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黒い角と金色の瞳

 メルクリアの鍛冶屋を背に歩き、ブドーリオはまた講義を始める。


「さて、俺や兄弟が言う情報だが、戦闘中にだって容易に得ることができる」


「戦闘中にも…」


「そうだ、試しに俺と考えながら戦ってみろ。口で言うのは簡単だが、これが意外と難しい」


「そんないきなり言われても…本当は怒ってて僕をただ殴りたいだけじゃ…」


「俺がそんな小せえ男に見えるか? そんなことしねーよ」


 大仰に手を振ってカインの言葉を否定してしばらく、村はずれの牧場らしき柵で囲われた土地の前に着くとブドーリオは声を張り上げた。


「おい、キール! いるかぁ?」


 すると白髪の褐色の青年が近場にあった小屋からピッチフォークを手に屈託のない笑顔で走り寄って来た。


「おおぉぉ! ブドーリオ! 相変わらずおめぇはハゲててかっきぃな!!」


「あぁ、ハゲはカッコいいよな!」


 真っ白な灰のような髪の隙間から覗く黒い巻角。目は怪しく金色に輝き、見てすぐにカインは気づいた。


「魔族…の方…ですか…?」


「んだんだ! オイラは魔族! んでおめぇは??」


 馬の尾のように束ねた白髪を揺らし、キールはカインの顔を目一杯口の端を上げ、覗き込んだ。


「こいつはカイン。カナタのとこで雇われた雑用だよ」


「はぁ〜ん…カナタの…よろしくなカイン!」


「は、はい」


 挨拶を兼ねて出された手をカインが握るとキールはそれを両手で包み込み、ぶんぶんと上下に振った。

 別に魔族に対して偏見があったわけではない。むしろ、広大な世界に住む人々に関心のあったカインには出会うことができて喜ばしいことだった。

 ただ、悪魔のような巻角に蛇のように光る金色の瞳。そして、顔も思い出せないが、自分の親を殺した魔族。戦争孤児であるカインにしてみれば親の仇のような存在。

 魔族間との和平が結ばれた今において水に流さなくてはならないことなのだが、カインは無意識に目の前の魔族に恐怖してしまったのかもしれない。


「やっぱり…怖いべ…?」


 人懐っこい笑みを崩し、悲しげまたは不安げに顔を曇らせるキール。

 どうやら態度に出てしまっていたらしい。


「い、いえ! そんなことは…ただちょっと驚いただけで…」


「驚いた?」


「はい。ずっと魔族は怖い人達だと思ってましたし、師匠なんか戦争中に敵だった相手とこんなに仲良くしてるし…」


 カインの言葉を聞いてブドーリオとキールはお互いに顔を見合わせて大笑いする。


「おめぇ…おもしろいなぁ! カナタのとこで働いててそんなこと言うとはなぁ」


「は、はい?」


 キールに何度も肩を叩かれながらカインは首を傾げた。


「小僧。お前の身近にずっと魔族はいたんだよ。誰よりも優しい魔族がな」


 ブドーリオはニヒルに笑ってみせる。




「エルザは魔族だべ? 魔族の中の魔族。悲哀の魔女!」




 聞いてカインの思考が一瞬停止する。


「え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


 戦時中を体験した者ならば誰でも知っているその単語。

 魔女といえば、戦争中に何人もの人類種の命を奪い猛威を振るった魔族。

 カインはエルザのことを、またアトリが発した言葉を思い出して頭を抱えた。


 魔族の姫、フアナのモデル。


 こんな分かりやすい情報を聞き流していた自分が恥ずかしくもなる。


「さて、小僧が頭を整理してる最中だが、キールちょいとばかし牧場の一画を貸してくれないか?」


「んぁ、オイラは家畜達を傷つけなきゃなんでもいーが、なにするんだ?」


「こいつを鍛えるために広い場所が必要なんだよ。街中でやっちゃあ、またケンカと勘違いしたギャラリーが集まるだろうし面倒くさいからよ」


「カインを鍛える? なんでまた?」


 不思議そうにキールは頭を抱え、ブツブツと何かを呟くカインを怪訝そうに見遣った。


「色々あんだよ。んじゃ、お言葉に甘えて貸してもらうぞ」


 キールに眺められながら、ブドーリオは強引にカインの襟首を掴むと地面に二本の線を描きながら牧場の隅まで引きずった。

 牧草の茂る広い地面、遠巻きに馬や牛が二人を見守る中。


「さて、始めるぞ」


「ちょっと待ってください。頭の整理が…なんでオーナーは魔女であるエルザさんと?」


 地面に放り投げられ、尻餅をついたカインは眉をハの字にする。


「そりゃあ、お前の大好きな本に書いてあっただろ」


 ブドーリオの言葉にハッとする。

 そうか。

 初めから答えは出ていた。

 カナタとエルザは戦争を終わらせた人なんだ。

 ブドーリオは積まれた木材の中を漁った後、カインの足元に木の棒を投げる。ちょうどカインの持つ剣と同じぐらいのサイズだ。同時にブドーリオは巨大な丸太を肩に担いでカインが立つのを待った。


「真剣でやるのはゴメンだからな。痛いし、何よりティアの治療費は洒落にならんぐらい高い」


 頭に霞みがかっていた疑問が晴れ、カインは力強くそれを握り、立ち上がる。


 ーーやっぱりオーナーは僕が憧れた人なんだ。


「真剣じゃないけど、真剣に行きます!」


「やりあおうって前にセンスのねぇ駄洒落は感心しないぜ小僧」


 呆れたようにブドーリオは頭をかいた。

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