タルト
「今日の宿題なに?」
最近の僕は、アヤと一緒に学校から帰ってくるたびに聞く。数日前、宿題をアヤは忘れた。そして、教師に何故どうしてと責められた。僕は、学校の宿題はアヤが大人になった時、仕事の書類の提出時間を守る練習なんだと思っていた。どうやら違うらしい。何の言い訳もしないアヤに教師は最終的にため息をついた。アヤは悲しそうな顔をした。僕はその日からアヤと一緒に宿題をしている。黒豹の僕が一生知らなくても良いと思える知識をアヤと一緒に咀嚼する。大人になった時の練習ではなく、今日の勉強の復習をするのが宿題のようだ。
「今日は英語。イディオムを使った例文を十回ずつノートに書くんだよ。たくさん書いたら、覚えれるのかな。」
「アヤは物を書いて覚える手段があるからいいな。僕は、書けないから見るか聞いて覚えるしかないんだよ。でもゲシュタルト崩壊を起こしそうだね。だいたい、イディオムが何なのか知らない。」
「イディオムはイディオムだよ。慣用句だよ。」
「授業で言ってたね。」
「ねぇ、氷室君って英語話せるの?」
「I can only speak English a little.Do you look up to me?」
「後半がよくわからない。どういう意味?」
「今日授業で先生言ってたよ。ノートよく見て。look up to~で~を尊敬するだよ。」
「I look up to you.」
「thank you.」
僕は今日授業で使われたイディオムを無理矢理使ってアヤとおしゃべりをした。
翌日、アヤが提出したノートは白紙だった。形に残らない復習は宿題にならないらしい。相変わらず言い訳をしないアヤに教師はため息をついた。でも、アヤは悲しい顔はしなかった。
「ところで氷室君。たくさん書いてないから壊れなかったんだよね。いつものケーキ屋さんには売ってるないんだけど、おいしいの?ゲシュってどんなフルーツ?甘い?酸っぱい?苦い?どんなタルトなの?」
アヤは不思議そうな顔をして僕を見た。ゲシュタルトはケーキではない。今日はしっかり書いて宿題を終わらせてゲシュタルトではないタルトをお部屋で食べよう。僕は疑問符を並べているアヤを額で押しながらゆっくりケーキ屋さんに向かって歩き出した。




