表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剥がし屋  作者: パパス
8/10

ドリームキャッスルの拷問部屋⑧

拷問部屋に入ると部屋の中央部にある拷問椅子がまず私達の視線に入ってきた。

誰かが椅子に縛り付けられている。

私達の中で縛り付けられている人物の正体にいち早く気付いたのは梨花だった。


「お母さんっ!!!」


梨花は叫んで椅子まで走る。

が、椅子の脇からヒュッとあの女が出てきた。

梨花はそれでもお構い無しに椅子まで走る。


「梨花ーーー!!!

危ない!!!」


私がそう叫んだのも束の間。

女は黒い湯気のようなオーラに包まれいて、その黒い湯気のようなオーラがまるで剣のような鋭い刃物のような形になり、走っている梨花を襲った。


「ウリャアッッ!!!」


クズさんが右手を梨花に向けると女が放った刃物のようなオーラは青い炎に包まれて消えた。

女は唖然とした表情を浮かべて固まっていた。

梨花も尻餅をついて泣きそうな顔をしてクズさんの方を見ていた。


「危ねーよ!!!

バカ野郎!!!

道路や心霊スポットは急に飛び出しちゃダメだって親に習わなかったのかよー!!!」


道路の飛び出しは習った・・・

心霊スポットは知らない・・・

いやいや!!!!

そんなことより、早く梨花のもとへ行かなきゃ!!!

走りたい気持ちが強かったがそこは自分の気持ちを抑え込み、今自分ができる最高の競歩で梨花のもとへとむかった。


ーあああああああああああああああああーーー!!!!!


突如女は大声をあげた。

私はその声にビックリして目をつむり耳をふさいだ。


「おっ!?

怒っちゃったかい!?

わりぃな!!」


クズさんが私の視界から消えた。


「もっと怒らせちまってよ!!」


ードガッ!!


クズさんが女の背後に突然現れたと思った矢先、クズさんの強烈なキックが女を遥か後方にある入り口の外まで吹き飛ばした。


「梨花の母ちゃん!!

大丈夫か!?

もう安心だ!!」


クズさんは拷問椅子に拘束されていた梨花のお母さんを椅子からはずした。

お母さんは力なく地面にしゃがみこんでしまった。


「お母さん!!!おかあさーーーん!!」


梨花はお母さんに抱きつこうとしたが、梨花の体はお母さんの体をすり抜けてしまい、そのまま勢い余って床に倒れてしまった。


「触れることはできない・・・

残念だけどな・・・

早く俺の後ろに下がるんだ」


「行こう梨花!!」


梨花の腕を掴んで立ち上がらせ、クズさんもお母さんを抱き抱えて後ろに移動させた。

お母さんは私達に心配させないようにニコニコした表情をしているが、それが作り笑いだとわかるぐらいに疲弊しているようだった。


ーペタッ・・・


女がゆっくり歩いてくる。


ーペタッ・・・ペタッ・・・


一歩・・・二歩・・・


ーペタッ・・・ペタッ・・・ペタッ・・・


一歩・・・二歩・・・まで歩くと急に女は地面にうつ伏せになってほふく前進で三歩め・・・


ーペタッペタッペタペタペタペタペタペタペタッ・・・


ーああああアアアアアヤヤヤアアアアやややややや!!!


怒りで目を血走らせた女は雄叫びをあげながらものすごいスピードで這いずってクズさんのもとへと向かってくる。

その姿はもうまるっきり化け物だ。

人の動きじゃない。


「ウオオオオオオオオオオルィヤアアアアアア・・・!!!」


クズさんも渾身の右ストレートを女の顔面に振り下ろす!!


ーガシッ!!


女が両手で受けとめた!!


「・・・グググッ!!

てめ・・・しっかり受けとめてやがれ!!」


クズさんの背後から青い炎がまるで燃え盛る火炎のようにボウボウと立ち上っている。

それに呼応するかのように女も背後からドス黒く禍々しいオーラがクズさんのように上空に立ち上っている。

女はクズさんの手を離し後方へ10メートル程下がった。

それからクズさんの方へ右手を向け、女の禍々しいオーラを全て右手に集めている。


「そうだ!!

怒り、悲しみ、嫉妬、妬み、未練・・・

てめぇの全てを俺にぶつけて来やがれ!!

全部受け止めて俺が勝つ!!!」


クズさんも右手を女に向けて青い炎を全て右手に集中させた。


長い沈黙


息が詰まりそうな程重い空気


あぁ・・・

きっとこれで勝負がつく・・・


私は直感的に理解した。

梨花とお母さんもそれを感じているようだった。


「いっくぞーーーーーーーーー!!!!!」


ーアアアアアあぁあああああアアアアあああぁぁぁ!!!!!


