ドリームキャッスルの拷問部屋⑦
5人はドリームキャッスルに入った。
なんとなくこの前来たときよりも空気が思い気がした。
「クズさん・・・
この感じ・・・」
田中さんが辺りをキョロキョロと見渡した。
「・・・お前も気付いたか
どうやら怨霊は俺達に気づいてるぜ」
クズさんはそう言ってプリンセスの部屋へとまっすぐ歩いて行く。
私達もクズさんに続く。
今日の外の気温は33度と、かなり蒸し暑かったはずだったがこのドリームキャッスル内はなぜだかヒヤッとした空気でむしろ肌寒さを感じたくらいだった。
部屋に入って地下に続く階段があった場所を見てみると、以前は確かにあったはずの階段が消えていた。
「あれ・・・!?
階段が無くなってる!?」
「うそ!?
だって昨日はあったのに!?」
私と梨花は昨日あれほど恐ろしい体験をしたはずの地下の拷問部屋へと続く階段が無くなっていたことに驚いた。
「ふぅ~・・・
めんどくせ・・・
真理亜!!一二三!!
まずは奴の結界を破るぞ!!」
そう言って田中さんはリュックの中から謎の長さ5㎝くらいの小さな旗を取り出して、真理亜さんに1つ渡した。
田中さんはタブレット端末を取り出してタブレットをいじっている。
真理亜さんは旗を持ち、地下に続く階段があった場所のあたりで何か呪文のような言葉をブツブツと早口で呟きながら旗を左右に振り始めた。
数分間ずっと真理亜さんは旗を振り続けている。
私達は黙って見ていることしかできない。
やがてタブレット端末をいじっていた田中さんの手が止まった。
「クズさん!!
わかったよ!!
あの壁だ!!」
田中さんがベッドの横の壁を指差した。
「はいよ~!!!
じゃあ幽体離脱モードに入る!」
そう言った途端にクズさんが意識を失い突然倒れた。
「えっ!?
クズさん!!クズさん!!!」
クズさんの体を揺さぶってみるが、意識が戻らない。
「田中さん!!
ちょっとクズさんどうしちゃったんですか!?」
「あ~・・・
大丈夫大丈夫!
幽体離脱モードに入っただけだから!
はい!これ!」
そう言って田中さんは私達にサングラスとイヤホンマイクのようなものを1個ずつ渡した。
「それをつけてあそこ見てみなよ」
私と梨花はサングラスとイヤホンマイクをつけて田中さんが指差す方を見てみた。
すると、イヤホンマイクからクズさんの声が聞こえてきた
ウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャアアアアア!!!!
青い炎のようなものに包まれたクズさんが見えた。
ベッドがあった場所の壁付近にドス黒いオーラのようなモヤモヤしたものがあり、それをクズさんが自身の拳を連打して跡形もなく消し去っているところだった。
「うっし!!
終わり~!!!
おーい!!真理亜!!
そっちはどんなだ!!」
クズさんはそう言って真理亜さんの方に歩いて行った。
「準備OK!!
これから破魔の結界の準備にかかるわ!」
真理亜さんの目の前に地下に続く階段が再び出現していた。
「ごくろうさん!!
よ~し!!!
じゃあ朱里に梨花!!
お前らもいろいろと聞きたいことだらけだと思うけど、それは全部終わったあとだ!!!
しっかり俺についてこいよ!!!」
クズさんが階段をゆっくりと下っていく。
私達もあとについて再び地下の拷問部屋へと歩みを進める。
「さ~て!!!
じゃあ私は破魔の結界でクズさんをサポートしなきゃ!!」
真理亜は旗を手に取りまた呪文のような言葉を唱えながら旗を左右に振り始めた。
「僕はとりあえずやること無いからゲームしてま~す!!」
そう言って一二三はリュックからゲーム機を取り出して壁にもたれかかってゲームで遊び始めた。
階段を下りると私達が始めてここに来た時はいくつも道があり、広かった地下も今は一本道だけになっていた。
時刻は12時27分。
地下はやっぱり薄暗かったが、幽体離脱モードのクズさんが青い炎のようなものを纏っているからか、はたまたサングラスのお陰なのかわからないが、私達は前がよく見えた。
ゆっくり拷問部屋を目指して進んでいく。
「一二三はな、探知係なんだ!
