倒壊の日
目が、覚めた。
昨日のことが嘘だったかのように、いつもと同じ、平穏な朝がおとずれた。
いや、本当に嘘だったんじゃないか。
そう思った方が正解だと感じるほど、身体にはなんの違和感もない。
夢なんかじゃなかったと信じるために、あの超能力とやらを出してみようかと試行錯誤してみたが、全くでない。
出る気配さえない。
退屈な日々を打開出来るはずの力は、私の身体に与えられていないようだった。
この上ないほどの絶望だった。
あんな夢さえ見なければこんな気持ちにはならなかったのに、と悪態をついても仕方がない。
どれだけ辛くても、夢のせいで絶望の淵に落とされても、生きている限りはこれまで通りの日常を送らなくてはならないのだ。
いつも通り支度し、自転車にのって登校した。
昨日と似たり寄ったりな1日を過ごし、気がつけば16時になっていた。
はっきり言って、今日は部活なんかに行く気分じゃなかったから、病院に行くかだとか適当に都合をつけて休むことにした。
駐輪場に着いて自転車に乗ろうとした時に、ふと、机の横に掛かりっぱなしの弁当箱の存在を思い出した。
このままでは、夢からの絶望と母親に怒られるという最悪ダブルパンチなので、それを回避すべく私は再び学校の方へ戻った。
昇降口は嫌に静まり返っていた。
自分の教室、2-Aの前に辿り着くと、中からくそったれた笑い声が聞こえてきた。
「ちょっと、まりなうけるんですけど!」
「西澤さんの机やばいことなってるし!!面白すぎ!」
笑い声が
笑い声、が、
「西澤まじ死ねばいいのに。」
私の机の上、お弁当箱、教室の中の唯一の私の世界、
全部真っ赤で、全部全部、全部
「えっ、あっ、西澤じゃん。ちょうどよかった。見てこれ!サイコーっしょ?」
ぱりん、ぱりん、ぱりん。
心の中の、一番大事な部分の割れる音がした。
そこから先のことは、あまり覚えていない。
いや、嘘だ。忘れられる訳がない。
この時が、私が力に侵食された瞬間であったと、忘れてはならない。