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可愛いファレンちゃんは一味違う


「……どこよここ。……廃屋……?」


 太陽が昇り、朝日が窓から漏れ出る頃、ファレンは目を覚ました。

 自分が置かれている状況がわからない。

 隙間風がどこかしらから入り込む薄く汚れた壁や床。

 天井の隅には蜘蛛の巣が張っており、窓は白く外の景色がぼんやりとしか見えないほど汚れている。


「……っ! 臭い!!」


 おまけに自分が寝かされていたベッドはカビ臭く、とても快眠を取れるようなものではない。


「確か、あたしは…魔物の毒にやられて…それから…………カインたちは…!?」


 部屋には自分一人だけ。

 仲間たちの姿も見えず、荷物なども置かれていないことから少し外出しているだけということはなさそうだ。


「…これって絶対そう!」


 やがて、ファレンは目を見開き確信する。


「誘拐じゃない! いくらあたしが可愛いからって! すごく可愛いからって誘拐するなんていい度胸よ!!」


 幸い愛用の杖はベッドの脇に立てかけてあった。

 ファレンは杖を手に取り、颯爽とベッドから飛び起きると豪快に部屋の扉を開けた。


「……下から人の気配がするわ。……それに何これ? 焼き魚の匂い?」


 暗い廊下をずんずんと恐れることなく進む。

 やはり、廃屋か。

 はたまた盗賊たちのアジトか。

 どこを見てもボロボロで床は歩くたびにギィと軋む音をさせる。


「あたしをさらおうなんていい度胸じゃない!!」


 階段を飛び降りるように駆け下り、下に降りるや否やファレンは人差し指を正面に突きつけて叫んだ。

 ぷにっと柔らかな感触が指先に伝わる。


「……はい……?」


 たまたま二階の掃除に上がろうとバケツと箒を両手にエルザは少女に胸を突かれながら首を不思議そうに傾げた。


「あっ! えっ?? あっ! ご、ごめん!!」


 汚らしい男の集団がいるかと思えば、目の前に姿を見せたのは黒色のドレスに身を包んだ銀髪の美しい女性。

 しかも、出会い頭に胸まで触ってしまったファレンは思わず、狼狽し素直に謝罪の言葉を告げた。


「……誰にゃ?」


 虚を疲れバタバタと後ずさりするファレンに奥のテーブルで焼き魚を豪快に手づかみで食べていた猫耳の小柄な少女は目を丸めてピクピクと耳を動かした。


「…んぁ? あ〜……人質」


 そして足をテーブルに放り出してふてぶてしくカウンターに座っていた男は極めて眠そうに言う。


「やっぱり!! あんたらやっぱり盗賊ね!! 最初は女の人が出て来たからびっくりしちゃったけどもう騙されないわ!!」


 声を張り上げてファレンは再び、人差し指を突きつける決めポーズを取る。

 よく見れば、バーカウンターのところにも大柄なスキンヘッドの男がうつ伏せで寝ている。

 賊は四人。

 まぁ、一人は酔いつぶれて寝ているようだし、戦うべき相手は三人。

 いや、待てよ、とファレンはペロリと下唇を舐めた。


 あの銀髪の女性と猫耳の少女。

 あの二人は賊の仲間なのだろうか。

 もしや、自分と同じように人質になり無理矢理に従わされてるのではないか。

 証拠に銀髪の女性は手に掃除道具を持っている。

 きっとあのカウンターに座るだらしない男に脅されて、掃除などの小間使いにされているのであろう。

 じゃあ、あの猫耳の少女は?

 賊にしては幼すぎる気もするが、先ほどのあのだらしない男との会話から察するに極めて仲の良さそうな態度。

 見た目に騙されてはならない。

 きっと彼女も賊の仲間に違いない。

 証拠に銀髪の女性に掃除をさせて自分は朝食を食べているではないか。


 ファレンはしきりに目を動かし、思考を重ね、そう判断するとまずは制圧しやすそうな猫耳の少女に杖を突きつける。


「大人しくしなさい! あんたら賊の思い通りにはならないんだから!」


 ファレンへの興味がもう失せたのか一人でやかましく動く彼女を尻目に焼き魚を黙々と頬張っていた少女はちらりと視線だけをこちらに向ける。


「メルは大事な食事中にゃ。そういう遊びはもっと暇そうなやつにするにゃ」


 冷たく言い放った。


「はぁ? あんたあたしを舐めてるわけ!? あたしがただの可愛い女の子だと思ったら大違いよ!! 今、普通の可愛い女の子とは一味違うっていうのを見せてあげるんだから!!」


「朝から大声出すなよ。鬱陶しい」


 詠唱を唱える間も無く、いつの間に背後を取られたのか、カナタはファレンの手を掴み心底、煩そうにに制止をかけて、




「どれ、本当に一味違うか試してみるか」




 ファレンの首筋をベロリと舐めた。


「ひ、ひひ、ひぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


 身体中を粟立たせ、カナタの掴む手を振り払いファレンは脱兎の如く後退。

 全身から血の気が引き、あまりの気持ち悪さに足まで震える。


「う〜ん…確かに汗の塩辛さとカビ臭さが混じって普通の女とは一味違う」


 眠気からか目をしょぼしょぼと細めてカナタは舌を動かした。


「にゃはははっ! カナタそれはさすがにキモいにゃ!!」


 そのあまり気持ち悪い行為を目の前で見せられた猫耳の少女は口を大きく開け、腹を抱えて笑った。

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