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垣間見た生存の方法


「くそっ! なんて数いやがる!」


 出口とは逆方向に後退しながらエリオットはコープスワームにむけて弓を引く。

 その矢は見事に一匹のコープスワームを射抜くが焼け石に水、圧倒的な数の前にはまるで矢は大波に飲み込まれてしまうように意味をなさないでいた。


「なんで急にあんな数が…」


「たぶんネネの血の匂いが腹を空かせたあいつらを呼び寄せちまったんだろーよ!」


 さすがに魔法もなしで、それも噛まれたら終わりという状況で真正面から迎え撃つ気など起きず、二人は息を切らせながら大空洞の中を逃げていた。


「くそ〜。さすがにあの数は…ファレンの魔法があれば焼き払ってもらうこともできたのによー!」


 ヤケクソ気味にエリオットは上を向いて叫んだ。


「ぐわぁっ!!」


 その一瞬のよそ見に洞窟は牙を剥いた。

 エリオットが上を見上げた直後、ゴツゴツとした岩肌のむき出した地面が彼の足をすくったのだ。

 走っていたこともあり、エリオットは豪快に地面を転がり、べたっと地面に身体を伏せた。


「エリオット!!」


 先を走っていたカインは慌てて振り返るが、時すでに遅く、エリオットの眼前にはコープスワームの群れが迫っていた。


「ち、ちくしょー…!!」


 死を覚悟してエリオットはギュッと目を瞑る。

 しかし、いつまで経ってもコープスワームが自分に噛み付いてくる気配はない。

 さすがに不審に思い、エリオットが目を開けると驚くようなことが起きていた。


「…さ…避けてる。俺のことをこいつら避けてる!!」


 コープスワームの群れはエリオットを避けるよう周りを取り囲んでいた。

 なぜ?

 どうして?

 思考するが訳がわからない。

 元々、自分に興味がなかったのか、はたまたカイン一人に狙いを定めていたのか。

 もしくは知らず知らずにコープスワームが嫌がることを自分がしていたのか…。

 検討もつかない。

 しかし、しかし!

 またエリオットに邪な考えが過ぎる。




 カインを囮にすれば自分は逃げられるのではないか…?




 いやいやとエリオットは首を振る。

 仲間を置いて逃げるなんてできるはずがない、と。

 エリオットは自分を困惑しながらも心配そうに見守るカインを見やった。


「エリオット! 早く逃げて!!」


 カインの声に我に帰るとコープスワームの群れの中を弓でかき分け進むが、強引に見えたその行動間も決してコープスワームが噛み付いてくることはなく、エリオットはその場から脱出した。


 カインとは逆方向に。


「…エリオット?」


「………………え?」


 無意識の行動だった。

 コープスワームの群れを挟んで対面に見えるカインは呼吸で肩を上下させながらこちらを見ている。


「た、助けを呼んでくる!」


 有無を言わさず、エリオットはカインに背を向け駆け出した。


「わ、わかった!」


 動揺しながらもカインはその言葉に頷き、再び洞窟の奥へと駆けていく。

 それをコープスワームの群れは地面を素早く這いずりながら追いかけていくとその場には急激な静寂が訪れた。


「は…はは…ははは…」


 徐々に徐々に地面を蹴っていたエリオットの足は遅くなり、やがて膝を地につける形で崩れ落ちた。


「逃げられた。俺だけ。カインを犠牲に」


 引きつった笑みを浮かべて、エリオット。


「…だって、逃げられないだろ? あんな数。もう足だって限界だ」


 きっとカインもそうだ。

 助けを呼ぶとは言ったが、そう長くは持たないだろう。

 自分はカインを見殺しにしたんだ。

 自責の念が沸々と湧き出てくるのを感じる。

 しかし、自分を擁護するようにエリオットは呪文のように呟く。


「遅かれ早かれ死んでいたんだ。それに俺も一緒に逃げて何ができる? 自分で言ったじゃないか。生きて帰ってファレンを救わなきゃ死んだネネが浮かばれないって。それは俺たちって話だったが、それが俺一人になったところでなんの問題もないじゃないか。だって千載一遇のチャンスだった。コープスワームが俺を明らかに避けてたんだ。逃げられる時に逃げないと。俺は死にたくない。俺は悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない!!!!!」


 片方の口の端を上げ、不気味な笑みを浮かべてエリオットはよろよろと立ち上がった。

 出よう、一刻も早く出よう。

 ファレンもいらない。

 ネネもいらない。

 カインもいらない。




 自分の裏切りを責めるような仲間はいらない。




 仲間なんてまた作ればいい。




 死んだら終わりだ。




 覚束ない足取りでエリオットは出口に向けて歩み始める。

 その目は狂人のような目をしていた。




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