ドリームキャッスルの拷問部屋⑤
梨花のお母さんは泣きじゃくっている梨花の頭を優しく撫でながら、視線はずっと奥に向いていた。
私はそれで察した。
まだ終わっていないということが。
誰ダ・・・? ジャまヲスるの輪~?????
その声に梨花のお母さんは誰よりも早く反応し、両手を私達の前につきだして、モヤモヤした白い空気を固めたような壁を作り、バリアのようにした。
ードンドンドン!!!
女は怒りの形相をして壁を両手で殴り始めた。
梨花のお母さんは苦しそうな表情をした。
女の力が強まっているのか、壁を殴る音がドン!からドーン!という爆発音のような音になっている。
「お母さんも一緒に行こう!!
私ね!
お母さんにいっぱい話たいことがあるの!!
だから・・・」
梨花のお母さんはうれしいような悲しいような表情をして、首を横に振った。
「嫌だよ・・・お母さんに・・・
やっと会えたのに・・・
離れるなんて嫌!!」
梨花はお母さんにしがみついて離れようとしない。
「梨花!!
このままじゃお母さんも危ないよ!!
私達がいても邪魔になるだけ!!
大丈夫!!
梨花のお母さんはあとで必ず来るから!!
今は逃げよう!!」
梨花はどうしようか迷っていたが、やがて朱里の意見に賛同し、ここを離れることに決めた。
「必ずだよ・・・お母さん!!
必ず来てね!!」
お母さんは優しい笑顔を梨花に向けて首を縦に振った。
そして、梨花のお母さんは私に1枚の白い紙を渡した。
私はそれをポケットに入れて、梨花の手を引いて扉まで走った。
大好きよ・・・
私達の足が同時に止まった。
梨花はぽろぽろと涙をこぼした。
私も涙が止まらなかった。
たった一言の母親の言葉が私達に勇気をくれた。
私と梨花は全力疾走で扉まで行き、扉を開けて通路に出た。
すると、先ほどまでの十字路の道が一本道に変わっていた。
私は梨花の手を引き地下室の入り口の階段をかけ上ってドリームランドから脱出して、なんとか梨花の家まで逃げきれた。
ー翌日
「お母さんまだ来ないな・・・」
梨花がポツリと呟く。
あのあと、私達は恐怖で一睡も出来ずに布団をかぶり二人で震えていた。
一晩経って朝をむかえたころになってやっと恐怖が薄れてきたようだった。
「そういえば昨日梨花のお母さんからこの白い紙を渡されたんだった!」
私は梨花のお母さんから渡された白い紙を広げてみた。
梨花も紙を除きこんだ。
「なになに・・・
新潟県S市・・・1ー○ー○
“剥がし屋”
屑神信濃・・・?」
「どういうこと・・・?
ここを訪ねてみろってことかな・・・?」
「多分そういうことじゃない!
S市は私の地元だから場所も行けばわかる!
これから行ってみようよ!」
梨花の部屋で朝食のパンを食べながら今日の予定を決めた。
それから二人は美月家を出て駅に向かった。
紙に書いてあった住所はS市の駅から歩いて5分くらいのところにあるコンビニのすぐそばにある平屋だった。
平屋の屋根のすぐ下に“剥がし屋”と書かれた看板がかけられていたので、間違いない。
朱里はインターホンを押して中に入った。
「ごめんくださ~い!!」
家に入ると、奥の部屋からなにやら白熱した歓声のような声が聞こえてくる。
こっちこっち~!
奥の部屋から私達を呼ぶ女性の声が聞こえてきたので、行ってみた。
「いけーーーーーカブ男ーーーーーー!!!
そこだーーーー!!!」
「クワ丸ーーーーーー!!!!
ちょん切れーーーーーー!!!!
その角切ってゴキブリと区別つかなくしてやれーーーーーー!!!!」
中に入ると、金髪のショートヘアーの男と、眼鏡をかけた小太りの男が必死にテーブルをバンバン叩きながらカブトムシとクワガタを戦わせていた。
テーブルの奥の窓の近くにパソコン用のデスクがあり、茶髪のロングヘアーの女性がパソコンで作業をしていたようだが、
私達が入ってきたことに気づいて慌ててこちらに来てくれた。
「ごめんね!
今ばか二人が暇すぎて虫キング決定戦っていう遊びに夢中になってて・・・
もうちょっとで終わるからちょっとだけ待っててね!」
スーツ姿の20代くらいの美人なお姉さんが冷たい麦茶を私達に渡して、お客さん用のソファに案内してくれた。
お姉さんの胸はスーツに収まりきらないんじゃないかと思うくらい巨乳だった。
「あーーーーーー!!!!
カブ男ーーーーーー!!!!
お前・・・!!
角がっ・・・!!!」
「イエーーーーーーー!!!!!
僕の勝ちだーーーーーー!!!!」
どうやら虫キング決定戦の決着がついたようだ。
金髪の男が床に手をついてガックリと落ち込み、小太りの男はクワガタに頬擦りをしている。
「ブターーーーーー!!!!てめえなんてことを・・・
おま・・・俺のカブ男がカミキリ虫みたいになったじゃねーーーーーーかーーーー!!!!」
「知らな・・・ブッーーー!!!」
男達はまるで子供のように取っ組み合いのケンカを始めた。
それをみたお姉さんがため息をついて、二人のもとへ近づいて行き、二人の男の頭に拳骨を降り下ろした。
「お客さんが来てんだろ~がよ~!!
くだらね~ケンカしてないでさっさとこっちこんかい
この包茎共が!!」
お姉さんの形相はすさまじく、さっきまで私達に向けられていた天使のような顔が鬼の形相になっていた。
すんませんっしたーーー!!!