霊場が弱体化するこの時間帯はさっきみたいに霊場の入り口に結界を張って霊場を隠しておくのが怨霊のセオリーでな。
並みの霊能力者ならまず怨霊の結界の場所を見つけることはできないな・・・
俺も探知は苦手だからな~・・・
だがやつはそれを見つけることにかけては天才なんだ!」
「へぇ~・・・!
じゃあ探知のスペシャリストなんですね!」
「人は見かけによらないですね!!」
「そうなんだよ!
ムカツクだろ~!
あいつが使えないデブだったらと~っくに追い出してんだけどな~!」
「真理亜さんは何担当なんですか!?」
クズさんに聞いてみた。
「真理亜は結界士だ!
結界士の仕事はサポートが主流で、
怨霊や霊場の力を弱めたり、怨霊の攻撃から結界を張って俺を守ったりと戦闘面のサポートをしてくれる守備のエキスパートだ!
今回の場合は破魔の結界っていって、怨霊の力を大幅に下げる結界を霊場に張ってくれてるから真理亜はここに一緒に来れなかったんだ!
ほんとあいつには毎回助けられっぱなしでおっさんは頭が上がらんよ!」
「一人一人がちゃんと自分の役割を完璧にこなしてるんですね!」
「基本的に俺は戦闘面に特化した剥がし屋だからな~・・・
あいつらがいてくれて助かるよ
人間ってさ、完璧なやつなんて一人もいねんだよ
けど必ず1つは他人に負けない長所と短所があんだ・・・
それを埋めてくれる人間が必ずこの世界には存在してんだよ!
俺はそんな奴等を生きてる内に二人も見つけることができた幸せ者さ・・・
まぁお前らもすでにそんな人間を一人は見つけたみたいだけどな!」
クズさんのその言葉に思わず私と梨花はお互いの顔を見合った。
「ははははっ・・・!!
親友って呼べる人間に出会えたらそいつを大事にしろよ!
friendってよ、最後のスペルは endだろ?
いつか終わりがくるんだ・・・
けどお前らは終わらせんな!
結婚しても、おばさんになっても、ばあちゃんになってもずっと親友のままでいろよ!
心から信頼して、そいつのために命をかけれる友逹なんてそうそういるもんじゃね~からよ!」
「わかってます!!
私達は親友だから終わりなんか来させません!!」
梨花が私に笑顔で力強くそう言ってくれた。
私も頷いて梨花の真っ直ぐな瞳を見つめた。
私も同じ気持ちだった。
クズさんが言ってた言霊。
言葉には魂が宿るってやつ。
私はそれを信じたい。
どんなことがあっても私と梨花の関係が今みたいにずっと続きますように・・・
「止まれ!」
クズさんが手で私達を制した。
私達はピタリと足を止めた。
ものすごい嫌な感じがした。
クズさんの前方には拷問部屋の入り口があった。
「ものすごい妖気だ・・・
真理亜の破魔の結界で弱体化しているはずなのにこの力・・・
久々にとんでもね~怨霊が相手だな・・・
ちょっと甘くみてたわ・・・」
クズさんの足がブルブルと震えていた。
それに気付いたクズさんは震える足を両手で押さえつけた。
クズさんでもやっぱりあの怨霊は恐ろしいのかもしれない・・・
あのドス黒い濁った瞳、歪んだ口、女とは思えない低い男のような声・・・
あの女を思い出すと鳥肌が立ってしまう。
もう2度と見たくなかった。
梨花もクズさんのあの姿を見て動揺しているのか、不安げに口許を触っていた。
すると、さっきまで震えていたクズさんの足がピタリと止まった。
「久々に強敵が相手だから武者震いが止まらんかったわ!!
いや~!楽しみだ!!」
クズさんは腕をぐるぐる回している。
「怖かったんじゃないんですか!?」
「ん・・・?
全然!!
久々にあんなに強そうな妖気を感じたから嬉しくなってさ~!!!」
クズさんは本当にうれしそうな顔をしていた。
「よ~し!!
待ってろやー!!!
剥がし屋屑神信濃!!!
いざ参るぞこの野郎ーーーー!!!」
ードガシャーン!!
クズさんはそう言って扉を青い炎のようなもので纏った足でおもいっきり蹴り破って中に入っていった。
私達もクズさんに続いて中に入った。