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第1章「巨人殺し-Giant killing-」 弐 戦闘

 巨大猿に対して、アデルは剣戟を振るう。


 大剣のドラ子を振るうだけに速さこそないが、長さで補っているので、結果としては十分である。これで巨大猿の腕の長さにも負けていない。


 だが、巨大猿は素早さを有している。緩やかな動きの前では隙と判断されればすぐさま、巨大猿のおかえしをもらう。


 拳による打撃ではあるが、体格と体重差からアデルをいとも簡単に吹き飛ばす。


 アデルの装備している鎧は特殊なモノだ。


 主流である金属や革製などではなく、特殊な繊維で作られ、中には繊維等を詰め込んだ上着である。これによって衝撃を防ぐ。また、特殊な繊維は刃による攻撃にも対応している。


 そして、何より金属よりも軽く、動きやすさも阻害しない。


 実際、見た目も鎧といった印象はない。ただの上着としては変わっていると思われてしまうのが難点。


 それでも防ぐだけで、損傷がなくなることはない。打撃は軽減され、吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ際の威力も押さえる程度。


 だが、負傷は押さえられたことで、すぐさまアデルは剣を構え、巨大猿に立ち向かう。


 これだけでも十分な効果である。下手に痛がっていては他の援護、支援がなければ、即、死が待っている。


 また、この防具の優れている点は、金属板を挟むことで更に防御力を上げることも可能。当然、重量は増すが想定される戦闘において、より最適な選択ができる。


 今回の場合、想定される攻撃は打撃が主。


 もし、噂が本当で巨人が剣を装備していた場合は、そもそも対応できる鎧はそうそうない。その場合はアデルはその情報だけ確認して、逃げるつもりであった。


 さて、そんなアデルの様子をヨーは楽しそうに眺めている。


 眺めているだけなので、巨大猿も今のところは手を出すことはない。


 ヨーの衣装は赤を基調として、質素でありながら、要所では金糸や金ボタンなどの豪華さを強調している。そして、上半身は身体に沿わせているのに、下半身のスカートは大きく膨らませていた。


 そもそも、このような山登りや戦闘に想定された衣装ではない。


 むしろ、社交場であっても、実用に耐えうる服飾ある。


 また、装飾品も身に付けている。そこにはささやかな魔法による付与されているが、戦闘などに役立つモノではない。


 そもそも、ヨーの容姿は誰もがときめくような美貌である。そして、艶のある黒髪。その量のある髪を後ろで器用にまとめている。それらが、この衣装は更に引き立てている。


 声や姿から、あどけなさを残す少女と感じさせたが、どこかで妖艶さを持つ。


 だが、そんな妖艶さは戦闘には役に立たない。今は戦力が大事な場面。


 * * *


 では、そんなヨー・メリット・エイリアスとは何者なのか。


 ここまでも幾つかの情報が出てはいるが、アデル自体はそれらの情報に身を持って知っているため、答えのみ言ってしまおう。


 ヨーはこの世界とは別の住人、それは悪魔と呼ばれる存在である。


 そのため、大きく膨らませたスカートの中には尻尾がある。それも三つもだ。スカート自体が膨らんでいるのはファッションとしての側面もあるが、この尻尾を隠すための目的の方が大きい。


 また、その別世界の住人であるが故、このような衣装でも山歩き、果ては戦闘でも極端に不利となることも少ない。


 実際、素での防御力、体力面は少年であるアデルを凌駕している。


 後、ヨー・メリット・エイリアスの名前はこの世界でも意味が通じづらい。何が姓で、何が名か、そもそも三つの単語の順に何か意味があるのかなど。


 だから、この世界の住人がこの名前を聞くと別の国から来たのかと思うほど、違和感があるのである。


 当然、このヨーの名は、世を忍ぶ名前である。


 そして、歳を基準にすれば、少女というのは遙か昔のことである。その容姿も歳で変わることなく、自在に変化させることができる。まさに妖艶である。


 * * *


 実際、秘めているのは妖艶さだけではない、魔力もある。それを駆使するための独自の魔法も使える。


 使える属性は炎、雷、氷。


 ただ、問題はこの山の中では炎は山火事となるため現状、使用不可。


 雷もうまく制御しないと、木の方に雷は引かれてしまう。森の中で素早い相手に使うには、よほど接近しないと当てることは難しい。


 結果的にも、この山では有効的、安全に使えるのは残った氷のみ。


 氷による属性効果は巨大猿は期待できないが、それでも攻撃手段としての有効である。


「どうする。そろそろ、援護がいる」


 ヨーはのんきに尋ねる。そんなアデルは巨大猿の攻撃を避けながら、大剣のドラ子を振るっている。とても、返事に答えている暇はない。


 だから一旦、巨大猿との距離を取る。


「初めから欲しかった」


「なるほど」


 ヨーはようやく立ち上がり、巨大猿に向けて手を伸ばす。


 そんなやり取りをしていても中でも、巨大猿はアデルの方に集中している。言葉を理解できない以上、動きのみで警戒の有無を判断していたからだ。


 また、巨大猿は魔力の流れもわずかに感じられる程度。現時点では危険性を認識はできない。


「とはいえ、『氷』は使いづらいのだけれど」


 ヨーは想像する。目で見える範囲が凍る世界を。しかし、凍る世界とは想像し難い。


 炎や雷では想像は楽だ。ただ、火や電撃によって破壊を考えればいいからだ。


 氷は同様では想像が破綻する。飽くまで凍らせることがヨーの使う『氷』の魔法。しっかりと凍ったときを考え、それを攻撃、破壊とする方向性に結びつける必要がある。


 簡単なのは氷をぶつけることだ。


 しかし、大きな氷をぶつけるためには、それを作り出すだけの水が必要。確かに、この山ではそれだけの水は存在するだろうが、目の前にはない。


 ひとまずは大気にある水分を凍らせ、相手へと解き放つ【吹雪】とする。


 大きな攻撃源ではないが、急激な温度変化により体調を崩し、視界を遮るぐらいに有効な手。


 アデルもその隙に攻撃を仕掛ける。


 それによってようやく、腕に出血が出るほどの派手な損傷を与えることができた。


 アデルが考えていた戦いはこれでようやく整った。


 そもそも、アデルは噂からも相手が何か分からなくとも、相手は単独であることは分かっていた。


 そして、巨人にしろ、巨大猿にしても人型である以上、体格差があるにしても一体であれば二人を同時に対応するには難しい。


 それにヨーは離れてもいても、魔法を使える。


 体格差もドラ子の変化によって、対応できる。


 この状況でも正々堂々と戦うだけで、巨大猿に対して優位性が計れる。


 そして、アデルが持つドラ子には切り札となるモノが更に隠されている。


 つまり、策が全くないわけではなく、正々堂々でも問題ないのだ。相手がはっきりとした時点で、アデルにとって勝てる見込みは確証に変わっただけだ。


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