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この赤い精霊に、すごく興味が湧いた。
「ねぇ、赤い精霊さん。私についてくる気は無い?」
赤い精霊「あ?びっくりした、人間かよ。なんで俺らの言葉が分かるのか知らねーけど、俺はなんのやる気もねーよ。」
「そうらしいね。なんでそんなにやる気がないの?」
赤い精霊「お前に関係ある?」
「あるわよ。何故なら、あなたの望みがだいたい分かるから。そしてそれを叶えてあげることもできるかも。」
今まで、洗濯機の上に寝転んでくつろいでいた赤い精霊が、体勢を変えてこちらを見た。
赤い精霊「ふーん。じゃあ言ってみなよ。」
「いいわよ。まず、あなたたちの仕事は、呼ばれたらすぐに駆けつけて、言われた通りに力を使うこと。ここまでは合ってるかな?」
赤い精霊「ま、そんな感じだね。」
「でもあなたは不満なのよ。なぜなら、あなたは自分の好きな魔法を放って楽しみたいから。なのに自分の意思とは全く関係のない下らない魔法のエネルギーにされることがほとんど。あなたはつまり、退屈なんでしょ?」
赤い精霊「ははっ。これは驚いた。なんで分かった?」
「あなたを見てれば分かるわよ。強い意思が感じられる。ウズウズしてるでしょ?もっと強く大きな精霊になって、最高の魔法を放ちたいとは思わない?」
赤い精霊「へーえ。こんなに面白い人間もいるんだな。騙されたと思ってお前についていってやってもいいぞ。お前が俺の意思を尊重してくれる限りはな。」
「ええ、もちろん。これからよろしくね。私はアヤっていうの。あなたは?」
赤い精霊「名前なんてねーよ。好きに呼べば?」
「じゃあ、コウって呼ぶね。漢字は紅。」
紅「はいよ。」
さてと、この子を育てないとね。
「ねえ、紅。どうやったらあなたは早く強くなれるの?」
紅「俺もよくわからねーけど、いろんな奴に使われてるうちにだんだんと強くなってる気がする。」
「なるほどね、魔法を使うほど強くなると。」
紅「いや、それよりは、食べ物だな。」
「食べ物?」
紅「ん?自覚ねぇのか?お前たちが精霊の食べ物を周りにチラつかせてるじゃねーか。お前も今10個もってる。」
「なるほどね、ありがとう。意味が分かったわ。つまりあなたたちは、協力する代わりに1つ食べ物を食べているわけね。」
紅「まあそうなるな。あの食べ物を食べると少しずつ強くなってる気がするんだ。」
「じゃあさ、もっといっぱい食べればいいじゃん。一個と言わずにさ。強くなりたいんでしょ?」
紅「いや、1つまでっていうルールだしな。少なくとも今の俺の力では。」
「へーえ。あなたも大概真面目じゃないの。そんなルールを律儀に守っているんだから。」
紅「たしかに、、、。なんで今までそんなことに気がつかなかったんだ。なぜか、絶対に破れないルールな気がしていたんだ、、、。」
「ふふ、洗脳が解けたわね。あなたは多分、そうやって【命令】されていたのよ。神さまとかそんな上位の存在にね。
多分、全ての精霊たちがそうでしょうね。なんの目的でそんなことになっているのかは分からないけど。」
紅「そうなのか、、、。」
「ま、というわけだから、紅。私の持ってる10個の食べ物、全部食べていいわよ。」
紅「ほんとか!?もらうぜ、二言は無しだ。」
「ええ。どうぞ。」
もう分かったと思うが、紅の言っている食べ物とは、MPのことである。
今の【観察】のレベルでは、自分の周りに漂うMPまでは見えないが、紅は空中に浮いているなにかをつかむような仕草をしては、かじりついている。きっとそこに食べ物(MP)があるのだろう。
私の予想だが、おそらく精霊たちは、この世界で魔物や人間たちが魔法を使うためだけに、神さまにコキ使われている哀れな存在。そんなところだろう。
しばらくして全ての食べ物が食べ終わると、紅は一回り大きくなっていた。ハエのサイズから、大粒のアズキくらいのサイズに。
紅「すげぇ、こんなに食べたのは初めてだぜ!力が湧く!!なあアヤ!今すぐファイヤーボールが打ちてぇ!いいよな!」
「ふふ、いいわよ。どうせならそうね、あれに向けて打ってみて。」
そう言って私は窓を開け、近所の屋根に張り付いているスライムを指差した。
紅「ほんとにいいのか!すげー、こんなに楽しい人間もいるんだな!行くぜ!」
突如目の前に火の玉が現れ、それはすごいスピードでスライムに向けて飛んでいった。スライムは一瞬で弾け飛び、飛散した破片まで焼きつくされた。
紅「ヤッホーい!こいつはたまらねぇ。俺が打ちたい攻撃魔法を打っていいとか最高だ。感謝するぜアヤ。」
「いいえ。いいのよ。打ちたくなったらまた言ってね。」
紅「ああ。たくさん食べたからまだ打てる。だけど今は余韻に浸ってるところだ。こんなに楽しいのは何十年ぶりだよって感じだぜ。」
そして脳内にはアナウンスが響いていた。
「スライムを撃破しました。経験値が一定に達しました。割り振り画面を開きます。」
ステータス画面が開かれた。
[レベルをアップしますか?]
そして私の選択は、〔いいえ〕である。
理由は2つある。
1つ目、私は極フリする性格だ。MPだけに割り振って、とにかく精霊のため、という方針を貫く。
レベルを上げてしまうと、全てのステータスがバランスよく伸びていく。全体の伸びで言えば、レベルアップの方が断然効率がいい。しかしそれでも私はMPだけを強化する。
2つ目、先のことを見通して考えたから。
この世界では、誰でも、相手のレベルを確認することができる。ステータスまで見ようと思うと専用のスキルが必要だが、レベルなら誰でも見れるのだ。
これから先、どうしても他人と協力しなければならない場面が出てくるだろう。その際、敵は魔物だけでは無い。むしろ、仲間の人間の方が恐ろしいと私は考えている。
レベルが高い相手を警戒し、脅威と見る。きっと近い未来にそんな状況が訪れるはずだ。だからこそ、わざわざ公開情報のレベルというものを上げるのは、危険が伴うだろう。
警戒されるし、手の内を明かすようなものだからだ。
さてと、というわけで、とにかくMPに極フリした。現在のステータスはこんな感じ。
●種族 人間
●個体名 アヤ
●ジョブ 【情報管理者】
●レベル 1
●ステータス
HP 10
攻撃10
防御10
スピード10
MP7/17
SP0
JP10
●固有スキル
【早熟】
●スキル
【観察】(レベル3)、【言語理解】(レベル3) 、【マップ】(レベル1)
●魔法
なし