第2章「狼退治、承ります」 五 始末
アデルは物思いから切り替え、人狼の死体を観察することにした。
「人狼の毛皮を含めて、人狼は魔法道具の素材としても価値は高い。こいつは格は低いだろうが、それでも毛皮だけでも、そこそこの価値はあるだろうな」
まずはありきたりな感想である。しかし、アデルの考えはそれだけではない。
人狼にとって毛皮だけでなく、その牙、しまいには臓物も魔法道具の材料として使われる。また、肉は人間が食べることはそうないが、魔物を相手にする者にはいろいろと有効に使われる。
だが、アデルには動物を捌くことはできるが、魔法道具として使うのに適した捌き方はしらない。それに捌いたところで臓物に関しては鮮度を保てない。
この村に魔法道具の専門家がいれば、別だが。
つまり、このままでは人狼の毛皮ぐらいしか、価値がないことになる。
「ヨー。悪いが、後でこいつを凍らせてくれ」
アデルはそう語った。
「人の魔法を便利な手段にしないでよ」
ヨーが使える魔法には氷がある。当然、攻撃にも使えるが、日常生活に置いてはその便利さは並み外れている。何しろ、鮮度を落とすことなく、輸送が可能だから。
これに関しては魔術師がいれば行われ、食品輸送によく使われる手法である。
「それよりも、ここから分かることはあるか」
アデルには人狼に関する知識はそれほどない。当然、これが人狼か狼の違いを判断するだけの観察眼はあるが、これがどのように生まれた魔獣なのかは全くの専門外である。
ただ、形状からも狼から成った、人狼。よくいえば、まだ人狼としての特徴よりも狼の姿に近いため、成長過程ではあったとは推測できる。それが何を意味するのかは分からないが。
「これだけじゃ、私も分からないわ。ただ、巨大猿の件とはやっぱり関連はありそうね。発生した時期が近いそうだから」
確かに巨大猿に関しても、話題になったのはここ最近のこと。この人狼も成りかけ。時期は似ているというのは間違いなさそう。
また、前から分かっているように場所は離れているが、山としては繋がっている。
つまり、起因が同じと考えても問題はなさそうである。どちらにしろ、その起因までをこの人狼だけで調べるのは難しいだろうが。
「素材がてら、〈マリーの店〉に調べてもらうのがまだ手堅いか」
〈マリーの店〉はアデルが知る道具屋、魔法道具にも造詣が深く、腕もいい。そういった知識からも分かることはあるだろう。
「まあ、ひとまずは今回はこれで終わりかしら」
実際はこれでこの騒動は終わりだが、アデルにはやることがまだ多くある。ひとまずは終了の報告。
「取りあえず、村長らを呼んでくる」
アデルは村長や猟師などを集め、今回の騒動の結末を見せた。
「人狼が相手だったとは」
「恐らくはこの二匹だけでしょうが、今後も少し注意はしておいた方がいいでしょう。狼自体はこの一件で寄り付くことは少ないでしょうが」
それでこの村は安堵に包まれた。そして、アデルは尋ねる。
「過去に、こういったことは」
「さあ、大熊や大イノシシなら爺様らに聞いたことがありますが」
それでも魔獣と大差がない相手である。とはいえ、魔獣とは違い、罠などで対処が可能なため、強くとも村人でも何とかなる相手。
魔獣は知恵があるため、罠が効果が薄く、身体の能力も高いため、対応する側もそれなりの格が必要となってくる。
「……魔獣が発生しやすいわけでもないのか」
アデルは小声でつぶやく。
魔獣は自然発生的に生まれることはある。それでも魔が溜まりやすいなど場所などによる。つまり、前回にも起きていれば、日常的な問題があっただけだ。
「取りあえず、夜も更に更けてきましたから、今日は休みましょう。ここまで騒ぎや違った意味で血の臭いがあれば、並の獣も寄ってくることはないでしようから。まあ、私達も少し警戒しておきますので」
ヨーは落ち着いた感じで、そう語る。誰もがその意見には賛成だった。
何しろ、夜で、暗い中、死んだ人狼を横に何かを語るというのは、あまりいい気持ちではない。
問題がないのであれば、安らかに寝たいのは誰も同じ考えでもある。
「ひとまず、後始末などは明日ということで」
人狼の死体は氷漬けにして、ござに包んで家畜小屋には移動した。
家畜が騒ぐことも考えたが、氷漬けによって、何も感じられることはなかった。そして、その横でアデルも横になる。この時期にして、少し涼しいぐらいで問題はなかった。




