飛行機
僕は良い天気の昼下がり戦争に駆り出されていた。もちろん僕の操縦する戦闘機はアヤの操縦する機体のそばを飛んでいる。
「天気が良くて見晴らしがいいね~」
「アヤはのん気だね。ぶつかって来ないでよ。」
敵からの襲撃も受けないまま地平線が水平線に切り替わった。今回のミッションは敵の空母を壊す事。海外の言葉で話す上司から丁寧な説明を受けたにもかかわらず僕たちは観光気分で操縦桿を握っている。僕には握ることが物理的に無理なので打開策として肉球を操縦桿に乗せている。
「アヤ後ろから来る。気を付けて」
「は~い。」
モニターに映る赤色の点が勢いよく僕の機体を追い越した。そして目の前で速度を落として機体を上下に揺らしている。間違いなく、打てるなら打ってみろと挑発されている。僕の右前足がマシンガンを打ち込む。振動は無い。目の前の敵の機体は水面へ落ちて行った。簡単に撃ち落せる。
「アヤ、そろそろ空母に向かうよ。」
「了解」
着陸の説明は聞いていない。燃料の残量を気にせず加速する。加速に伴う圧力を感じたりはしなかった。たださっきまで見えなかった空母が前方の海上に見える。モニターには空母から浮かび上がる敵の機体が赤色の点になって表示されている。僕とアヤ二機に対して十機以上。僕たちは目を合わせる事もなく敵に向かった。
「さっきから何機も落としてるのにキリがないよ。空母に直接攻撃しよ。」
アヤは多分笑っているんだと思う。アヤの機体が高度を下げる。空母に照準を合わせたアヤの機体が横から被弾する。短い悲鳴の後、僕の目の前でアヤの機体は火花と煙を纏いながら斜めに落ちていく、そして、海に沈んだ。アヤの機体が着水する直前僕はアヤを打った相手にマシンガンを打ち込んでいた。初心者用のサポートシステムが警告を続けている。高度が下がりすぎている、立て直せと。僕はそれを全て無視して打ち続けた。僕の機体は何十発も被弾した。すぐにマシンガンもミサイルも弾切れになった。僕はアヤの機体が沈んだ場所に向かって飛んだ。そして後ろから追ってきた敵機に打たれ、そのまま落ちた。
「げーむおーばー。氷室君って意外とゲームで熱くなるタイプなんだね。」
画面に赤い文字で書かれた英語をアヤは発音悪く読む。僕は画面から目を離してアヤを見る。アヤは戦闘機に乗っていないし、海に沈んでもいない。僕は何だか恥ずかしくなってシッポで操縦桿、いや、コントローラーを叩いた。画面にはニューゲームの文字が浮かんだ。