第二話 『道の途中で』
森の中に少し開けた草地を出て、道を辿る事数分。
自分がまだ相手の名前も知らない事に気が付いた俺は、先行する男に追いつくべく少し歩く速度を上げた。
「名前、教えて貰っても良いですか?」
質問すると、少し驚いたように振り向き、言った。
「まだ名乗っていなかったな。私の名前は零。数字のゼロの意味を持つ、零という漢字を書く。名字は無い」
初めて聞く名だ。名字が無いというのも珍しいが、その理由は聞きづらかった。名字は親からもらう物なので、もしかするとこの人には親がいないのかもしれない。俺は色々と至らないところがある人間だが、それくらいのデリカシーは持ち合わせているつもりなので、そこには触れずに話を続ける。
「零...ですか。珍しいですね」
結果出て来たのはそんな言葉だった。
「そうかもしれないな。両親につけられた名前では無いのが問題なのだろう――そろそろ村も近いようだ」
村が近い。それがなぜ分かったのかは不明だが、仮想世界に来た事がある様子だったので、その時に知ったのだろう。
そこで会話が途切れてしまい、そこからはてくてくとでも表現したくなるような、呑気な散歩...ではないが、村があるらしい方向を目指して歩いていくと、シュッ...という風切り音と、硬いもの同士がぶつかり合う硬質な音が道を少し逸れたあたりから聞こえて来た。
「あれは――誰かいるようだね」
そう言って男...いや、ゼロさん...いや、零さんは方向転換をした。
零さんが、漢字の説明をする時に挙げた「ゼロ」という単語が妙に印象深く、零より先にゼロが出てくるようになってしまったのだ。この名前で彼を呼ぶわけにはいかないが、頭の中だけでそう呼ぶ事にした。