第一話 『森の中』
後から読むと恥ずかしい...ですが、読んでくれると有難いです...文章とかも段々上手くなるように頑張ります。
空気が頬を撫でる感触が伝わってくる...
突如、強烈な吐き気と頭痛が襲ってきた。
「うぐぁ...いって...」
目を強く瞑ったまま地面を転がりまわる。
幸い、突然の不調はすぐに収まった。まぶしくて目は開けられないが、背中の下には暖かな地面があり、上からは日差しが降り注いでいることはわかる。流石に眩しかったので、寝返りをうつ。
――気持ちいい...もう少し寝ていよう...
あまりに気持ちがよく、そのまま眠りに落ちようとしていた時、何者かが草を踏みしめ近づいてきた。
「...起きたまえ。時間はあるとはいえ、過剰な睡眠は健康上良くない」
いつか、どこかで...聞き覚えのある男の声でそう言われる。
...重い瞼を持ち上げ、明るく、ぼやける情景に目を慣れさせるために数度瞬きをして、座り込んだ。
「やれやれ...君はしっかりと進化...いや、成長している様だね。」
眠さの残る目で、目の前の男を見つめる。痩せた長身。白衣のような長く白い服を着ていて、顔は長めの彫りの深い顔だ。目が細く、理知的な顔と言えるだろう。しかし、全く感情が表情に表れていない。
「...あなたは、誰ですか?それに、眠くなるのは当たり前でしょ...」
そういって、再び眠りにつこうとするが、
「待て待て、起きてくれ。君に言っておきたいことがあるんだ」
渋々顔を起こす。こうしてみると、表情が乏しいだけで、感情を表すのが苦手なだけなのかもしれなった。しかし、とにかく寝たい。今は、この最高の環境で...と、そこまで考えた所で俺が今どこにいるのか把握していない事に気が付いた。
辺りを見渡すと、葉の隙間から日が差し込む、明るい広葉樹の森が広がっていた。
しかし、俺のいる場所には木が生えていない。ここはどうやら森の中に少し開けた草地のようで、その中心に俺と、あと一人...正体不明の男がいると言うわけだ。
「なんですか?聞いたら寝てもいいですか?」
眠気に負け、大変に失礼な事を言ってしまった。後で激しく後悔したものの、後悔は先に立たないのだ。
「...まぁ、いいだろう。眠る気になればだが。本題に戻るが、ここは仮想世界だ。時間が取れず、詳しく話せなくてすまなかった」
仮想世界という言葉を聞いて、一気に脳が覚醒した。
仮想世界という単語は、近年テレビや新聞など、様々なメディアで取り上げられていた。現実ではないが、現実と同じくらいに精密に作られた世界。全世界の人間がその世界を見る事、そしてその世界に入る事を望んでいた。しかし、そう便利なものではないらしく、人間の脳と、仮想世界のシステムたるコンピューターを繋げる事が出来なかったらしい。
今一番盛んに行われている研究テーマがそれらしいが、まだまだ先は長いとか。人間が仮想世界を体感出来るのは遥か先...という事らしいが。
「動揺しているようだね。無理もない。突然仮想世界などと言われても現実味が薄いだろう。感覚としては異国というような認識で構わない。」
なるほど、確かに現実と遜色はない感覚だ。確かに異国という感覚でも良いのだろう。
動揺はしている。が、突然の事で妙に冷静になっている自分もいた。
目の前の男を見る。ここが仮想世界という事を知っているのなら、彼はこの世界に来た理由も知っているのだろう。ならば話は早い、男に質問をすればいいのだ。
「俺はどうしてこんな所に?」
「ふむ...それは少々長い話になるな。近くに村がある。移動してから話さないか?」
森の中で二人より、村の中で話したほうが良いし、相手が立ったままで、こちらが座っているというのも気が引ける。
仮想世界にいるのならどの道現実の体は動けないだろうし、目の前の男は悪い人には見えないので同意しておく。
「そうですね。どちらが村ですか?」
やっと脳にエンジンがかかったらしい。先程まで敬語なのか何なのかよくわからない、中途半端な話し方だったが、一応はしっかりした敬語になった。
「そうだな...少し待ってくれ」
そういって、男は何やらポケットから透明な結晶のようなものを取り出し、表面に触れると、
「ではいこうか。こちらのほうに村があるようだ。海斗君。ついてきてくれ」
森の方向を指し示した。
海斗君...俺の名前を知っている事に少し驚いたが、既にそんな驚きなど枝葉末節だ。
「今の結晶は何だったんですか?」
「それもついてから話す。ともかく、日があるうちに移動しておこう」
そういって男は歩き出した。
色々な疑問が解決するのは...ついてからか。それに、村か。ここは結構な田舎なのかも...いや、仮想世界だ。仮想世界の森の中の村...少しだけ胸の高鳴りを感じる。あまり慣れない感覚だが、当然という物だろう。行けない筈だった世界に...人間が入る事が不可能だと思っていた世界にいるのだ。
知らない人に付いて行くのは危険だというのは、今更繰り返す事も無く何度も言われて来た事だが...彼には、何処かであっている気がする。かなり昔な気がするが...悪い関係ではなかったように思える。ならば、きっと危険な人物ではない...それに、右も左も分からない状況だ。背に腹は代えられない。
そう判断し、俺は男の後を追った。