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転生者の憂鬱  作者: 八緒あいら(nns)
第二章 少女編

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第六十五話「エルフ種族」

~前回までのあらすじ~

自分の出生のヒントを見つけるべく、イワンを連れてヒト科動物旧研究所に向かったエミリア。

しかし中はからっぽで、それらしいものは何もない。

諦めて帰ろうとしたその時、エルフ種族から強襲される。

 エルフ種族。


 三大種族の一角にして、元祖と呼べる存在だ。

 もとは大陸に広く生息していて、自然を好む穏やかな性格をしていたらしい。


 ――しかし、魔法技術が発展し術を完成させてから、その態度は一変した。

 他種族に対して排他的になり、労働力として使役するようになったのだ。文献によると、奴隷制度はエルフ種族が始めたのでは? という説もある。


 はじめは彼らのいいようにやられていた他種族だったが、対抗手段として独自の術を編み出していった。


 強力な術を使えるとはいえ、多勢に無勢。エルフは次第に領地を追われ、大森林の奥に逃げ込んだ。


 ――そして、ベルセルク種族と地形が変動するほどの大激闘を繰り広げたのを最後に、彼らは歴史から姿を消した。



 ◆  ◆  ◆



「なんでそんなのが分かるんだよ?」


「後あと!落ち着いたら全っっ部説明するから!こっちに来い!」


 未だ得心が行かないイワンを引っ張って、植物部屋に逃げ込む。

 ――ほぼ同時に、入り口のドアが乱暴に蹴破られた。


「――」


「――」


 リビングで何かをぼそぼそと言い合う二人組。

 そして、近い部屋から順番に術で攻撃を開始する。

 ドアごと壁が破壊され、轟音が鳴る度に建物そのものが軋んだ。


「おい、こんなところに隠れてどうするんだよ!?」


 声と気配を殺しながら、イワンが囁く。


「私の得意技を忘れたのか?『土牢』で下に逃げるんだよ」


 敵を閉じ込めるのに重宝するが、緊急時に自分が逃げる用にも役立つ魔法だ。

 もっとも、諸々の関係で潜ったまま移動できないというのが難点だが。

 できるだけ深くまで潜り、相手が諦めるまで待つしかない。


「いきなり攻撃されて尻尾巻いて逃げるのか?!」


「そうだ!私たちじゃ勝てないんだよ!」


「……っ」


「勝てないんだ。今は私を信じてくれ」


「…………わかった」


 不満たらたらな表情のイワンだったが、私の勢いに押されて渋々頷いた。


 あいつらの目的は不明だが、エルフならばこの辺りは土地勘も無いだろうし、私たちの姿が見えなくなれば諦めてくれるはず――とは言ったものの、異邦人の心中など完全に把握できるはずもない。

 そうあってくれ、という期待を込めて地面に手を当てる。


 跳ねる心臓を無理矢理抑えつけ、精神を集中させる。

 こんなところで魔法が不発になったら目も当てられない。

 落ち着け……落ち着け……冷静になれ。


「やるぞ」


 私の合図と同時に、地面にしゃがみ込むイワン。

 魔法が発動し、私たちの体は――。


「――っ!」


 ……。


 ……。


 ……あれ。


「なんでだ……魔法が発動しない!?」


 底なし沼に落ちたように沈むはずの体は、未だ無防備なまま地上に野ざらしになっていた。

 まさか、こんな大事な場面で不発(ポカ)をやらかした――?

 いや、魔法はちゃんと発動している。

 ただ、()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――エルフ種族は、二人いた。

 もう一人が『何か』をやっているとしか思えなかった。


「イワン!外に出るぞ!」


 私の意図を正確に汲み取ってくれたイワンが、タイムラグなしで剣の切っ先を窓ガラスに向ける。


「はぁッ!」


 窓枠と、その周囲の壁ごと破壊した即席の出口に、私たちは飛び込んだ。


 ――数拍のち、ドアから部屋を埋め尽くす量の氷が明らかな殺意を伴ってなだれ込んできた。

 切っ先のいくつかがイワンの作った出口を抜けて私たちの元へ迫る!


