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異世界の友


「じゃあ、やはりあのエリックてのは何らかの方法で『エルフしか使えない』はずの転生の魔法を用い、転生を繰り返してるってわけだな」


「うむ、お前の推測通りあのリドニア事件によって殺された少年は年齢には似つかわしくない言動とそして高等な魔法技術を擁していたと聞く。魔女として扱っても申し分のないほどのな」


「ん? 魔女ってのは男もなれるのか? 俺はてっきり…」


「たわけ。妾がそんな女尊男卑染みた政治を行うわけなかろう。実力があれば性別など関係ない。実際、過去に男の魔女は何人もおる」


「ん〜…男でも魔女なのか? 魔女って魔の女だぜ? なんかもっとあるだろ?」


「ならば、魔男とでもしろと言うのか? それこそ呼ぶ方も呼ばれる方も心地よいものではないじゃろう」


 魔男。

 どうも読みだけ聞けば、夫ある女性の不倫相手のように聞こえてしまう語感に苦笑いするカナタをリリスはカッと笑い飛ばした。


「話を戻すぞ。妾とてリドニア事件当初、憤慨し戦争を起こしてしまった張本人。今更、黒幕はあの小僧だと喧しく騒ぎ立てるつもりはないが、あの日少年の死体を見た時、何か抜け殻のような…そんな風に感じたのも覚えておる。あの時、怒りに我を忘れず冷静に思慮していればあの惨劇を呼ぶ事はなかったのかもしれんのぅ」


「それは違いますわぁ、リリス様ぁ」


 小さな身体の肩を沈ませて、自嘲気味の溜息をついたリリスを庇うように3人の元へリアナを引きずって来たベアトリスクはゆっくりと首を振った。


「きっとリリス様が止めたとしても被害者の両親を筆頭に国民は黙っていなかったでしょう。例え、リリス様が動かなかったとしても私たち魔女、特に私と…エレオノーラちゃんがその状況で黙っていたとは思えないものぉ」


「わ、わたしもリリス様は悪くないと思いますっ! だってリリス様は悪くないですもんっ!」


「リアナちゃん、語彙力しっかりねぇ〜」


「私もリリス様には感謝しています」


 豊満な胸に顔を沈められるリアナの悲鳴にかき消されそうになる小さな声でエルザは淡々とした口調で語り出す。


「魔族と人類種族の戦争は確かに凄惨で二度とあってはならない悲劇です。ですが、そのおかげで私は外の世界を知りました。何も知らなかった私が外に飛び出すきっかけにもなりました。そして…」


 エルザは横のカナタをちらりと垣間見て、次にブドーリオやユースティア、そしてメルクリアやカイン、ファレンと順に親しみ深い人間達に視線を向けた。


「素晴らしい出会いのきっかけにもなりました。私は外の世界を知り、素敵な仲間を見つけ、共に暮らし、時には喧嘩をしたりと毎日が楽しくて仕方がありません。それは全てリリス様、あなたのおかげです」


 無表情に近いが、確かに優しく微笑んだエルザの翡翠色の瞳に真っ直ぐに訴えられたリリスは鼻頭に何か熱いものが込み上げてくるのを感じ、照れ隠し気味に顔の前で小さな手をひらひらと振った。


「感動的な話の中、申し訳ないが俺はそれだけ聞けりゃ満足だ」


 その場に背を向けて、エリックの待つであろう眼前に聳え立つアルシュタイン城へ向かい歩み始めたカナタ。

 空気の読まない行動に一同が唖然とする中、顔を拭ったリリスがカナタを背中越しに呼び止める。


「あのエリックとかいう小僧、今の今まで、お前の魔力に触れるまで忘れておったが…どうやら奴はお前と『同じ』らしい」


 肩越しに振り返り、足を止めたカナタは無言のままじっとリリスを見つめた。


「1年ほど前の魔族と人類種族の友好を深めるとかいう晩餐会で会った、いや見かけたと言った方が適切じゃな。その時にあのエリックとかいう小僧の魔力妙な既視感と違和感を感じた。そう、精霊的ではなく自然的でもない、言うならば神格的ななにか違和感を。……まぁ、1年前のたった一度きり見かけただけの話じゃ。確証はないがの」


 リリスの言葉を最後まで聞き届けたカナタは心底楽しそうに目を輝かせた。


「はっはっ、そりゃあ最高だ! まさかここに来て同じ境遇のやつと会えるとは思いもしなかったな。ますます、足を急がせないといけないらしい」


 少しだけ早足になったカナタの背中が遠のく中、エルザはボロボロになったドレスの裾を抑えて、静かに一同へ頭を下げる。

 そしていつものように変わらず、カナタの一歩後ろを歩き、着いていこうとするが、




「エルザ、お前はここに残れ」




顎を突き上げて威圧的にエルザを見下ろし、カナタはまた背を向ける。


「…旦那…様……?」


 まさかの言葉に呆然と立ち尽くすエルザに見兼ねたファレンはすぐさまそのあんまりなカナタの態度を責め立てる。


「はぁ!? 今更なんなのよあんた!! ここに来て女を捨てるさいってーよっ!!!」


 夜戦となったこの戦。

 王国側の兵も疾うにカナタたちの存在に気づいているはず。

 なぜこの場に駆けつけてこないのか、僅か800人の反乱兵に手こずるほど王国兵が弱いはずはない。

 何か嫌な予感がする、とカナタは最悪の事態を想定し、こちら側に寝返ったと思われかねないブドーリオ達、条約の都合上手出しのできないリリス達を護り、逃がすためにエルザをこの場に残すことにした。

 だが、それをカナタがみんなが心配だからなどと格好付けで天邪鬼のカナタが素直に言えるはずもない。

 同じく血にまみれ、切り傷や擦り傷など穴だらけになったコートの裾を掴み翻すとカナタは戯けた調子で片腕を胸にもう片方を腰に据える。そして下げた片足を後ろで交差させるとまるで貴族のような仰々しいお辞儀をしてみせた。


「戦の後に祝勝会があるのは当然だろ。ヨハンネス王子様のことだ、きっと煌びやかで華やかなパーティーを開いてくるに違いない」


 独り言のようだが、極めて芝居掛かった口調でカナタは皆を値踏みするように眺める。


「そんな汚ねー格好でパーティーなんて出たら笑われちまうだろ? そうだな、30分後ぐらいがちょうどいい。それまでに泥にまみれた顔もボロボロの衣服も綺麗にしときな。それまでには全部終わってるさ」


 月灯りに照らされて去りゆくカナタは不敵に笑う。

 城で待つであろう異世界からやってきた仲間の待つアルシュタイン城へと足を進めながら。

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