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転生者の憂鬱  作者: 八緒あいら(nns)
第二章 少女編
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EX一話(第七十九話)「追憶」

※お知らせ


書き忘れておりましたが、前回のお話で第二部は一旦完結とさせていただきます。

今回からのお話はイワン視点の短めなおまけとお考えください。

 この地域は、特に黄砂が酷い。

 常に肌に何かがまとわりつくような感覚に、俺―ーイワン・ヴァムピィールヅィージャ・ジャラカカスは辟易としていた。





 俺がヴァンパイア王国を発ってから、三年の時が過ぎた。


 雪国育ちの俺には国外の環境を含め何もかもが未体験で、はじめは周囲のもの全てに驚かされっぱなしだった。


 気温差、湿度差、日照時間、食べ物……あとはヴァンパイア王国にほとんどいなかった虫など。


 もちろん敵も、今までとはまるで別種だ。

 魔物を狩っていたという実績はあるが、場所が変われば野生動物の種類も変わる。

 必然的に魔物の種類も変わるため、今までの経験はほとんど通用しなかった。


 それはヒトにも同じことが言えた。


 風習の違う種族、おかしな術を使う種族、見たことのない武器を操る種族などなど。

 そもそも言葉が通じないので、戦闘以外の宿での簡単な意思疎通すらも苦労した。


 未知の敵や環境に対して、俺はあまりにも無知すぎた。


 この環境を、()()()は何年も前に経験していた。

 戦いに対する経験値が、そもそも違っていたんだ。


 そりゃ、勝てねーわ……。



 だからといって落ち込みはしなかった。

 ようやく同じ経験ができて、一歩前に踏み出せたと喜びすらした。



 それでも俺は、あいつに比べて数年の遅れがある。

 普通の方法では簡単に追いつけないことを分かっていた。


 だから、普通ではない方法で修行することにした。



 ◆  ◆  ◆



 俺は、目深までフードを被った連中に囲まれていた。


「黒剣を持ったヴァンパイア種族……テメーが噂の『剣鬼』様か」


 俺の正面にいた、連中の中で一番体格の良さそうな男が口を開く。

 全員合わせて十二人。一人一人の顔を眺めてから、俺はこっそりと嘆息した。


 ――全員、()()()だ。


「……はっ。よく見りゃまだガキじゃねーか」


「……」


 俺のことを二つ名で呼ぶ輩が増えてきたのはいつの頃からだろうか。

 仲間からは「強さを認められた証だ。誇っていいぞ」と言われたが……正直、そんな気は全くしない。


 この程度で満足していたら、()()()との差は開く一方だ。


「まあいい。てめーの首を落とせば、この俺の名が上がるってもんだ!」


 紛争地帯は、最悪だ。

 メシはマズいし、水は汚いし、暑いし、血生臭い。

 しかし、そこは俺にとって最適な場所だった。


「……しゃあねぇ、相手してやるよ」


 俺は黒い刀身の剣を構えた。


 腕利きの鍛冶師に鍛えてもらった業物……とかではなく、仲間が土の精霊術を駆使して作ってくれたものだ。

 鉄ではなく、土と少量の鉱石を圧縮して作っているそれは振り回すには少々重いが、ほとんど手入れの必要がない。

 強敵と戦えば一回で使いモノにならなくなる程度のモノだが、何度でも作り直してもらえるのでーー小言は言われるがーー、好んで使ううちに俺の目印として機能するようになった。


