ドリームキャッスルの拷問部屋③
裏野ドリームランドは私達が通っている学校から徒歩で10分程の所にあり、梨花の自宅から20分程で行ける距離だ。
外は昼間に比べれば多少暑さは和らいでいるようだがそれでもまだ暑かった。
たまにふく夜風が気持ちよかった。
夜に通るこの道は昼間に通る時とはまた違った風情があった。
「もうちょっとで着くね」
「そだね!」
「私さ、裏野ドリームランドが地元に出来た時、もうお母さんが亡くなっていたから、家族みんなであそこに遊びに行ったことなかったな~・・・
お父さんと花と私の3人で行ったんだけど、私と花が
お母さんと来たかった~!
ってごねてたんだ」
梨花がドリームランドの思い出を懐かしみながら言った。
私はそれを黙って聞いた。
「ドリームキャッスルのプリンセスのお部屋で家族3人で一緒に写真を撮ろうと思って順番待ちしてた時があってね!
私達の前と後ろに並んでた家族の女の子がお母さんと楽しそうに話をしている光景がその時の私には妬ましかったんだ~・・・
だから、やっぱり写真なんか撮らなくていい!
って言って列から離れて・・・
お父さんが花を連れて慌てて追いかけてきてさ・・・
怒られるって思った私がお父さんに謝ろうとしたらお父さんが私と花を抱きしめて泣いてた。
ごめんなって・・・
寂しい思いさせてごめんって言って・・・
私もつられて泣いちゃってさ
花が不思議そうな顔してこっちを見ていたのを覚えてる
それ以来私達はお母さんのことをお父さんの前で口にしなくなったの
お母さんが亡くなって一番悲しかったのはお父さんだったんだってあの時気づいたの・・・
ごめんね・・・急にこんな話して
ちょっと思い出しちゃってさ・・・
ちゃんと聞いてくれてありがとう」
梨花は涙を滲ませながら私にお礼を言った。
私は梨花の頭をわしゃわしゃしてやった。
「お礼なんていいから!」
「あっ!
でも、私の思い出と胆試しは別物だから安心して!
ドリームキャッスルは徹底的に調べようね!」
「はいはい!」
私と梨花は顔を見合わせて笑った。
梨花と一緒にいると心の底から笑いあえる。
楽しいことも、辛いことも共に分かち合える。
きっと私達は親友と呼びあえる仲なんだとあらためて思った。
「朱里!いよいよだよ!!
このドリームランドの駐車場跡地をまっすぐ抜けたら園内に入れるよ!」
「なんか怖いな~・・・
やっぱり廃園した遊園地はすごい嫌な雰囲気があるな~・・・」
ドリームランドの周りは田んぼや畑や林等の自然があるだけで、民家やお店等は何もない。
だから、全く人の気配を感じない・・・はずだった。
しかし朱里は何だか誰かに監視されてるような嫌な視線を背中に感じて後ろを振り返る
「朱里?
どうしたの?
大丈夫!?」
その様子を見た梨花が朱里を心配して声をかけた。
「・・・大丈夫!
ごめんね!!
さっ!
行こっか!」
朱里は何か嫌な予感がしたが、とりあえず胸にしまい駐車場を抜けてドリームランドの入口に出た。
ーパキパキパキッ!!
薄い板を割るような音が近くで聞こえた。
「なんなの!?
今の音!!」
「なんか聞こえたよね!?
パキッって音!!」
「怖~・・・!!
どうしよう・・・!?
引き返す!?」
私は梨花に撤退の選択肢をチラつかせてみた。
「いや行くでしょ~!!
だってまだドリームキャッスルの拷問部屋見つけてないもん!!
私見つけるまで絶対に帰らないから!」
梨花に撤退の意思はないようだ・・・
「なんでそんなにドリームキャッスルにこだわるのよ!?
梨花も言ってたじゃない!
拷問部屋にいる女の霊は悪霊だって!!
もしあの話が本当だったら私達ヤバイじゃ~ん!」
私はずっと疑問に思っていた梨花のドリームキャッスル探索にかける熱意の理由を聞いてみた。
「ドリームキャッスルはさっきも言ったように私達家族の絆が深まった思い出の場所だから、あんな恐ろしい噂話のネタにされてるのが嫌なの!!
だから私は真実が知りたい!
私達で噂の真相を確かめよう!」
「え~~!!!
あんた霊が見たいから行きたいんじゃなかったの~~!?」
「違うよ~~!!
私はただ確かめたかっただけだもん!!
それにね、大勢の心霊スポット巡りが趣味の人がここを調べに来てたみたいだけど、まだ誰も地下室を探し当てた人はいないんだって!
だからあの話も本当かどうか怪しいの」
「でもさ、あの話妙にリアリティーがあったよね・・・
なんか私には作り話には聞こえなかったな~・・・」
朱里はドリームキャッスルの拷問部屋の話を初めて梨花から聞いた時からその話が本当にあった出来事のような気がしてならなかった。
「口裂け女や河童の噂や目撃談だってすごいリアルじゃん!
目撃情報だって全国で何万件もあるのに私達は未だに見たことがないんだよ!?
おかしくない?
こういう噂ってきっと誰かがおもしろがってよりリアルに、そしてより恐く伝えて私達みたいな好奇心旺盛な童心を持った人がその純粋な心を忘れさせないようにどんどん新しい噂を投入して好奇心を煽ってるんだと私は思うよ!」
「・・・う~ん
まぁそうかもしんないけど・・・」
「ほら朱里!
