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反撃の一歩の一歩


「つまり何が言いたいんだよ…?」


 あからさまにイラついた表情を作り、忌々しげな目つきで睨むエリックだが、カナタはそれを鼻で笑い涼しげな表情で首を回す。




「お前の能力は時を戻す、いや『起こった事象をなかったことにする能力』だよな」





 しばしの沈黙の時間が流れた後、薄暗く広い室内に乾いた拍手の音が鳴り響く。

 子供の小さな手を合わせ叩くその音は小さく、あどけなさを感じる。


「ん〜なんで時を戻す能力じゃなくてなかったことにする能力だと?」


「弾丸の数さ。俺が撃った弾は全部で5発。どれも1秒程の感覚を空けて撃った。その内の4発はあたかも撃たれてもいないように忽然と姿を消したが、最後の1発だけお前は魔法壁で防いだ。だが、おかしなことに弾丸は確かに減っていたんだ。変だろ? 時間が戻せるならば弾丸の数も戻っているはずなんだ」


「なるほどなるほど。確かに君にとってそれは単なる豆鉄砲じゃなかったわけだ。素直に感服するよ」


「それだけじゃねーよ。これから導き出される結論はこうだ。お前の能力の発動限界は5秒前後。さらに言えば連続で発動しなかったってことを鑑みると幾ばくかのインターバルが必要。……間違ってるか?」


 その問いかけにエリックは苦笑気味に首を捻った。

 敵を前にして自分のスキルの全てを明かす程バカではない。

 しかしながらカナタの推測はほぼ完璧と言っていいほど的を射たものだった。だからこそエリックはその問いの返答として苦笑という選択肢を選んだのだ。

 一見、自身の能力を暴かれて黙り込むことしかできなくなったかのように見えるが、その一方でカナタのような疑り深い性格の持ち主には他にも何かある、きっと自分の答えと事実に相違があるのだろうと思わせることもできる。

 はずだったが、カナタもカナタで導き出した自身の答えに根拠のない自信を持っていた。

 完全に自分を舐めきっていたエリックがあの状況下でエサを撒き、罠に嵌めることをするだろうか。

 エリックは見るからに自信家。そんなエリックがもしかしたら〜などと対策を取っているだろうか。

 お互いがお互いに思考を巡らせ、交錯する。


「それで? 君にはその『なかったことにする』っていう能力に対して何か対策、もしくは必勝法なんて物を持ってたりするわけ?」


「いいや、対策や必勝法なんてもんはない」


 カナタは静かに首を振る。


「できることと言えば、能力を意識するってことだけだ」


 目にかかった長い髪の隙間から薄い笑みを浮かべた口元が怪しく垣間見えた。

 挑発的でいて不敵で不気味な笑み。

 カナタの立ち姿へ無意識に苛立ちと畏怖、そして焦燥感を感じたエリックは先ほどの火球よりもさらに大きく、灰さえ残さないであろう業火を掲げた掌に浮かばせる。


「へぇ〜意識したら僕に勝てるって言うの? 馬鹿みたい」


 軽い動作で投げられた火球、巨大にして凶悪なその灼熱の太陽を前にカナタはペロリと舌舐めずりをして大剣を呼び出すとまたもや横に跳躍。

 軽やかに力強く石の床を踏み抜いたカナタだったがエリックの前において攻撃を避けることなど全くの無意味だ。

 離れたはずの火球が一瞬にして眼前に迫り来る。

 カナタが避けたことがなかったことにされた。ただそれだけだが、たった1つだけなかったことにされなかった。いや、できなかったものがあった。


 それはカナタの構える大剣。


 音速を超える勢いで縦一線に切り裂かれた火球が轟々と燃え盛りながら2つに分かたれる。

 カナタを避け、後方へと飛び去ったそれは肌を焼くような熱気をあげて辺りを炎の海と化した。


「はっは〜ん、太陽を斬った剣か。なかなかイカしてる」


 大剣を担ぎ直し、燃え盛る炎を背に己の愛刀をマジマジと眺めて得意げにカナタは言った。

 カナタの能力、『英雄の宝物庫』は出現させた武器を一度でも使わぬ限りその姿を決して消すことは許されない。

 それはエリックの能力を前にしても同じこと。初撃の時にそれはすでに検証積みであった。


「……は?」


「……は? じゃねーよ、タコ。言ったろ、銃も剣も役に立つ。実際にお前の能力を暴き、お前が不可避と得意げに繰り出すコンボを破って見せたんだ。これ以上なことがあるか?」


「……確かに銃や剣が無駄なものではないことはわかったよ。勉強になった、ありがとう」


 エリックは足を組み直し、変わらずカナタをそこから見下ろす。


「でもさ、その剣も銃も身を守るだけで精一杯。僕をこの椅子から動かすことだってできてないじゃないか。君の剣や銃は武器ではなくただの防具。元の役目を全うできない身を守ることしかできない」


 カナタは大きく肩をすくめ、哀れむような目をエリックに向ける。


「おいおい、まだ反撃の一歩手前だろ。今からお前が泣いて謝るぐらい痛めつけてやるさ」


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