二人は同時に右手から青と黒のレーザーのような光線を発射させた!!

レーザーはちょうど部屋の中央部の拷問椅子の近くでぶつかりあっている!!


ーバチバチバチッ!!!!


その時、私達全員の頭にある光景が流れ込んできた。


若い男女のカップルが夜景が綺麗な高級そうなレストランで楽しそうに食事をしている。

女は綺麗な黒髪の笑顔がとても美しい美人で、男の方も好青年という印象で優しい笑顔を浮かべていた。


美姫(みき)!!

どんなことがあっても君を一生守りぬく!!

結婚してくれ!!!』


男は婚約指輪を女に見せてプロポーズをした。


『・・・うれしい

私で良ければ喜んで!!』


とびっきりの笑顔で美姫は答えた。



場面が変わり、美姫が広いマンションの一室でテーブルに座っている。

テーブルには空の皿が並べられていた。

時刻は深夜の0時53分

美姫はちっとも不満げな顔ひとつせず夫の帰りをひたすら待っているようだった。


ただいまーー!!!


夫の声が聞こえると、美姫はうれしそうな顔をして玄関に走っていった。


おかえりなさい!!


ただいま!!


二人の笑顔はとても眩しかった。



場面が変わる。


ボロい四畳半の狭い畳の部屋で美姫は夫の帰りを待った。

前のような暮らしはできていないがそれでも愛する夫がいる。

帰りを待っている間も美姫は幸せだった。


・・・ただいま


弱々しい夫の声が聞こえた。

美姫は笑顔で夫のもとへと向かう。




場面が変わる。


そこは廃墟になった裏野ドリームランド内のアトラクションドリームキャッスルのプリンセスの部屋だった。

二人はプリンセスの部屋のベッドに手を繋いで腰かけていた。

夫は友人の連帯保証人になり、友人が姿をくらましたために多額の借金を背負うはめになった。

おまけに会社はリストラされて生きる希望を完全に失っているようだった。


『ごめんな・・・』


『いいの・・・私はずっとあなたと一緒よ』


二人は抱き締めあった。

ドリームキャッスルのプリンセスの部屋はまだ遊園地があったころ二人でよく来ていた思い出の場所だった。


最後はこの場所で・・・


美姫はベッドに腰かけ目を閉じて自分の人生をふりかえった。

小さい頃に母を亡くし、男手ひとつで自分を育ててくれた父も去年病気で亡くなった。

夫まで居なくなればこの世で美姫はひとりぼっちになる。

そんなのは耐えられない。

愛する人が居ないこの厳しい世の中を美姫は生きてはいけないと悟った。


ーガバッ!!


急に手袋を着けた夫が美姫をベッドに押し倒した。

突然の夫の行動に美姫は驚いて夫にたずねた。


『あなた!!!

手袋なんかしてどうしたの!?』


夫はポロポロと涙を流し、私をベッドに強く押し付けながらずっと謝り続けている。


『こうするしか・・・こうするしかないんだ!!!』


夫は美姫の口を無理矢理開けさせてその手に握っていた毒薬を美姫の口に流し込んだ。


なんで・・・!?なんで・・・!?


『君が死ねば保険金がはいる・・・

俺はやり直せる!!!

君は俺に愛してると言ってくれた!!!

じゃあ俺のために死んでくれよーーーーーーーーー!!!!!』


夫はそう言い残して走ってこの場を去った。


愛してるって・・・

私を一生守るって言ったのに・・・


薄れゆく意識の中、美姫は憎悪が膨れあがった。

夫への怨みというよりは人間に対しての強い怨みだった。

あの優しかった夫を変えてしまったのは人間だった。

友人に騙され、今まで会社のために身を粉にして、働いてきた夫を簡単にリストラするような人事。

追い詰められた夫は弱い私を犠牲にして自分を生かした。

愛情、友情・・・

そんな言葉は全部嘘だった

結局人間なんて自分が一番かわいいんだ

自分が危険に陥れば簡単に人を犠牲にする醜い生き物。

この人間社会の真実の姿だ。


許せない・・・

絶対に許せない・・・

私は・・・人間を憎む


美姫の強い怨みは死んだあともドリームキャッスルのプリンセスの部屋に残った。

そして美姫の強い怨念がドリームキャッスルの地下に拷問部屋という人間の本性が剥き出しになる恐ろしい霊場を作り上げたのだった。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