「ぬん!」


 襲い掛かる不自然な自然を、イワンの剣が粉々に砕いた。

 入れ替わるようにして、今度は私が前に出る。

 物体操作を駆使して作った拳よりも大きな土玉を、力を込めて発射する。


「いけぇぇぇ!」


 当たれば部屋を吹き飛ばすくらいに魔法を重ね掛けしたが――旧研究所に着弾するよりも前に、土が隆起してその中に吸い込まれてしまった。


「――ち」


 有効打になるとは思っていなかったが、ここまで手応えがないとは……。


 しかし、イワンの技量には目を見張るものがある。

 彼が持つのは学生に支給される用の汎用的な剣で、斬れ味よりも頑強さを売りにしている――いわゆるナマクラだ。

 にも拘わらず、あれほどの鋭さと速さを持つエルフ種族の術を両断できている。


 魔法の才能がほぼ全てと言っていいヴァンパイア種族の中を、剣術だけで成り上がってきただけあって、その腕前は折り紙付きだ。


 私一人では無理でも、イワンとなら、或いは――。

 破壊した壁から、例の二人組がのそりと身を出す。


 戦うためだろうか、二人とも被っていたフードを外していた。両方とも男だった。

 一人は若く、私たちと同い年くらい。好戦的な目をギラつかせてこちらを睥睨している。

 手には剣のような形状をした氷を握っていた。


 もう一人の方はかなり年齢を重ねている。私の知り合いの中で言えばワシリーくらいだろうか。

 二人とも緑髪緑目。間違いなく、エルフ種族であることが確定した。


「Что вампир?」


「Это человек. Мои глаза красные.」


 二人で何かを話している。

 独特の舌を巻くような発声――エルフ語だ。


 魅了術を有効活用するため、ワシリーからある程度の語学は教え込まれている。

 が、彼らの言語は不明な点が多い。

 習ったのが三年も前ということもあり、ナマの発声を聞く機会も無かったので――一度だけあったが、それどころじゃなかった――正直、翻訳できるほどではない。


 相手がヴァンパイア語を覚えてくれていれば話は早いんだが……。

 二人組の片割れがイワンを指差して――肩を揺らした。

 笑っている。


「Сильный человек, который может только обмануть слабых, держит меч или что-то в этом роде. Если это так, эта вещь называется «больше падать в вампира, который только ослепителен».」


 何を言っているのかさっぱりだが――馬鹿にしていることだけは伝わった。

 イワンは露骨に眉を歪めて犬歯を剥き出しにする。


「あ"?なんだてめぇ」


「やめろ。意味も理解できない挑発に乗るな」


 どうにかイワンをなだめながら、周囲の状況を確認する。

 壁をぶった斬ってもらい外に出たはいいものの、王都に続く道とは完全に逆方向だ。


 そして、私の物体操作の魔法が発動しなかった件だが……それは今も継続している。

 さっきから二人組の足元に落とし穴を作ろうとしては不発になっている。


 片方は『氷』で攻撃を担当し、もう片方が『土』で防御する。

 ――偶然にも、防御担当の術が完全に私の土操作を無効化していた。


 悪いことは重なるもので、攻撃側も()()私の得意技が通用しない。

 駄目元で一発、雪玉を発射する。


「Извините. Лед для меня сейчас не эффективен」


 避けもせずに雪玉を受けるが、それは相手の体にするりと取り込まれ、何の効果ももたらさなかった。


「……なんだ?今のは」


「あれがエルフの持つ“精霊術”の力だ」


 ――精霊術。

 自然に宿る精霊と対話し、抽出した力を自然現象に変換する術だ。

 ()の術を一言で表現する言葉がある。『属性魔法』だ。


 自然は人々に恵みを与えることもあれば、災いをもたらすこともある。

 エルフはそれを自由に操作できるのだ。

 敵だけを燃やし、自らには(だん)を与える炎。

 敵だけを流し、自らには潤いを与える水。

 敵だけを吹き飛ばし、自らには(りょう)を与える風。


 自然現象が自分()()に牙を剥く恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。



 精霊術のもう一つの特徴として、『同化現象』というものがある。

 これは精霊術を使っている間は『全身がその属性を帯びる』というものだ。

 氷エルフがちょうどいい例だ。彼は氷でできた剣を素手で握っているが、持っている部分が霜焼けになったりはしていない。

 そういった術者に不利な現象を防ぐのが『同化現象』の役割だ。


 これが厄介なことに、相手からの攻撃にも適用される。

 私の雪玉が通じなかったのはこのためだ。

 氷の精霊術を使っている限り、あのエルフには同じ属性である雪玉は通じない。

 同様に、土の精霊術を使うエルフの方は土玉が通じない。


「なんだよそれ。そんなのアリか!?」


「アリなんだよ。それがエルフ種族の精霊術だ」


「くっ……どうすんだよ?」


「どうするも何も……こうなった以上、戦うしかない」


 私が中距離戦闘で最も活用する土玉・雪玉は使えない。

 言葉が通じないから、相手への魅了術も使えない。

 残る策は自己強化の魅了術を使い、肉弾戦に持ち込むくらいしかない。

 状況は最悪だが……泣き言は言ってられない。


「私が先に動いて土の方を抑える。イワンは氷の方を」


「わかった」


「Это волшебство сейчас, действительно человеческая раса?」


「Разве вампир не играл с твоим телом?」


「Разве не лучше было бы перестроить, чтобы груди все равно стали больше? Или это популярный вид, как плохое состояние, такое как вы?」


