが、あの巨体を生かすには、この山の食料等はいずれ足りなくなるだろう。そうなれば、近くて暮らす住人には実害や危害が出てくるのは確定だろう。


 やはり、ここまで来れば見逃すという手はない。


 ドラ子はアデル、ヨー、巨大猿ともに勝負に出てくるのは、そろそろだと感じ取った。


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