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転生者の憂鬱  作者: 八緒あいら(nns)
第二章 少女編
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第五十四話「魔力適性測定器」

~前回までのあらすじ~

アリシアの誘拐事件に違和感を感じたエミリア。

確信はないものの、もしかしたら自分のせいで事件に巻き込まれたのでは?という疑惑が浮上する。


一方学園では、一癖あるメイドのイリーナと共に研究棟へと派遣された。

 魔法の『強さ』とは何か?


 発動の早さ?

 扱える種類?

 使える規模?

 正確さ?


 それらは長い間、様々な種族の間で議論されているが――未だ結論は出ていない。


 早く発動できるからといって、効果が弱ければ意味が無い。

 たくさん魔法を使えるからといって、それが強さに繋がるとは限らない。逆に、ただ一つの魔法を突き詰めて使うことで、驚くような強さを発揮することがある。

 三大種族がいい例だ。彼らは魔法の一端を極限まで突き詰めることで、さらに上の効果を発現することに成功している。


 要するに、魔法の強さというのは使い手次第――というのが通説なのだが、派遣された研究棟で開発されていたものは、議論が続く『魔法の強さ』に一石を投じるものだった。


「魔力適性測定器……ですか」


「フヒッ。これが実用化されれば、文字通り世界の常識が覆されるよ」


 自慢げに『それ』を披露する研究員。

 彼こそがこの魔力適性測定器の開発主任であり、ここ研究棟の教師でもある。

 専門的な知識を多く必要とするこの研究棟では、学生たちは彼の研究を手伝いながら、実戦形式で勉強するというスタイルを取っている。


 主任は大きな体を揺らしながら、フヒフヒと興奮気味に語った。

 食糧事情が前世よりも厳しいこの世界で、これほど太っているヒトはかなり珍しい。

 ……体重が増えないことが悩みの一つである私に何キロか分けてくれないだろうか。


「フヒッ。もともとは魔力を吸収して魔法の発動を邪魔する道具だったんだけどね。僕はその『魔力を吸収する』という点に目を付けたんだ。吸収した魔力を特殊な方法で数値化することで、その人物の持つ魔力収集能力――つまりは、魔法に対する適性と呼べる部分を数値化することに成功したんだ」


「すごいですねー!」


 目の前に置かれた発明品を見て目を輝かせるイリーナ。

 どう聞いてもお世辞と分かるような言葉だが、主任はその言葉に大いに気を良くし、魔力適性測定器とやらについて事細かに説明し始めた。


「でもまだまだ課題は山積みだよ。装置の核となる石の容量が小さくてね。魔力適性の高い人物が長時間触れていると石が割れてしまうんだ。これを解消するためのアイデアはいくつかあるんだけどね――」


