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醜悪な笑み

 いつになく忙しく動き回るボッタの宿屋従業員たち。

 まばらに並べられたテーブル席はほぼ満席状態。

 厨房ではファレンが額に汗を浮かべながら次々と料理を作り、それをエルザとカインが男たちの元へ運んでいく。

 筋肉質な男たちは相当腹が減っていたのだろう、容易く置かれた料理を平らげて酒を飲み干す。次々と飛び交う注文に3人は休まる暇などなかった。

 過酷な食事時間が終わり、男たちが腹をさすりながら残った酒を煽る中、リーダー風の男からカインは料理の支払いを受け取った。


「実に美味かった」


「あ、ありがとうございます」


 ずしりと重い革製の小袋を受け取る。

 少し多めな気もするが、これは男たちの感謝の気持ちなのだろうとカインはそれを黙って受け取った。


「あ、あの…聞いてもいいですか?」


 横に座っていた太った男が豪快なゲップをしたのを横目にカインはどうしても気になったことを聞いてみることにした。


「ん? あぁ、なんだい?」


 口元を布で拭きながら気さくに男はカインの質問を了承する。


「あなたたちは…どうしてこの村に来たんですか?」


 実に大雑把な問いかけではあったが、男は意図を理解し口元に薄く笑みを浮かべた。


「警戒してるね君は。確かにこの人目につかない、地図にも載っていないような村に素性の知らない男たちが大勢で現れれば警戒するのも仕方ない。君は優秀な戦士になるよ」


 男に見つめられ、カインは背筋に寒気が走るのを感じた。カナタとは違った得体の知れない気持ち悪さだ。


「その警戒はすぐに解くことになるよ。私たちはただ、魔物の討伐をしに来ただけさ」


「魔物…ですか?」


「あぁ、私らはちょっとした傭兵部隊でね。戦争がない時はそうして魔物を退治し、報酬を貰って食い扶持を稼いでいる。それだけさ。なぁ、みんな」


 男は振り返り、仲間に同意を得るように声をかける。すると口々にカインへの賞賛や文句を言うが、皆決まって顔面には薄い笑いを貼り付けて頷いている。


「ですが、この辺りでそんな討伐を依頼されるような魔物がいるという情報を聞いたことがありません」


 傍で話に耳を傾けていたエルザがさらに追求する。

 まだここに来て日の浅いカインならばともかく、エルザの耳にもそのことが入って来ていないのであれば、まず誤情報で間違い無いであろう。

 もしもそれが真実だとしても討伐を依頼されるような魔物が近隣にいるのだとしたらこの村に被害を及ばさないわけがない。

 加えて、カナタは面倒がって見過ごすかもしれないが村長であるユースティアがそれを見過ごすはずがない。きっとカナタやブドーリオなどの腕の立つ男を嫌々ながら従わせて討伐に繰り出すだろう。

 軽はずみについた嘘が墓穴を掘ったか、カインはますます男たちへの警戒を強めた。


「これは参ったね」


 男は手を挙げ、恭しく首を振る。

 それからエルザの足元から頭の先までを舐めるように眺めた。

 そんな視線など意にも介さず、エルザは一歩だけ歩み出ると、




「あなた達は世界の名宿の覆面調査員の方々で間違いないでしょうか?」




一切の瞬きをせず、犯人を追い詰めた探偵のような顔つきで言った。


「くははっ! そいつは予想外の言葉だった!!」


 店中に響き渡るような大声で声を上げた男に引きずられるように仲間の者達も声を揃えて下品な笑い始める。


「真実を織り交ぜて嘘をつくのがバレない秘訣だと聞いていたが…。いやはや、嘘をつくというのは難しいな。この慣れない喋り方が胡散臭かったか…ガキィ…!」


 椅子を蹴飛ばして立ち上がった男。習うように仲間の男たちは立ち上がり、まばらに散る。取り囲むように男たちは陣形を組み、瞬く間に外に通じる扉と上階に繋がる階段を塞がれてしまう。


「くっ! あなたたちは何者なんだ!!」


 バックステップで咄嗟に距離をとるが、背中に取り囲む男の腹が当たる。


「逃がさねーよ、ガキんちょ」


 恰幅のよい男は醜悪な笑みを見せてカインを見下ろした。


「俺様たちが誰だって!? 俺様は泣く子も黙る賞金稼ぎ団、ブルゴルム一家のブルゴルム様よぉ!!」


 聞いたことがある。

 賞金稼ぎとは名ばかりの強盗集団だ。

 元は兵士だったもので構成された戦闘力に長けた集団。金を得るためであれば、女子供であろうとその手にかける、手段を選ばない極悪な一団だ。

 北の国の田舎で育ったカインでもその悪名は耳にしたことがある。


「そんなビビんなよ。ガキ、テメェには用はねー。俺様が用があるのは…」


 囲まれながらも表情一つ崩さないで直立していたエルザにブルゴルムは視線を向けた。


「オメェだよ。エリザベス・カリーナ。悲哀の魔女さんよ。…それとも今はエルザって呼んだ方がいいか?」


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