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転生者の憂鬱  作者: 八緒あいら(nns)
第二章 少女編

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第六十九話「地下室」

~前回までのあらすじ~


カーミラの献身のおかげで落ち着きを取り戻したエミリア。

イワン失踪の状況を振り返り、違和感に気付く。

「エルフには、協力者がいる」

 先入観があった。

『エルフは他種族を見下し、自ら孤立している』という。

 だから、協力者などいるはずがないと決めつけていた。


 しかし、それは何十年も前の話だ。

 時代が変われば価値観も変わる。

 今もエルフは孤立しているなんて、決めつけていいものではない。


 その先入観を排せばあっさり分かることだったが、なまじエルフと接触したことがあったから、変にそれが強かった。


仲間(エルフ)のピンチを見かねた誰かがイワンを止めに入った」


「協力者がいると仮定するなら、それが一番有力だね」


 そしてそのまま、敵に連行されてしまった。

 戦闘の跡が無かったんだから、大人しく降参したんだろう。

 ……筋は通っている。でも、なんだろう。何かが引っ掛かる。


「どうして敵はイワンまで連れて行ったんでしょうね」


「うーん。エルフの姿を見たから、とか?」


 それなら私にも追手が来るはずだが……。

 連中には、イワンだけに何か用事があったんじゃないか。


「これ以上考えていても仕方ありません。とにかく、探しに行きましょう」


「待って待って。まだ敵が隠れている場所の目星もついてないのに」


 立ち上がろうとする私を押し留め、カーミラさん。

 それを押し返し、私は傍にあった上着に手をかけた。


「いえ。目星はついています」


「え?」


「そもそも、王都の中にいるという前提が間違っていたんです」


「外に隠れてるってこと? でも足跡はなかったんでしょ?」


「偽装です」


 雪の上についた足跡を消すには(なら)すしかない。

 短いならばいざ知らず、長距離に渡る足跡を隠すことは不可能だ。

 しかしあのエルフなら、それをいとも簡単にやれる術を持っている。


「捕らえたエルフは氷の精霊術を使っていました。雪面についた足跡を隠すくらいの芸当、簡単にできます」


 自然現象そのものを創り出すことができる精霊術ならではの方法だ。

 逆に、真っ(さら)な雪面に新しく足跡を作ることも可能だ。


「なるほど。外に逃げたとなると厄介だね……まだ王都の中の方が探せたかも」


 彼らが逃げることを目的としていたのなら、三日という時間は私たちにとって致命的だ。

 徒歩ならまだしも、馬を使われていたら絶対に追いつけない。


「いえ……あいつらはまだ、この近くに潜んでいます」


「何か根拠があるの?」


「装備です」


 気絶した氷エルフを身体検査した時に、旅用の装備を全く持っていなかった。ナイフや火起こし器はおろか、水袋やコンパスすらもだ。

 いくら精霊術があろうと、彼らが暮らす大森林からヴァンパイア王国まで、あんな軽装で来れるはずがない。


 ――だとすれば、どこかに隠れ家があると予想できる。


「この近くで隠れられそうな建物――つまり、()()()()しかありません」



 ◆  ◆  ◆



 正直なところ、私の予想はかなり当てずっぽうだ。

 論理は穴だらけだし、旅装備が云々も協力者がそれを用意していたら済む話だ。


 やっぱり居ても立ってもいられなくて、カーミラさんを説き伏せるために無理やり弁を立てたと言ってもいいくらいだ。



 しかし『イワンが生きている』ということに主軸を置けば、あながち間違いでもない。はず。

 イワンを生かしたまま国外に逃げるなんて到底無理だし意味がない。

 その場合、もう殺されていると考える方が自然だ。


 その可能性を考えるのは後回しにして、生きているという前提で可能性を追いかける。


 そうしなければならない。


 でないと――私は――。


「――ミリア。エミリア」


「え?」


「大丈夫? まだ万全じゃないんじゃない?」


