記憶の断片4
最悪だ…。
魔族との戦争を本格的に仕掛けるっつうことで各国から徴募され、国を追放された身の俺としては他国で一旗揚げるチャンスだと意気込んで来てみたはいいが…。
辺りには広大な野原を埋め尽くすような人の数。
そりゃそうだ。
戦果を上げればお尋ね者は犯した罪を帳消しされるばかりか、多額の報奨金まで出るっつー話だ。皆がよだれを垂らして食いつくのも無理はない。
まぁ、俺もそんなうつけの内の1人なわけだが。
派手な鎧を身に纏い、一々高圧的でカンに触る騎士団様達に分けられた4人小隊。そのメンツを見て、俺は重く深いため息を吐いた。
「794小隊ね…」
男のような顔立ちをした奴隷、いやいかにも剣闘士上がりっていった感じの短髪の金髪女に幼児かと思わせるようなチビの獣人女。
そして極め付けは武器さえ持たず、間抜けな面して飛び込んできたモヤシ野郎。
大隊に組み込まれるとはいえ、小隊は言わば命を預け、預けられる仲間。こんなメンツじゃ戦果を上げるどころか命だって危うい。
「しゃあねぇ…おい取り敢えず自己紹介と行こうぜ。おいチビ助お前から名乗れ」
「嫌にゃ。名を名乗れと言うならお前から名乗るのが礼儀ってもんだにゃ。だからハゲは嫌いにゃ」
「あぁん!!?」
俺はまだハゲてねー。毛根が長期休暇を取ってるだけだ!
「落ち着けってハゲ。子供の言うことだろう?」
「おい…モヤシぶっ殺すぞ!」
「メルは子供じゃないにゃ。こう見えて立派な15歳にゃ」
「15歳で戦争かよ…」
得意げに胸を張るチビ助にモヤシは苦笑いを浮かべて頭をかいた。
なんだこいつ。
15歳ともなれば、戦争の一つや二つ経験していてもおかしくはないだろう。
それに格好がおかしい。
素材のわからない衣服に身を包んだモヤシ男。どこかの部族服にこんなのあったか。見たことがねー。
「そうケンカしていては話も進まないだろう。これから命を預ける仲間だ。互いに思うところはあるだろうが、今は親睦を深めないか?」
金髪女が斜に構えた態度で鼻を鳴らした。
いけ好かないヤツだ。
「まずは私からだ。私は…リアム。そう呼ばれていた。見ての通り、剣闘士上がりの卑しい下層民さ」
ボロボロの麻の服に傷だらけの身体を包み、錆びた銅剣を腰に刺す如何にもな風体。
「はっ。確かに奴隷としか見えないなりしてるなお前は」
俺の嫌味なんざへともせず、リアムは俺をじっくりと鋭い瞳で観察した。
「そう言うお前は…タルパス人か? 浅黒い肌に屈強な筋肉質な肉体。それに背中の刺青はたしかタルパス人の戦士の証だったはず…」
「…あぁ、まぁな。正確には元タルパス人だ。名はブドーリオ」
「…追放者か。他国人と群れて戦うのはタルパス人の恥と聞く。何か訳ありとは思ったがそうか。悪いことを聞いた」
「うんにゃ、俺は悪いことなんかしてねーし、見る目のねぇ老害達が俺に罪をきせただけ。なんも気にするこたねーよ。それに俺は1人の方が気が楽だ」
それでもとリアムは浅く頭を下げて謝罪の意を伝えてくる。
存外悪いヤツじゃねーのかも知れない。
「んで、お前らは?」
「…メルクリアにゃ。獣人とドワーフのハーフにゃ」
渋々といった感じにメルクリアは呟くように自己を紹介した。
「はっはっ! どーりで小せぇわけだ!」
「メルは小さくないにゃ! 普通にゃ!」
「はいよ、それじゃモヤシ。おめーは?」
「あー…俺はカナタ。なんも知らねーし、色々この世界のことを教えてくれ」
世界のことを知らない?
なんだこいつ穴倉にでも潜って生活してたのか?
「んで、お前なんだその服。それに武器はどうした?」
「大丈夫だ。俺は素手でもつえーんだよ。なんせドラゴンを一撃だぜ?」
ドラゴンを一撃?
1人で討伐ぐらいならタダではすまないが俺にだってなんとかできるかもしれない。
だが、一撃で倒すやつなんて聞いたこともねーし、いるはずもねー。
「おいおい、冗談も大概にしやがれ。モヤシ」
「モヤシじゃなくてカナタだって言ったろ?」
「けっ。名前で呼ばれたきゃ俺に認めさせてみろ。今は武器さえ持たないホラ吹きの常識知らず、さらに命知らずの大馬鹿野郎。そんなやつ俺が名前で呼ぶ前に死んじまうさ。なら名前を覚える必要もねーだろ?」
「ハゲ…てめぇこの野郎」
「おい、俺はハゲじゃねーって言ってるだろ?」
「ケンカはよせと言ってるだろう」
前のめりに顔寄せたカナタを阻むようにリアムは肩を掴む。
こんなモヤシ野郎にケンカ売られたって負ける気がしねーよ。
「お前ら見るにゃ。なんか偉そうな奴が前に立ったにゃ」
我関せずと他所を見ていたメルクリアが獣耳を動かした。
どうやら騎士団長様のお話という檄が飛ぶらしい。
モヤシにも負ける気はしねーが、魔族にだって負ける気がしねー。
ぜってー戦果を上げて大金持ちになってやるさ。




