ミロ
「ミロのヴィーナスについてどう思う?」
アヤの広げている教科書の片隅に写真が乗っている。彫刻には詳しく無いし興味も無い僕が見ても、素敵な像である事はわかる。
「何でそんなこと聞くの?」
彼女の腕は本来あるべき所にない。本来有るものが無い状態を「不完全」と呼ぶのなら、確かに彼女は不完全だ。しかし、「不完全」には見えない。腕が見えないのに不完全に見えない。
「アヤは見えてる方が良いと思う?それとも見えない方が良いのかな?」
不完全であるが故に完成している。元々ないものなのか、失ってしまったものなのか、知らない僕は、そこに見えない腕に思いを馳せる。どんなに思いを馳せても正解である腕は見えたりはしないのだけれど考えてしまう。
「直接見た事ないからわからないよ。それが正解なのかもわからない。氷室君はどっちが良いの?」
「直接見なくても素晴らしさはわかるでしょ。僕は見えない方が良いと思う。理想の形を押しつける事が出来るからね。」
「理想の形とかあるの?」
本来有るものが無い、無いから形を考える。最適なものをゼロから組み立てる。途中で放棄して、アヤの腕を眺める。
「僕はアヤの形好きだよ。白いし柔らかそうで少し傷があるけどそんなの気にならない。取って付けたらぴったりかもしれない。」
「氷室君。私女の子だからそんなの付いてないから取れないよ。」
「ん?なにが?」
「え?言わせるの?」
「隣に写ってるのは、ダビデ像だからね。ミロのヴィーナスって言ったでしょ。」
頬を真っ赤にしたアヤは僕のしっぽが指し示したヴィーナスを見てから自分の腕を眺めた。