「どんな業物なのかと思えば……ナマクラじゃねぇか。そんなんで俺とサシでやろうってのかぃ?」


「誰がサシでなんかするか」


 俺は周囲を囲う全員を、グルっと剣の切っ先で指した。


「全員で来い」


「はぁ!?」


「お前一人じゃ腕試しにもならねぇから、全員で来いっつったんだよ」


「……ナメやがって」


 そいつはプルプルと震えながら、全員に合図らしきものを出した。


「いまさら謝ったってもう遅いぜ? あの世で一生後悔してろ!」


 うるさい奴ほど口の割に実力が伴っていない。

 はじめて『喧嘩』した時の俺のように。



 ◆  ◆  ◆



「あ……あ」


「だから言ったろ。腕試しにもならねーって」


 俺は適当に選んだ一人だけを残して、あとの全員を斬り捨てた。

 黒剣を強く振るい、血をあらかた払い落とす。

 赤い液体が、べちゃぁ、と音を立てて地面にこびり付くと、男の肩が一層震えた。


「おい、お前」


「はーーはい!」


「どこの出身だ?」


「はーー、え?」


 いきなりの質問にそいつは面食らいつつも、素直に答えた。


「ら、ライム地方の西の方です」


 俺は地図を取り出し、そいつの言う場所を確認する。

 まだ行ったことのない場所だ――俺は無意識に唇の端を上げた。


「お前、今から里帰りしろ」


「……え? いや、俺の生まれた村はもう随分前に――」


 わざとらしく足元に剣を突き立てると、そいつは、ひぃ、と悲鳴を上げた。


「察しが悪ぃな。そこに行けっつってんだよ」


 俺の持つ地図には、ところどころに×印がついている。

 これは、その地域で強いヤツをあらかた倒した時に付けるものだ。

 そして、こいつの言った地方にはまだ手を出していない。


「行って、『剣鬼』が強いヤツを探し回ってるって言いふらせ」


 こういう時だけは、二つ名が付いていて良かったなと思う。

 それに釣られて寄ってくる奴が増えたからだ。

 今のヤツらのようなハズレもあるが、その分()()()と出会う確率も高くなった。


 そういう奴と手合わせを繰り返す。

 手合わせっていうのは上品な言い方で――早い話が殺し合いだ。


 結局、強くなるには自分よりも強いヤツと殺し合いをするのが一番だ。

 自分の命を危険に晒すことで、道場のお稽古なんかでは得難い経験を短い時間で会得することかできる。


 死ぬリスクも高いけど、強くなるためにはこれ以上ないほど最適な修行方法だった。


 でも――まだ、足りねぇ。


 もっとだ。

 俺はもっともっと、強くなる。



 ◆  ◆  ◆



「遅いぞ。何をしていた」


「腕試し……と言いたいところだが、ハズレだったわ」


 宿に戻ると、肩を怒らせながら仲間が睨みつけてきた。

 緑色の髪に、緑色の瞳――エルフ種族のアイザックだ。

 敵だった頃は氷エルフ、なんて勝手に命名していた。

 年齢が近いというよく分からない理由で、今は俺の相方になっている。


 俺たちの組織はヴァルコラキを長としている。

 そのため、組織内の公用語はヴァンパイア語だ。


 コイツも、今ではヴァンパイア語を違和感なく話せるようになっている。


「また趣味の辻斬りか」


「おいおい、人聞きの悪いコトを言うな。単なる腕試しだって」


「任務が終わった直後だってのに……お盛んだな」


「お前こそ何してたんだ? まさか一日中ここに居た訳じゃないだろうな?」


 アイザックは俺が宿を出た時から変わらないポーズで安いベッドに寝転んでいる。


「……暴れるだけのお前と違って、俺は潜入やら何やらで疲れてるんだ。しっかり体を休めて何が悪い」


 一日も体を動かさないなんて、俺には到底信じられない。

 休みだろうが何だろうが、体は鍛えないとその瞬間から落ちていく。


 もちろん適度な休息は必要だがーー俺も昔、素振りのしすぎで怒られたことがあったーー、それにしたって休みすぎだ。

 まあ、こいつがいいなら別に構わねーけどな。


「だいたいお前はいつも無茶しすぎ――ってオイ、今度はどこに行くつもりだ?!」


「ちょっと素振りしてくるわ」


「……ウソだろ」


 変なことを言ったつもりは無いが、たまにこいつはこういう『信じられない!』みたいな反応をする。

 ……よくある種族間の価値観の違い、というヤツだろう。


「お前もたまにはどうだ?」


「……寝る」


 追い払うように、手を、しっしっ、と振るアイザック。

 かつては敵同士だったとしても、今は仲間なのに――こいつはいつも冷たい。


「言っておくが、明日は日の出と共に本部に戻るからな。俺は絶対待たないぞ! 寝坊するなよ!」


「しねーよ。本部に戻ったらあの女との再戦が待ってんだぜ?」


 俺の言葉に、アイザックはもともと白っぽい顔をさらに青白くさせた。


「再戦ってお前……出発前に挑んで半殺しにされたことを忘れたのか!?」


「忘れてねぇよ。だから次は勝つために修行したんだ」


「……筋金入りの、バカだ」


 手で顔を覆い、天を仰ぐアイザック。

 そんなにおかしいことを言ったつもりはないんだが……。

 まあいいやと、俺は部屋を後にした。



 ◆  ◆  ◆



 素振りは、昔からの日課だった。

 初めてやり始めたのは、確か五歳か六歳の頃からだ。

 気が向いた時だけやっていたそれはやがて日課になり、今では習慣になっていた。

 『やらなければならない』というより『やらないと気持ち悪い』というレベルだ。


 体を鍛える、剣の重みを体に覚えさせる、剣に手の形を覚えさせる、型の反復練習――などなど、いろいろと名目はあるが、俺の場合は何かを考える時間としても使っていた。


 ヴァンパイア王国を出てからというもの、素振りの時間はいつも()()()のことを思い出していた。


 俺が生まれ変わった、あの日のことを。

NG集


『環境の変化』


 俺がヴァンパイア王国を発ってから、三年の時が過ぎた。

 雪国育ちの俺には、国外の環境を含め何もかもが未体験だった。


 「てめー、俺を誰だと思ってんだ!?」みたいな感じで死亡フラグを立てていく敵、都合良く目覚める真の力、周囲すべてが俺を引き立てるためだけに存在しているような感覚さえ覚えた。


 あと、別に何もしていないのに「素敵! 抱いて!」と言ってくるチョロインにも辟易とした。

 目が合った瞬間に好感度MAXとか、嫌じゃないか?


「なろうテンプレの80%くらいを否定しやがったぞコイツ」



『コピペ』


 素振りは、昔からの日課だった。

 初めてやり始めたのは、確か五歳か六歳の頃からだ。

 気が向いた時だけやっていたそれはやがて日課になり、今では習慣になっていた。

 『やらなければならない』というより『やらないと気持ち悪い』というレベルだ。


「私のセリフをパクって文字数を稼ぐな!」

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