第五話 『お使い』
「...っくはー、ご馳走様」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様。食事を出してもらい、感謝する」
先程まで氷のような無表情を保っていたリンのに、食べ終わるころには温かさが宿るようになっていた。
「でしょ?これ、簡単な割には美味しいんだ」
その反応を見るに、恐らくドシではなくリンが作った料理なのだろう。ドシの事を誇っている...可能性もあるかもしれないが、ドジ獅と言われるような奴だ。おそらく、料理は出来な...いや、できるような気もする。
...混乱してきた。ドシとリンについて考えるのは中断する事にした。
「っと、そうそう。着替えたいな。少し汗をかいたからね」
顔を下に向け、自分の服を見ながら、リンは言った。確かに、ドシとリンは木刀での打ち合いを終えてから、着替えていない。汗をかくのも当然だろう。
「そうか。器は俺が片付けておくから、着替えてこいよ」
お、ドシ。気が利くなぁ...
気付けば、俺はドシとリンに不思議な親近感を抱いていた。ドシは年の差さえあるのに...それ以前に仮想世界の住民なのに、何故か現実の人々よりも違和感がない気さえしてくる。
「そうね...ありがとう。お言葉に甘えて、着替えてくる」
「ああ。今日は昨日みたいなへまはしないからな」
昨日のへま...?聞いてみたいが、リンが口を綻ばせ、向こうの部屋に歩いて行ってしまった今では無理だろう。ドジ獅の由来となったドジなのだろうが...聞くとまた怒られそうな気がするのでやめておく。
「よし、じゃあ俺も行くかね...カイトと零は、しばらく待ってろ。腹ごなしに散歩でもしてこいや」
「いや、俺も手伝うよ」
ご馳走になっておいて片付けの手伝いもしないとは、恩知らずも良いところだろう。
「気にすんな。皿が少ないから、2人のほうが早い。お前等は休んで...いや、お前等が来た道って、村じゃないほうだな?」
「多分...ここに来る途中、村は見かけなかったからそうだと思うぞ」
「おっ、そうか。なら、ちょっとお使いを頼まれちゃくれねえか?」
お使いか...ご馳走になったお礼に手伝えることがあるのならば、それに越したことはないだろう。
「ふむ。それで、すべきことは何かね?」
「なんて説明すりゃぁ良いのかね...」
複雑なことなのだろうか。ドシは少し考えるように視線を泳がせた。
「まぁ、道を行けばわかる。方向は間違えるんじゃねえぞ」
「分かった」
ゼロさんは無言で頷き、扉へ向かう。俺もそれに続き、扉の前で振り返った。
「じゃあ、行ってきまーす」
「おう!頼んだぞ!」
ドシの返事を背中に受けつつ、先行していたゼロさんの背中を追いかけるように、扉に向かって急いだ。