二人はお姉さんに土下座して謝ると、急いで虫をかごに戻して私達のもとへと大慌てでやってきた。
私と梨花は背筋をピンと伸ばした。
「いや~!!!どうもすんませんね~!!!
俺が”剥がし屋“屑神信濃36歳で~す!
クズさんって呼んで!
ちなみに、俺の息子はずる剥けです!!」
金髪のショートヘアーの男がピースサインをしながら笑顔で私達に自己紹介した。
「田中一二三です!
好きな物は昆虫とアニメ。
3次元には興味ありませ~ん!
クズさんの右腕で~す!
ちなみに僕もずる剥け!!」
20代くらいの小太りの男がそっけなく私達に自己紹介をし終えると、ポケットから女の子の人形を取り出して、何かぶつぶつ言いながらテーブルに戻って行った。
「変わった人達でしょ~!?
いい年して包茎なんだよ!
けど、腕は確かだから安心して!
私は平子真理亜!!
よろしく!」
お姉さんは再び天使のような顔に戻っていた。
「そんで・・・
今日はどういったご相談で?」
クズさんが尋ねた。
「あの!!
私達実はこの紙を見てここに来たんですけど!!」
私はクズさんに昨日梨花のお母さんにもらった紙を見せた。
クズさんはしばらくじっと紙を見つめていた。
「・・・なるほどな・・・
理解したわ!
じゃあお前らが今ここにこの紙を持って来てるってことは、美月沙也加に会ったってことだよな?」
「お母さんのことを知ってるんですか!?」
「知ってるっちゃ~知ってるが、知らんといえば知らん!!
逆に聞くけどさ!
お姉ちゃん達だって剥がし屋のこと全然知らんで来たろ?」
私達は黙ってうなずいた。
「簡単に説明すると、最強の霊能力者だ!」
「シンプル!!」
私はつい叫んでしまった。
クズさんは咳払いをひとつしてまた話始めた。
「剥がし屋はさ、世間一般でいうところの怨霊と呼ばれるこの世に強い怨みを持って死んだ超強力な悪霊を退治するスペシャリストだ!
ちなみに怨霊は強力な霊能力者が1000人集まったとしても勝てない超強力な霊だ!
俺は退治できるけど!」
クズさんはドヤ顔をしながら話を続けた。
「昨日の夜9時過ぎくらいだったかな~?
お前の母ちゃんがここに現れて言うわけよ
娘を助けてって
そんで俺も言ったんだよ!
意味わからんから簡潔に言えって!!
そしたら、自分の娘と友達が怨霊のいる廃遊園地に肝試しに行ったって聞かされてよ!
俺らが今から行ったってもう手遅れだから、霊体のあんたが助けに行けば間に合うかもって俺が提案したんだ・・・」
「だからお母さんが助けに来てくれたんだ・・・」
「でもな・・・
本来死んだ人間が生きている人間の生死に関与しちゃなんね~ことになってんだよな~・・・
もしそれを破ればその魂は霊界から追放されて、魂を消滅させられちまうんだ・・・
だから怨霊になった魂は好き放題出来るが、もう霊界には行けないし、美月沙也加も殺されかけてたお前らを助けちまったから霊界から追放されて魂を消滅させられちまう・・・
もちろん美月沙也加はそのことを知ってるはずだ」
梨花と私は固まってしまった。
クズさんは話を続ける。
「お前の母ちゃんはすげ~よ!!!
あの遊園地の怨霊は滅茶苦茶強い力を持ってるやつでさ、戦えば俺でも危ない強力な霊なんだよ
普通の霊なら一瞬で消されるはずだ!
母親の愛って奴は時に強力な力を生むのかもな・・・
お前の母ちゃんがここに来た時の力はあいつの足元にも及ばないくらい弱かったはずだ!」
「待ってよ!!
じゃあそんな強い悪霊とたった一人で戦っていたお母さんはどうなったの!?」
梨花がクズさんに聞いた。
「・・・残念だが
美月沙也加の力を感じない・・・」
クズさんは首を横にふった。
「・・・うそ・・・
だって・・・お母さん・・・
必ず・・・帰ってくるって・・・」
梨花は現実を受け止められずにただただ泣くことしか出来なかった。
私は梨花を抱き寄せて頭を優しく撫でてあげることしか出来なかった。
「美月沙也加はこうなることを知っていた。
だから俺は美月沙也加にこの紙を渡したんだ
あの怨霊はあの場所に入ったお前らとその家族を殺しに今度は自らやってくる!」
「なんで・・・!?
なんで関係ない私達の家族まで・・・!?」
「それが怨霊だ・・・
理由なんかない・・・
本来あの場所から生きて帰ったこと自体が奇跡に近いんだ!
正直俺はこの紙を持ってお前らが現れるとは思っていなかった・・・
俺は今奇跡を見ている!
母親の愛が起こしたあり得ない奇跡をな!!」
「お母さん・・・お母さん・・・
おがあさん!!!」
梨花は泣き叫んだ。
「いいか!!
遊び半分であんな恐ろしい場所に足を踏み入れるからこういうことになるんだ!!
お前らのせいで関係ないお前らの家族まで殺される所だったんだぞ!!
もう2度とこんなことはするな!!
わかったな!?」
私達は頷いた。
「よしっ!!
じゃあお前の母ちゃんの魂を消滅させた廃遊園地の怨霊は俺ら剥がし屋がきっちり退治してやんよ!!」
クズさんがそう言って立ち上がると、真理亜さんと田中さんも同時に立ち上がり私達の肩をポンと叩いて隣の部屋へと歩いていった。