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太陽石


「離れろ、カイン!」


 エリオットの弓がカインと対峙するコボルトの肩を撃ち抜いた。

 

「カインくん、お願いします!」


 ついでネネが大きな杖を振り、カインに身体能力強化の補助魔法をかけるとカインは力強く大地を踏みしめ、肩に矢を受けふらつくコボルトの頭をロングソードで跳ね飛ばす。

 その勢いのまま、爪を立て振り下ろさんとする真横のコボルトの腕を切り落とすとネネは炎の精霊の加護をエリオットの弓に魔法で付与、その引き絞ったエリオットの弓は腕を切り落とされ悲鳴をあげるコボルトの額を的確に撃ち抜いた。


「ふぅ〜…ファレンがいないと攻撃魔法が使えないから毎回毎回、危ない戦いになるな」


 弓を背負いながらエリオットは嘆息。

 ネネもまた同様に安堵と疲労の混じった長い息を吐いた。


「ごめんなさい。攻撃系の魔法はあんまり得意じゃなくて…」


「ううん、ネネの魔法だけでもすごい助かるよ。僕たちなんて魔法はからっきしだもの」


「おいおい、別に俺はネネを非難したわけじゃないぜ? ネネの回復魔法は重宝してるし、補助魔法だってそうだ。…まぁ…ただな…」


 言葉を濁した後、エリオットは自分たちが通ってきた道を振り返る。

 エリオットたちの背後には魔物たちの亡骸が点々と転がっていた。

 洞窟に突入してから一時間ほど歩いたころか、ここにきてあからさまに魔物との遭遇率が上がってきている。

 入り口付近の静かな旅路が一転、危険な冒険へと早変わりだ。

 その魔物との連戦に加え、ゴツゴツとした歩きにくく慣れない道を歩いてきた疲労、さらに言えばファレンが毒を受けてからというものまともに休めてもいない三人はたまっていた身体の疲労感をさすがに無視することはできなかった。


「あ、カインくん。傷を見せてください。すぐに回復魔法を…」


「大丈夫だよ。まだまだ魔物に襲われると考えたらネネも魔力を温存したほうがいい。それにこのぐらいの傷唾でもつけとけば治るよ!」


 カインの腕に受けた切り傷をネネはあわあわと申し訳なそうに眺めた。


「……ごめんなさい。私がもっと魔法をいっぱい使えるぐらいの魔力があれば…」


「そんなん言ったらこいつの方こそ負傷しないほどの強さがあれば…って話になるぜ? だからやめようぜ。自分を責めるのはよ?」


「……はい」


 エリオットが茶化すようにカインの傷口を軽く叩きながらそう言うが、それでもネネは申し訳なさそうに俯いて二人の後に続く。

 カイン、エリオットの二人には体力が敵わず、おそらくファレンに至っては体力も魔力も敵わないそんな自分を責めずにいられなかった。

 しかし、その自責の念が功を奏してか、俯きながら歩いていたネネはぼんやりと淡く光る物を視界の隅に捉えた。


「ま、まま、待ってください!!」


 柄にもなく大きな声を上げて前を歩く二人に制止をかけるとちょうど洞窟の隅に生えた植物の目の前で膝を曲げた。


「なんだぁ? 太陽の光もないのにこんな岩陰に植物…花が咲いてら」


 首を捻りながらエリオット。


「植物の力はすごいって前、本で読んだよ!」


「はぁ〜ん、お前が『カンタレス物語』以外の本を読んでるとこなんて見たことねーけどな」


「なっ! 僕だって本ぐらい読むさ! エリオットこそ本なんてページめくる前に寝ちゃうくせに!」


 そんな二人のやりとりを他所にネネはその植物の中に腕を伸ばす。


「……痛っ!」


 指先にトゲのようなものが刺さったか、じんわりと溢れ出した血が岩の肌にしみていく。

 それでも、ネネは腕を抜かずごそごそ手探りでその光の正体を探し、指先に当たった物を手に取った。


「あ、ありましたよ!」


 ネネの手を暖かな光を発しながら包み込む手のひらほどの石。

 空に浮かぶ太陽ほどではないが、ぼんやりと光るそれはまさしくカナタに言われた太陽石であった。

 証拠に洞窟の肌寒い空気で冷えたネネの手を石は優しく温めてくれている。


「…太陽石…かぁ。だからこんな暗闇で寒いとこでもその一角だけ植物が成長してたんだね」


 太陽光に似た光を発することがその石の由来。植物が成長する条件には充分だ。

 カインはそんなことに感心しながら石をまじまじと見つめるが、エリオットは不満そうに舌打ちをした。


「はぁ〜あっ! なんで先に見つかるのがそいつかね? こちとら三日月草が手に入りゃあそれでいいのによ…」


「へ? ファレンちゃんの宿代はどうするつもりだったんですか?」


「ネネ。俺は言ったよな? 帰ったらあいつをぶん殴る。泣くまでぶん殴るってよ?」


「泣くまでとは言ってなかったよ、エリオット」


「細かいことはいいんだよ。ぶん殴るってのがミソだ。いいか、ぶん殴るってことはあいつより俺が優位に立つってことだ」


「もし、あの宿屋の人がすごい強かったら? それにあの酔っ払いの人…すごい怖そうだったよ?」


「田舎の宿屋が強いわけねーだろタコ。あー言う奴は大概、口だけ野郎なんだよ。…確かに…確かにだ。あのハゲは強そうだった。だけど、どうせ俺たちが帰り着く頃には呑んだくれて居眠りぶっこいてるだろーよ」


 エリオットはヘラヘラと笑いながら手を振る。


「と、とりあえず太陽石は確保したので先に進みましょう。三日月草は葉が三日月のような形をしているらしいのですぐわかるはずです。太陽石があったんだからきっと三日月草もすぐに見つかりますよ」


 時間もない。

 脱線して小一時間は喋りそうなエリオットの軌道修正をするようにネネが言うと、エリオットはしぶしぶと口をつぐんで洞窟奥へ足を進め始めた…かと思われたが、


「まず、あのハゲはただの客だ」


 相当な不満が溜まっているのかエリオットの話は終わらない。


「あのハゲが俺と宿屋の喧嘩に割って入る権利がない」


「そうかな? 田舎だからこそ住民との繋がりが強いってことないかな? 村の者危機はみんなの危機だーってさ」


「馬鹿野郎。あいつが村で好かれてるような奴に見えたか?」


 さも嫌われ者で当然だと言わんばかりのエリオットの言葉にカインとネネは苦笑いを浮かべる。


「ぼ、僕はさっきも言ったけど…悪い人には見えなーー」


「間違ってる!! カインそれは間違ってるぞ!!」


 言葉半ばでエリオットは大声を上げた。

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