表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/53

第3章「学者と話してみよう/職人と話してみよう」 壱 訪問

 目的地はアデルの予想を裏切るほど、普通の家であった。しかも、王都だけに家といっても共同住宅。本来、学者や【星見】という要素から、アデルは豪邸、もしくは郊外を想像していたからだ。


「ほら、びっくりしない」


 ターニャにもその点を指摘され、叱られる。


 そして、ターニャは扉を叩く。少し乱暴だが、相手に来訪したことを示すにはこの方法しかない。ただ、あまりやり過ぎると共同住宅だけに隣の人が出てくる場合もある。


「かえって、こういう場所の方がバレないモノよ」


 ターニャはそう漏らして、相手が出てくるのを待った。


 アデルもひとまず納得して、待つことにした。


 待っていると扉は少しだけ開き、少女が顔を覗かせていた。


「ターニャです。お話はしておりますので、御主人にお取り計らいを」


 この少女とターニャは前回にも顔を合わせている。だから、少女は扉を開いて、家へと招き入れる。


 だが、少女は終始アデル、いや、少女からすれば見知らぬ男性に警戒しながら、向かい入れる。そして、家の中に入ったのを確認すると扉に鍵をかけた。


 逆にアデルはその行為に警戒する。


 ターニャは二人のやり取りを見て、話しかける。


「失礼、彼は私の護衛ですので」


 そう、少女に言った後、ターニャはアデルの方を向き話しかける。


「貴方も少しは察しなさい。そういう場よ」


 アデルは警戒を緩め、察する。つまり、敵地に招き入れた客人な訳である。少女が見慣れる相手に警戒するのは当然だろう。


 そして、アデルは違った意味で気を引き締める。


「ひとまず、ここで待ちますので」


 ターニャはそういい、家の入り口で待つことにする。アデルもそれに従う。


 今はまだ家に入ることだけを許されただけ。恐らく、あと一歩、踏み出せば少女から何をされるか分かったモノではない。アデルにはそれを感じ取っていた。


 この少女は自分と似ている、と。


 それにそもそも、ドラ子ともう一本の剣を腰に身に付けている。それを警戒しないわけには行かないだろう。


 何も言わず、その少女は家の奥へと行ってしまう。


「……今ので察した」


 アデルは小声で話す。


「ここの主人の方はまだ冗談が通じるから、安心していいわ」


 ターニャの方は控えめな声で返した。だが、それ以上は会話を求めない雰囲気を出している。


「取りあえず」


 アデルはそう言って、ドラ子を含めた二本の剣をひとまず外した。


「意外に面倒ね。二本持ちは」


 その様子にターニャはそう漏らした。そして、まだしばらく待つ。


 アデルはすぐに案内されると思い、剣を外したが、こう待つ中では二本の剣を持っているのは少し恥ずかしさもあり、疲れる。


 ひとまず、一旦壁に寄り掛けておこうかとも思ったが、その瞬間をあの少女に見られることを思うと照れくさい。


 ターニャは黙って立っている。


 しかし、アデルはただでさえ、武具を装備した上で荷物まで背負っている。その重量に慣れていないわけではないが、ただじっと待つのには辛い。


「お待たせしました、主人がお会いになるそうです」


 アデルはようやく待っていた場面に、心の中で安堵する。


 少女は手を差し出し、奥へと誘導する。


「これを置かせてくれ」


 そうして、アデルは剣を少女の方へと差し出す。敵意のないこと、武器を持っていないことの証明だ。


「では、預かります」


 そう言って、少女は剣を両手で抱える。今はまだアデルも持っているため、その重さは感じることはないが、少女が持つには結構な重さだ。それに二本もある、なおさらだ。


「重たいぞ」


「大丈夫です」


 アデルはゆっくりと剣を手放す。用心のためだ。少女は態勢を変えることなく、剣を受け取ると机の上へと置いた。


「では、こちらへ」


 アデルは変な気持ちとなる。いい所がないからだ。少し大人じみた所をやってみたかったのに、と。


 ともかく、気持ちを切り替えて、学者への対面に向けて集中させる。


 少女から案内された部屋に入ると、男性が立って待っていた。


 部屋は広い机が中央に置かれ、横に置かれている棚には紙や本が乱雑に積まれている。部屋自身にも同様に紙や本が散らかっている。


 ただ、机に関しては今片付けたのか何も置かれていない。そして、男性に対面するように椅子も置かれていた。つい先、用意していたのだろう。


「ターニャさん、御無沙汰しています」


「こちらもです。ライアンさん」


 男の名はライアンというらしい。何処までこの名前に真実があるか分からないが。


 歳はもっと年配かと思っていたが、外見ではまだ若いといえるところ。


「彼は護衛も兼ねていますが、例の鎧で協力を頂いています」


「うちで働いてもらっている子と、さほど変わらないのに」


 ライアンは感心していた。それはアデルを子供といって馬鹿にしていないからだ。そして、先ほどの少女と比較してもあるだろう。


 アデルは余計に気を引き締める。


 このライアンという男は、どうであれ経験豊かな人間である。アデルの経験、年の功では劣る所が多いことを感じ取った。


「では、早速」


 その言葉にアデルは背負っていた袋を下ろし、中から『胴着鎧(ボディアーマー)』を取りだし、机へと載せた。その後で一同は見合わせて椅子へと座った。


「前回では素材の加工までだったが、ようやく形になりましたね」


 元より、構造等に関してはライアンが【星見】より紐解いた知識からなので、この鎧を見ても違和感や不思議がることは当然ない。


 そして、繊維である鎧の材質を触れて確かめる。


「ええ、元より構造時点で作りやすいので、素材加工さえ解決すれば、制作はすぐにできました」


 胴着鎧(ボディアーマー)の構造はほとんど服に近い。ターニャが語る通り、作ること自体は難しくはなかった。ただ、防御力の要の特殊な繊維には相当苦労をしたが。


「先日、名前を付けていまして、『胴着鎧(ボディアーマー)』としました」


 ターニャはこの間、決まった名前も披露する。その言葉にライアンは少し驚いた。


「……いや、しっくりとくる名前だね」


 * * *


 そもそも、この『胴着鎧(ボディアーマー)』だが、何となく感じ取っている人もいるだろうが、はっきり言えば銃弾等を防ぐボディアーマーを【星見】で得た知識を参考にしたモノである。


 そして、ライアンが少し驚いた理由だが、名付けられた名前が【星見】からの得た知識と類似したことだ。


 その名前は偶然なのか、意図的な力が働いたのかはライアンには分かっていない。


 だから、奇妙な一致に驚いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