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猜疑心


「それだけじゃありませんわ」


 皆が驚きを隠せぬ中でユースティアな続けて2通の封筒をカナタの前に置く。

 どちらもカナタ宛だ。

 正式な村という許可のないレインタウン。基本的にすべての郵便物は代表であるユースティアの元にまとめて届けられる。表向きではユースティアの辺境に構えた別荘地として扱われているからだ。


「これはどういうことですの?」


 疑心に満ちた目。

 真っ向からそれを受け止めて、カナタは椅子にもたれかかる。

 1通は高級そうな紙に紋章付きの封蝋印が押されたもの。一目でわかる。王国近衛騎士団からの物だ。

 そしてもう1通は対照的に煤けた紙に包まれた分厚い封書。差出人の名は書いていない。

 試しにその内の1通。騎士団からの送られてきたものを手に取り、皆の注目を浴びながら乱暴に封を開いた。


「あなた…この一件に関わってるのではなくて?」


「俺がか? そりゃあ、笑えるな」


 眉を動かしてユースティアを煽るような態度をとり、カナタは丈夫で高級そうな紙に書かれた文に目を通す。

 長々と堅苦しい文面で書いてあるが、要約するとこうだ。



 お前がヨハンネスを逃したのではないか?



 団長様直々のサインもしてある。

 これはリアムが書いたものに間違いないだろう。


「…あなた」


「オーナーがヨハンネス第3王子を…」


 顔を上げるとエルザ以外の皆が一様にカナタに疑心に満ちた冷ややかな目で見ていた。

 元々、ここの世界の住人ではないカナタは文字の読み書きが一般人よりも遅い。

 カナタが読み解いてる間に覗き見られていたのだろう。


「おい、もっとプライベートな内容だったらどうする? リアムからの恋文って線もあったんだ。覗き見は感心しないぜ?」


「誤魔化さずに本当のことを話してください」


 瞬きすることなくサファイアのような冷たい光を帯びた碧眼をユースティアは口を結び、カナタに向ける。

 顎をしゃくり、カナタはそれを嘲るように薄い笑みを浮かべて紙を振った。


「ちゃんと見たのか? そうじゃないならやつの討伐戦に参加しろって書いてあるだろ? 迎えは3日後。ここに来るってよ」


「あなたがヨハンネスを逃した確証はありませんが、疑いは残ってますわ」


 本当ならカナタがヨハンネスを逃したなど疑いたくもない。仲間と肩を並べ、傷つきながらやっと牢に入れることができたユースティアの最も憎き相手。それをあの時誰よりも尽力したカナタが、密かに想いを寄せる相手が裏切ったなど信じたくもない。

 祈るような気持ちでユースティアはもう1通はの手紙をカナタに手渡す。


「これがヨハンネスからの物ならばあなたは『黒』ですわ。例え、あなたがあいつを逃していないのだとしても何らかの形であいつに関わっている証拠」


「おいおい、いくら兄弟が5日ほど留守にしたからってそれは脱獄時期とあわねぇだろう。ほら見ろ、新聞に書いてあるのは昨日だ」


「そうですよ! オーナーがそんなことするわけないです!」


「ならば証明してくださるかしら?」


 従い、カナタは気だるそうに手紙を開く。

 中には厚紙が1枚と一包みの茶葉が入っていた。


「ご注文頂いた茶葉は間違いないでしょうか。念のため、試飲用の茶葉を一包みの入れさせていただきます。これからもリプソンズティーショップをご贔屓に。店主リプソン…だとよ」


 余白を残して短く綴られた文と紙に包まれた紅茶の葉。

 その文面をカウンターテーブルに尻をつけ、覗き見ていたブドーリオはカナタよりも先に読み上げた。


「紅茶屋さん…ですの…」


 力の抜けたようにその場に崩れ落ち、ユースティアは床に座り込んだ。

 張り詰めた緊張の糸が切れ、安堵の長い息を吐き出す。


「ユースティア様、こちらをお飲みください」


 見計らったかのようなタイミングでエルザはそっとユースティアの前に水の入ったグラスを差し出した。


「しかし、兄弟。お前いつから紅茶なんて小洒落た物にハマりやがった。控えめに言って…似合わねーぜ?」


「だから、差出人名を記載しないよう頼んだんだよ。言ったろ? プライベートなものかもしれないって」


 じっとカナタは紅茶屋からの手紙を見つめ、興味を失ったように引き出しの奥に投げ入れた。

 そしてユースティアに向き直り、カナタは両手を頭の後ろで組んだ。


「誤解がないように言っておくが、脱獄には関わっていないが、その企みは知っていた」


「…はぁ? どういうこと?」


 一番に反応したのはファレンだ。


「王都に行った時にリアムとの取引でな。暗黒城には行った。そこでヤツに話も聞いたが、それは正直に兵士に伝えたはずだぜ?」


「え…え? 会ったんですか? ヨハンネス第3王子に?」


「それは…何故ですの?」


「言ったろ? リアムの頼みだって。誰が野郎にこっちから会いに行くなんて気持ち悪いことするかよ」


 再び、ユースティアの瞳に疑心が込められる。


「まっ! 3日後には迎えが来るんだろ? しかも俺たち村人も希望者がいれば連れて行くと書いてある。報奨金もあるらしい。そこでみんなできっちりヤツを捕まえてやろうや」


 だが、大きな手でユースティアの華奢な肩を力強く叩いたブドーリオは豪快に笑って、ユースティアのたしなめた。

 痛みに若干、顔をしかめてユースティアは一人小さく頷いて立ち上がった。


「そうですわね! わたくしたちで今度こそ二度と出てこれないよう痛めつけてやりますわ! おーほっほっほ!


 宿屋中にユースティアの高笑いが響き、3階から床を叩く音がした。

 2つ上の部屋にさえ音が聞こえてしまうボロ宿屋。きっと執筆活動中のアトリがうるさい黙れ、集中できないと怒りの床ドンをかましたのであろう。

 御構い無しに笑い続けるユースティアと激しく叩く音のする上階を交互に見上げ、皆は呆れたように眉を下げた。

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