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うちの宮廷は複雑怪奇にて  作者: 夏林
建平25年 秋~冬
5/6

水面下の戦い

遅くなって申し訳ありません。

 (タン)宮人が女官に促されて秋殿へやって来たところで、宋詩安(ソン・シアン)は夫人たちに秋殿の正殿である菊の間から出ないように厳命し、王妃付きの侍女に命じた。

「曼荼羅華以外にも、疑わしいものがあれば、ひとまずここへ持ってきなさい。(イェ)夫人も、いいわね?」

 (イェ)夫人は、明らかに(タン)宮人を意識しつつも、すました顔でお茶を飲む。

「ええ、疚しいことなどありませんから。王妃さまが私の無実を証明してくださると信じております」

「では、夏殿は謹妙(ジンミャオ)に任せるわ。しかと調査なさい」

 謹妙(ジンミャオ)は一礼し、数人の女官を引き連れて出て行った。

 (タン)宮人は、謹妙(ジンミャオ)らが秋殿から出て行くと、こらえきれないといった雰囲気で(イェ)夫人を見て、くすり、と笑った。

「あら、私の顔に墨でもついているの?」

「いいえ?(イェ)夫人は堂々としておられますのね」

「含みがあるわね?言いたいことがあるならはっきり言えば良いわ」

「含みなどと・・・・・・考えすぎですよ。それとも、思い当たることでもあるのですか?」

 (イェ)夫人の機嫌は急降下し、(タン)宮人を無視することにしたようだ。その態度を見て、ますます(タン)宮人は上機嫌になる。

 身分の関係とはいえ、(タン)宮人の隣に座らざるをえなかった(タン)宮人は居心地が悪そうだ。(タン)宮人は、他の夫人たちと交流がなかったことも関係しているのか、自室である冬殿の蘭の間に引きこもることが多く、ほとんど外に出てこないのだ。宮人となった彼女とお話しでもしようと何度か呼び出したことがあったが、何をするにも震えて萎縮する彼女がかわいそうで、最近は呼び出すことも少なくなっていたな、とぼんやり考えた。

 そんな彼女は、険悪な雰囲気を感じてすっかり縮こまっている。

 親王妃としても、これ以上雰囲気が悪くなることは避けたい。

「もう、おやめ。・・・・・・(タン)宮人」

 同じ発音の(タン)宮人がビョン、と椅子から飛び上がった。

 呼ばれた(タン)宮人は、口を噤んで静かに椅子から立った。王妃の前で(イェ)夫人に嫌みを言ったことを後悔しているのだろうか。・・・・・・今更後悔したところで、王妃として言うべきことは何も変わらないのだが。

 宋詩安(ソン・シアン)は、目を細めて「お叱りの言葉」を放つ。

「証拠があるならともかく、証拠が無い今の状況で、(イェ)夫人を疑うつもりなの?もしや、宮人の身でありながら、夫人を中傷したとして罰を受けることになってもいいのかしら?」

 宋詩安(ソン・シアン)は、敦親王府の女主人として、夫人から使用人まで、罪を犯した敦親王府の者たちを処罰する権限が与えられている。

形式上、宮人は妻ではなく上級の使用人と同じ扱いである。仮に、(タン)宮人が罰を受けることになれば、夫人を中傷した使用人としての罰になる。軽くても1ヶ月の俸禄停止になるだろう。

 罰、という語を聞いた(タン)宮人は、気まずそうに頭を下げる。

「申し訳ありませんでした。私が浅はかでございました・・・・・・(イェ)夫人にお詫び申し上げます」

 (イェ)夫人は謝罪を受け取ったものの、まだ機嫌が悪いようだ。

(イェ)夫人、貴女もよ。(タン)宮人の行いは確かに褒められたものではないけれども、だからといって喧嘩はやめて。敦親王府の夫人として、冷静さを欠いてはいけないわ」

「・・・・・・努力いたします」

 ここで従順に「はい」とは言えないのが(イェ)夫人だ。それでも、「努力する」と返事をしたということは、ひとまず宋詩安(ソン・シアン)の言葉を受け入れることにしたらしい。

 (ほんの少しではあるが)譲歩の姿勢を見せた葉夫人を見て、そして、先ほどから「(タン)宮人」と言う度にビクッと肩を震わせていた(タン)宮人を見て、困ったように微笑んでおいた。



なお、人物名については、前に投稿した分もあわせてフリガナををつけてみました。

少しでも中国らしい響き(?)を感じていただけたら嬉しいです!

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