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800対10万




「伝令!! リーファウスの大木にいた軍勢が動き出したと報告がありました!! その数800。しかし、リアム騎士団長を殺害したと思われるカナタ・アマミヤの姿は見えません!」




 巨大な城壁、城門に囲われた堅牢なる王都アルシュタイン。

 その聳え立つような城門へ繋がる橋が上げられて、目に飛び込むのは広大な草原、そして総勢10万にも及ぶ人の波。

 リアムの死を知らせたのことでアルドレオの思惑通りに人々の心を動かし、国が保有する騎士団や兵士だけでなく民間人からの志願兵がぞくぞくと現れたのだ。

 それはアルシュタインだけにあらず、各地から訃報を聞きつけ駆けつけて来た者もいる。


「聞いたか、ボウズ」


「はい、確かに。やはり、オーナーはヨハンネスに寝返ったわけではないみたいですね」


「いえ、そうとも限りませんわ。ただ、別行動を取っているだけなのかもしれませんし…」


「ごちゃごちゃ考えたってやることは一緒じゃない。あのクソオーナーを取っちめて真実を吐かせる、それだけよ」


 人の波の最前線から大きく逸れて端っこの方で固まるレインタウンから参じた仲間たち。

 リアム亡き今、キュリオからの信用を得ることはこの短期間では叶わず、信用のできない者は頼りにしていないと言わんばかりの配置。

 リアムが存命であれば、ブドーリオの武力と過去の功績を考慮して隊の隊長でも任されていたのだろうが、今の彼らにとっては逆にそちらの方が都合が良かった。


「なんかファレン…オーナーにどことなく似てきたよね」


「はぁ!? あいつとあたしのどこが似てるって言うのよ!?」


「なんていうか…なんでも暴力で解決しようとするところとか、口ぶりとかさ…」


「…殴るわよ?」


 ポカッとカインの頭を叩き、ファレンは拳を震わせた。


「も、もう殴ってるじゃないか…」


「いーや、確かに嬢ちゃんと兄弟は似てるのかもしれないな。これから命の取り合いが始まるってのにそうそうそんな強気な発言は出てこねーぜ?」


 全てを叩き切ってしまいそうな巨大な大斧を肩に担ぎ、ブドーリオは空を見上げて豪快に笑った。


「しかしよ…ティア、本当にいいのか? お前は後方の医療部隊に配属されたはずだろ?」


 ユースティア程の医療魔法に特化した魔法使いは中々いない。加えて、父ヴィンセントの計らいもあってかただ1人、レインタウンから捨て駒ではなく、後方部隊へと配属されたユースティアであったが、何故か彼女はここにいる。

 今頃、焦りかまたは呆れの表情を浮かべるヴィンセントの顔が浮かぶが、ユースティアは何食わぬ顔で優雅に髪をかきあげた。


「いいんですのよ。わたくし、誰かの下につくのはあんまり好きではないんですの。それに親が敷いたレールを進み続けるなんてもっと嫌ですわ」


「にしたってよ…」


「これはわたくしが自分で決めたこと。あなたに指図される謂れはありませんわ」


 さすが、10年前の戦争を乗り越えた精鋭の医師と言うべきか、ユースティアはブドーリオの心配など聞く耳を持たない。


「先程、ファレンさんが言った通り、わたくしたちがやるべきことは1つ。カナタとエルザさんを止める、それだけ……どうやら、おしゃべりもここまでのようですわね」


 遥か前方、まだ豆粒ほどにしか見えないが、土煙を上げて猛進してくる大軍が目に映る。




「全軍、進撃開始!!!!」




 アルトリア側から聞こえた突撃の合図とともに前線部隊が動き出した。

 敵の姿が目視できるところまで来ると前線にむけて風の刃を纏った矢の雨が襲いかかる。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁああっ!!!」


 最前線に配属された部隊に遠距離対応ができる魔法兵士などいない。

 悲痛な悲鳴と共に無残にも崩れていく大勢の兵士たち。しかし、進軍は止まない。

 ヨハンネス軍同様、国を守るという大義を掲げた王国軍に退くことなどあり得ない。

 次々と倒れ逝く仲間の死体を乗り越えて到頭、最前線の兵士たちがヨハンネス軍との刃を交え始めた。


「ニーズヘッグ、ドリオール、ヘンザ! 好きに暴れてこい!」


 後方へ向けてブドーリオが声を張り上げると4人の間を抜けて3人の男たちが奇声を上げて飛び出していく。

 それに続けて、レインタウンの残りの面々も後に続いて行った。

 ブドーリオたち4人を抜いたレインタウン出身の8名。

 即席に作られた遊撃部隊だが、彼らは皆犯罪歴を持つものばかり。

 中でもブドーリオが呼んだ3人は強盗、連続殺人などの凶悪犯罪者たちばかりで腕に覚えのあるもの達。

 初めから暴れることが目的でこの戦争に参加したような3人を筆頭に続いたもの達は皆、その類だ。

 ブドーリオの曖昧で漠然としたようにも聞こえる指示も彼らにとってそれがいい。細かな指示をしたところで言われた通りに動くはずがないのだから。

 歩兵部隊でありながらも見る見るうちに敵軍に近づき、命を奪っていく様はこの場に限り頼もしいものだ。


「ほっほっ、あんなに楽しそうに…やっぱあいつらはイかれてやがんな!」


 自らが所属する最前線部隊が交戦を開始しているにも関わらず、その場に留まり微動だにしないブドーリオは手をかざしてそれを眺めると心底、楽しそうに笑った。


「師匠、そろそろ僕らも」


 背に背負った剣を抜き身に戦闘態勢に入るカイン。

 だが、その前に片手で軽々と持ち上げた大斧で道を塞ぐブドーリオは真剣な面持ちではっきりとカインに告げた。


「馬鹿野郎。俺らの相手は雑魚兵じゃねーだろ? 今から大勝負が待ってるっていうのに無駄な体力を使ってられっかよ」



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