 土エルフが、私を指して何かを言っている。

 ……何を言っているかは分からないが、とてつもなく失礼なことを言われた気がした。

 案外、言葉以外の仕草や表情で何を言っているのか大体分かるものなんだよなぁ……。


 私は目を閉じた。

 そして、紡ぐ。

 現実を思い通りに捻じ曲げるように。


「『韋駄天』」


 パリン――と、薄氷が割れるような音がして、幻視術が解除される。


「――Белые глаза белые глаза!」


 土エルフが驚いたように目を見開く。

 ――その間に、私は彼の目の前まで移動していた。


「『剛力』」


 俊足のスピードが失われ、変わりに石すらも握り潰せるほどの力を得る。


 もらった! というより、これで倒れてくれ――という祈りを込めて、土エルフの首筋を掴みにかかる。


「медленно」


 地面から土が棒のように伸び、私の腕に絡みついた。


「『堅硬』ッ!!」


「Быть раздавленным!!」


 叫んだのはほぼ同時だった。

 土が、ギュウッ――と私の腕を圧迫してくる。

 そのままの状態だったら、腕が潰され千切れていただろう。


 冷や汗で体の温度が消えたような感覚を味わいながらも、直前に叫んだ魅了術の効果――防御力を上げるもので、体が鉄以上に硬くなる――のおかげで事なきを得る。


「ふん!」


 地面から伸びている土を蹴り飛ばすと、腕を締め付けていた土がボロボロと形を崩して落ちていく。


「Этот парень, не попадая! ?」


 私がいきなり移動したことに驚く氷エルフ。

 私を串刺しにしようと手をかざしたところに、イワンが獰猛に喰らいつく。


「お前の相手は俺だ!」


「――!!」


 氷と鉄。二つの物質で作られた刃が交差して、小さな礫が舞う。


「Ребенок, слабое племя!」


「うるせぇ!なに言ってんのか分かんねーよバーカ!」


 罵声を交わしながら、至近距離で斬り合いを仕掛けていくイワン。

 武器の切れ味はおそらく相手の方が鋭い。

 まともに斬り結べば折れてしまうはずだが、イワンは相手の刃を逸らすことに注力していた。

 対して氷のエルフは力いっぱい振るだけで、剣術そのものはそれほどでもない。


「Это действительно вампир! ?」


「Исаак!」


 不利になる氷エルフを、土エルフが助けようとする。


「『剛力』……!」


 すかさず魅了術をかけ直し、力任せに土エルフに蹴りを叩き込む。


「Гуаровая!」


 土エルフの体が十メートル以上も吹き飛ぶ。

 見かけは派手だが――実際のダメージは皆無だ。

 蹴りを入れた場所はしっかりと防御していたし、地面に激突する瞬間に柔らかい土を生み出して衝撃を和らげていたのが見えた。


 まあ、攻撃を前提としたものではないのでそれはどうでもいい。


 大事なのは、氷エルフから遠ざけること。


 私とイワンは背を挟んで両者と対峙し、エルフ達は分断されるような格好になった。


「よし……!」


 地の利は得た。

 見方を変えれば囲まれる格好だが、下手に連携を取られるよりはこちらの方がいい。


「イワン、そっちは任せた」


「……! 任された!」


 嬉しそうにイワンが吠え、剣が交じり合うキンキンとした音が大きくなって回数を増していく。


 不思議なものだ。

 あれほど勝てないと震えていたエルフ種族と、こうして面と向かって対峙できる日が来るなんて。

 後ろで頑張ってるご主人様のおかげだろうか。


「Невозможно сказать, что белоглазые белые глаза живы до этого возраста ... Что думает вампир?」


 私を睨みつけながら何かを呟く土エルフに、私は不敵に笑いかける。


「うるせぇ。なに言ってんのか分かんねーよバーカ」

NG集


『言語』


 魅了術を有効活用するため、ワシリーからある程度の語学は教え込まれている。

 が、彼らの言語は不明な点が多い。


「Извините. Ле(゜Д゜) (゜Д゜)ля меня сейчас не э(фωф)ективен」


 ……気のせいか、顔文字が時折挟まっているように聞こえてしまう。

 エルフ語とは、かくも不思議な言語なのだ。



『発音』


「Почему в таком месте ロリ девочка?」


「チビ и симпатичный」


「Я должен быть добрым к 幼女」


「てめーら絶対こっちの言葉分かってるだろ!?なんでロリだのチビだの、そういうワードだけ流暢なんだよ!!」


「エミリアやめろ!意味も理解できない挑発に乗るな!」

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