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魔力同調《シンクロ》


「……ユースティア様、2人の手当てを」


 睨み合ったまま膠着状態が続いていたエルザ対ユースティア、ファレンの戦地。

 遠目でありながら決着がついたと思われるカナタたちの戦いを見て、エルザは抑揚のない口調でそう告げた。

 ブドーリオとカインは倒れ、今やもうカナタを止められる者などいない。

 カナタがこちらに合流すれば尚のこと。この2人との戦闘はもうすでに勝敗が決まってしまっている。

 ならば、無為な時間、無駄な命を摘んでしまうことはない。

 ユースティアの回復魔法であればまだ救える命だってあるのだ。

 単純で明快なこと。にも関わらず、ユースティアは動くそぶりを見せない。


「ユースティア様?」


「黙ってくださらない? 今の私たちは敵同士。敵に哀れまれるなんて恥以外の何物でもないですわ」


 断ち切るようにユースティアは詩を歌うように詠唱し、自分たちの周りに風の刃による結界を展開する。

 近付くだけで切り刻まれてしまいそうな鋭利な結界。エルザとて無傷では済まないだろう。


「お考え直しくださいませ、ユースティア様。今ならばまだーー」


「だから黙ってくださらない?」


 ユースティアの後方から飛び出した氷塊。瞬時にエルザは氷の壁を作り出すとぶつかり、砕け散った。


「カインなら大丈夫よ。あんな傷、日常茶飯事じゃない」


 手をかざし、ツンと鼻を上げてファレンは眉を吊り上げた。

 ファレンの得意魔法アイスブラスト。前と比べれば威力は上がっている。それでもエルザ前に立ちはだかる分厚い氷の壁にはヒビ1つ入らないが。


「何故こんなことを…もうこの戦いに意味などありません」


 止むことのないファレンの氷塊とユースティアの風の刃による攻撃。

 氷の壁でそれを容易く防ぎながら、平然とした顔でエルザは言う。

 そう意味などない。

 自分を倒す、もしくは説得をしたとしてカナタを止める者などいない。

 エルザとて防御をやめ、荒れ狂う魔法の中を掻い潜り大鎌で2人を切り裂くことなど実に容易いが、その必要性すら感じない。

 ユースティアがいなくてはブドーリオたちの傷を癒す者がいなくなってしまうし、2人を殺す理由も恨みもない。

 ならば、狙うのは魔力の枯渇だが、一体いつになるのか。

 嵐のような怒涛の攻めの中でエルザは首を捻った。

 ならば、こちらにできることもまた説得となるだろう。


「ユースティア様、ファレン様。旦那様はリアム様を殺したのが自分と仰いましたがーー」


 目を奪われるような幻想的な光を放って手のひら大の光球がエルザの眼前に近づく。

 本能的に危機を感じ取ったエルザは氷壁の前にさらに分厚い結晶で全方位を覆い尽くした、途端、弾け飛ぶような衝撃。

 堅牢なエルザの氷壁さえも簡単にヒビを入れ、砕く爆発。


「ーーくっ…!」


 小範囲でありながら凄まじい威力の爆発はエルザの身を焼き、呼吸を奪う。

 ボロボロになった黒いドレス、真っ白で陶器のようなきめ細やかな肌は赤く腫れ、火傷を残す。

 火、水、風の三重魔法エクスプロージョン。トリプルの中でも最高位、最大威力を持つ破壊の魔法。

 三重魔法使いであるユースティアならば扱うことも可能だが、明らかな威力過多だ。

 基本的に魔法の威力は魔力量に比例する。

 ユースティア1人の力では油断していたとはいえ、魔女エルザをこうまで追い込む魔法は唱えることはできないはずだ。


「なるほど…理解しました」


 晴れつつある爆炎の煙の奥、蹌踉めく2つの影を見てエルザは納得する。

 1人の力ではなく、2人。

 魔力同調による高威力魔法。どこでそんな打ち合わせをしたのか、ましてや魔力同調など魔法使いの端くれがおいそれと習得できるものではない。


「いい師を見つけましたね、ファレン様」


 決戦が始まるまでのこの短期間できっと血の滲むような努力をしたのであろうファレンにエルザは僅かに微笑み、素直に感心した。

 だが、それと同時に。


「ですが、少しだけ嫉妬をしてしまいます」


 料理を教えてもらうという交換条件の上でエルザはファレンに魔法の師を務めていた。

 自分ができたことと言えば、得意魔法アイスブラストの詠唱短縮化ぐらいのもの。

 自身に牙を剥くことで成長を見せたファレンの姿に珍しくエルザは胸を傷ませる。


「…さすが、魔女というだけありますわね」


「ウ…ウソで…しょ…!? どんだけ化物染みてるのよあいつ」


 エルザを中心に焼け野原と化した大地を煙をかき分けてゆらりと不気味に静かにこちらへ近づいてくる影に2人は顔を歪める。

 ブドーリオたちの事が心配なことは勿論だが、魔法技術も魔力量も格上のエルザとの長期戦は自殺行為と見た2人は元より短期決戦のつもりであった。

 だからこその魔力が枯渇するギリギリまで練り上げた渾身の魔法、魔力同調によるエクスプロージョンであったが、それでさえ仕留め切るばかりか動きを封じることさえできないという事実が疲労と絶望感をグッと押し上げる。


「ファレンさん…あとどのぐらい魔法を唱えられそうですか?」


「もう無理。残りカスだって出ないぐらい。立ってるのがやっとって感じだわ」


「ふふふ…情けないながらわたくしもですわ…」


 これ以上の無理をして魔力を使えばそれこそ絶命しかねない。もう指先1つだって動かすのが辛く重い。

 今はもう、エルザがどう出るか黙って待つしかないのだ。

 だが、ユースティアは密かに心に決める。


 ーーだけどもしもエルザさんがわたくしたちを殺そうとするのならば…命に代えても守ってみせますわ。もう、守りたいものが守れなかったなんてことごめんですの。


 酷く遅く感じる僅かな時の流れに身を任せた2人の前に漸く、エルザは姿を現わす。

 服はボロボロ、真っ白な肌が露出しているが足取りは軽い。

 多少の火傷は負ってはいるようだが、致命傷には程遠いだろう。


「ユースティア様、ファレン様。どうか私の言葉に耳を傾けくださいませ」


 やがて2人の目の前まで辿り着くとエルザは両手を腹部に添えて、姿勢正しく丁寧なお辞儀をして呟いた。


「ちょうどよかったですわ。わたくしもあなたに聞きたいことがありましてよ」

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