余計なこと考えないで行こう!!」
私はまだ腑に落ちなかったがとりあえず考えるのをやめにして、
まだ記憶の片隅に残っているドリームランドの入場口を足早に通りすぎて行く。
あの大勢の人の楽しそうな声が今ではもう聞くことはできない。
懐中電灯をむけると看板やゲートはボロボロで二人の記憶の中にある裏野ドリームランドの面影は全く無かった。
「変わっちゃったね・・・」
梨花の声はいつもよりも少し元気がなかった。
形あるものはいつか朽ちる・・・
しかし、やはり二人の記憶の中のドリームランドと現実のドリームランドのあまりにもかけ離れた姿を目の当たりにして、梨花は驚きと、悲しみが隠せないようだ。
「ドリームキャッスルは観覧車の近くだったよね?
確か奥の方」
梨花が声に出して確認する。
「そうそう!
私観覧車から見える夕日が大好きだったな~!」
観覧車からみえる夕日が広大な田んぼに映る瞬間、子どもだった私は身を乗り出すようにして観覧車の窓に顔をくっつけて景色を眺めていたのを覚えてる。
あの頃の私は純粋で無邪気だったな~・・・
二人はドリームランドの思い出を記憶の底から引っ張りだしていろいろなアトラクションの評価や思い出を語りながらついにドリームキャッスルの近くまでやって来た。
「いよいよドリームキャッスルが見えてきたね!」
「ねぇ!梨花!
もしだよ、もしドリームキャッスルに本当に拷問部屋があって女の霊がでたら・・・
どうする?」
「決まってるじゃ~ん!!
逃げる!!!」
梨花は笑顔で走るポーズをとった。
「よろしい!
私も逃げる!!」
二人はドリームキャッスルの扉を開けて中に入った。
中に入るとまず懐中電灯をつけて辺りを見回した。
そこら中に落書きがしてあり、蜘蛛の巣だらけだ。
私の記憶の中のかわいい女の子の憧れだったお城は見る影もなく、今では立派なお化け屋敷のような不気味な場所になっていた。
「うわ~・・・怖いな~・・・」
私は早く帰りたかったので、プリンセスのお部屋に早足で向かった。
「ちょっと朱里~!!
待ってよ~!!」
梨花が泣きそうな声をあげて私の後をついてきた。
いよいよこの先がプリンセスのお部屋だ。
ピンクのかわいらしい女の子の憧れの部屋。
あんなにかわいらしい部屋に幽霊なんかいるわけがない!
私は心の中で何度も大丈夫!大丈夫!と自分を励まし続けてプリンセスのお部屋のドアを開けて中に入った。
ーガチャッ!
部屋に入ると、大きな鏡つきの化粧台が部屋の中央に倒れていた。
ベッドやテーブル、は粉々に壊されており、ベッドのピンクのシーツはズタズタに切り裂かれていた。
私達はプリンセスの部屋の惨状に言葉が出てこない。
「朱里・・・
あれ・・・!!」
梨花が指を指した方を見てみると、化粧台があった場所に地下へと降る階段を発見した。
階段の一番上の段から白くて細い女の手が私達に向かって手招きをしている。
二人は悲鳴をあげた。
足が恐怖ですくんでしまい動けない。
手はまだ手招きをしている。
しかし、徐々に手招きが早くなっていき、手招きするスピードが上がるたびにものすごく低い身の毛がよだつような笑い声が部屋に響く。
やがて手はスッと階段の下に消えていき、代わりに
ードン!ドン!ドン!
階段をすごい力で殴るような音とさっきよりも狂ったように大笑いしている低い声が聞こえてくる。
恐怖で失禁する人の気持ちがわかったような気がする。
こんな気分なのか・・・
私はなんとかおしっこを我慢して、この恐ろしい瞬間が終わるのを待った。
恐怖で閉じようとする目蓋を目を見開くことで防ぐ。
目を閉じたらダメだ!
私の直感がそう言っている。
しばらく恐怖に耐えていると、急に音と声が聞こえなくなった。
「・・・朱里~・・・!!!
怖かったよ~・・・!!」
梨花はあまりの恐怖で泣きながら私にしがみついてきた。
私も涙が止まらなかった。
そして私達は後悔した。
来ては行けない場所に来てしまった・・・
その思いが強くなり、私達はすぐにこの場を離れることにした。
プリンセスの部屋から出ると、そこは出口に続くホールではなく下る階段だった。
「なんで?なんで?なんでよーーー!!!」
二人は慌てて部屋に戻った。
「どうしよう・・・
引き返す道がない・・・」
「じゃあ私達帰れないの・・・!?
ねぇ朱里~・・・!!!
どうしよう・・・!!!
どうしよう・・・!!!」
頭を抱えながら梨花はまた泣いた。
正直泣きたいのはこっちだよ・・・
朱里はスマホで電話をしようと画面を見ると、何故か電源が切れていた。
「なんで!?
さっきまで電源入ってたのに!?」
「私のも電源がはいらないよ!!!
朱里~!!!
どうしよう!?」
「階段を降りてみるしかないよ・・・」
「嫌だよ!!
絶対に嫌!!!
下なんか降りれない!!!
二人で頑張って朝まで待とうよ!!!」
「けど、さっきの腕の女が今度は襲って来るかもしれない!
もし来たら結局は下に逃げるはめになる!
きっと私達がここから動かないなら向こうは何かしてくるはずだよ!
あいつは私達を下に誘ってる!
だったらこっちから出向いてやろうよ!」
梨花は朱里の言葉に頷いて、二人は手を繋いで地下へと続く階段を降りて行った。