 どうやらカーミラさんに声をかけられていたようだ。

 自分の思考に没入しすぎていて反応が遅れたことに、カーミラさんはいたく心配してくれている。


「大丈夫です。それより、着きましたね」


 私はパートナーを変え、再び旧ヒト科動物研究所の前に来ていた。

 現地に着くなり、カーミラさんが破壊跡を見て声を上げる。


「あれ、エミリアがやったの?」


「ええ……まあ」


 この三日でちらほらと雪に埋もれ始めているが、それでも抉れた地面や倒れた木々などははっきりと見て取れた。

 あの一撃はなかなかの威力だったと自画自賛してしまいそうだが、やはりエルフやベルセルクと比べると見劣りしてしまう。

 彼らのような一撃必殺の技を、私は持っていない。

 魅了術で『死ね』と言えば終わりだが……効果が相手に依存している時点で『必殺』ではないし、避け方さえ知っていればもう通用しない。


「……」


「カーミラさん?」


「ううん、なんでもない。とりあえず建物にヒトの形跡がないか調べましょう」



 ◆  ◆  ◆



 調査は前回の半分以下の時間で済んだ。

 エルフとの交戦で建物が半壊しているせいで、見るべきところが文字通り半分になっていたからだ。

 無事な部屋もあるにはあるが、ヴァンパイア王国の寒さを凌げるほどではないので、寝たら間違いなく凍死するだろう。


 潜伏場所としては、ここは崩壊しすぎている。

 やっぱり、私の予想は外れていたのか……?

 落胆と絶望が胸を締め付けようとしたその時、カーミラさんが例の土に覆われた部屋の地面を掘り始めた。


「何をしているんですか?」


「ん。扉を探してるの」


「……扉?」


「その様子だと、この下は調査してないみたいだね」


「下に何かあるんですか?」


「地下室だよ」


 カーミラさん曰く、この部屋の床に地下へ続く階段があるという。

 ただ単に草花が生えていただけの部屋だと、私もイワンも見落としていた。


「カーミラさん、以前にも来たことがあるんですか?」


「小さい頃に一回だけね。地下に行こうとして怒られたから、すごく記憶に残ってるの……ほら、あった」


 彼女の宣言通り、軽く土を掘ると扉はすぐに現れた。



 ◆  ◆  ◆



 資料の残っていなかった地上とは打って変わって、地下はほとんどのモノがそのまま残っていた。

 経年劣化によってそれなりに朽ちてはいるものの、資料もいくつかは棚に納められたままだ。

 見渡す限り、ヒトの気配はまるでしないが……。


「これだけ広いなら、隠れることもできなくはない、か」


「私はあっちを探すね。くれぐれも注意してね」


「はい」


 乱雑に置かれた資料の乗ったテーブルに、ランタンの光を照らしていく。

 読むためではない。積もった埃が不自然になくなっていないかを調べるためだ。


「…………ん?」


 読むためではない。

 なのに、その『本』を目に留めた瞬間、私の手は止まった。


『魔法の起源・改定版』


 ……?

 ヒト科動物研究所なのに魔法の歴史書?

 確かに魔法とヒトは切っても切れない関係にあるが……それをわざわざここに置いておくか?


 イワンを探さなければならない。

 なのに……私は、それを開いてしまった。








『魔力の収集法と活用法――魔法とは、飢餓を乗り越えるために争っていた四種族が休戦し、共同研究した末に生み出されたものである。


 ドワーフ、アルマロス、ラミア……そして、エルフ。


 彼らの多大な貢献によって魔法は確たる技術となり、ヒト科動物は一つ上の存在へと進化した。


 ……と、されている』



「……」


 私はページをめくる。

 自分でもよく分からないが、その手は震えていた。



『近年になり、それらが真実ではないという資料が過去の遺跡からいくつも発見された。

 魔力を最初に発見したのは名も無い少数種族で、彼らは他種族との交流を避け、魔法によって独自の生活を営んでいた。


 彼らに種族を冠する名は無いが、本書では便宜上、以後彼らのことを身体的特徴にちなんで『白の種族』と呼称する』

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