 それを嫌な顔をせず、ふんふん、といかにも『聞き入ってます』という様子のイリーナ。

 時折しなを作り、女の子らしい可愛い仕草を織り交ぜながら話を弾ませている。彼女はそういう『男が喜びそうな仕草』をするのが異常なほどうまい。

 見習いたいような、見習いたくないような……。


「こんなすごい発明品を作れるなんて、主任さんは天才なんですね!」


「フヒヒッ。それほどでも。そうだ、よかったら一度試してみるかい?」


「えー!いいんですかー!?」


「フヒッ。より正確な数値を出すためにいろんな種族の魔力適性を見たいからね。測る方の腕にアクセサリーが付いていたら外してくれるかい?」


 言われた通り、左手の小指に付けていた指輪を外しながらイリーナが尋ねる。


「これがあると何か不都合があるんですか?」


「より正確な数値を計測するためさ。触れた物全ての魔力を計測するから、下手をすると君じゃなくてその指輪の魔力を測ってしまうかもしれないからね」


「なーるほど」


「じゃあ、ここに手を置いて……そうそう、フヒッ。そのまま待ってね」


 魔力適性測定器は、縦に長い箱のような形をしていた。

 酒場に置いてある業務用の酒樽の大きさ、と言えば分かりやすいだろうか。あれを大きさはそのまま、四角くした感じだ。

 箱の上部分の中央に掌サイズの四角い囲いがあり、使うにはそこに手を入れるだけでいいようだ。

 あとはそのまま十秒ほど待つだけで、数値がぼんやりと浮かび上がってくる。


 ……そう言うだけでいいのに、主任はイリーナの手を、ぎゅっ、と握ったまま離そうとしない。

 イリーナの表情が、私だけに分かる程度に曇った。

 彼女の心を代弁するなら、「いつまで手握ってんだこの野郎」だろうか。


「あ!数字が浮かんできました!魔力適性……556?」


「フヒッ。おっと失礼。僕の魔力と混ざってしまったね」


 そう言って、主任は手を放した。

 途端に数値は下がり、5と表示される。


「5……。これが私の魔力適性ですか?」


「フヒッ。そうだよ」


 イリーナはやはり私にだけ分かる程度に表情を歪めてから、両手を合わせて研究員に尊敬の眼差しを送った。


 役者だなぁ……。


「ってことは、主任は551も魔力適性があるってことですね!すごすぎです!」


「フヒヒッ。どうってことはないよ。ヴァンパイア種族の中ではごく平凡な数値さ」


 言葉では謙遜しているものの、研究員の顔には得意げな表情がありありと浮かんでいた。

 自分の数値を見せたのは、わざとだろう。

 きっと俺SUGEEEEEをやりたかったんだろうな(その気持ちはよく分かる)


「それより、イリーナ君も人間種族にしてはなかなかの魔力適性値だよ。どうだい、今度僕が魔法を教えてあげようか?」


「とても魅力的な申し出なのですが……私は既に使用人として雇われている身ですので……」


 腰あたりに伸ばされた手を失礼の無いようにやんわりとすり抜け、イリーナは残念そうな顔を作った。


 どうも、主任は随分とイリーナのことを気に入っているみたいだ。

 反対に、私にはあまり関心を持っていない。

 この場所に来た時に頭のてっぺんからつま先まで一瞥されて、フンと鼻を鳴らされて……それっきりだ。

 なんとなくだが、チビと心の中で思われているような気がする。

 根拠は無いが……女の勘、というやつだ。


 そんな私に気を遣って――もしくは、標的を自分から反らすために――か、イリーナがこちらに話を振ってきた。


「あの、彼女も測って頂くことはできますか?」


「ん……、いいよ」


「ありがとうございます! ねー、そんな隅っこに居ないでエミリアも測ろうよー」


「え?いや、私は別に――」


「いいからいいから、こっちおいで」


 女子らしいキャピキャピ(死語)した声で私を魔力測定器の前に引っ張ってくるイリーナ。

 ちょうど立ち位置的に、主任と彼女の間に割って入るような形になる。

 完全に盾代わりだ。


 ……まあ、いいんだが。

 それよりも差し迫った問題が私の目の前に鎮座していた。


「フヒ。そこに手置くだけでいいから。さっさとして」


「ほらエミリア、早く早くー」


「ええっと……」


 個人的に、この装置にはとても興味がある。


 私の魔力適正とやらはどれほどのものなのか。

 本家には遠く及ばないにしても、魅了術まで使えるんだからさすがにイリーナと同程度ではないだろう。

 少なくとも数十倍――もしくは数百倍はあるはずだ。


 もしかして……もしかして、だが、よくあるチート小説のような「なにィー!?魔力適正10000だとォー!?」みたいな展開になるかもしれない。


 かつて諦めた、憧れのシチュエーションではないか!

 俺SUGEEEEEができる、最大のチャンスが到来している!


 しかし――そのチャンスに飛びつくことはできない。



 適性値10000はさすがに言い過ぎだが、私の魔力適性値はヴァンパイアにほど近い数値になるのではと予想している。

 彼らからすれば普通でも、適性値5で「なかなか」と評される人間種族にあって500近い数値を叩き出せば、どうなるのかは火を見るより明らかだ。


『目立つのは嫌だ』『平穏に生きたい』『ひっそりと暮らしたい』などと言いながらどう考えても目立つ方向に行動しているようにしか見えないラノベの主人公にはなりたくない。

 少し憧れてはいるが、なってはならない。


 人知れずイワンを護衛する身として、私は影の存在でなければならないのだ。



 かと言ってここで頑なに拒否するのも少し不自然だ。

 なんとか回避しなければ……。


「フヒ、何をグズグズしてるの。早く測って!」


「…………わかりました」


 私はゆっくりと、魔力適性測定器に手を伸ばした――。





 ◆  ◆  ◆





「エミちゃんお疲れ!」


「おー。おつかれ」


 あっという間に放課後になった。

 ふぃーっ、と伸びをしながら、私の前を歩いていたイリーナがこちらへと振り返る。


「魔力を測るやつ、残念だったねー」


「あ、ああ。変に夢を抱くよりはある意味よかったのかもな」


 ちょっとした小技を使い、なんとか誤魔化すことに成功した。


 方法は至極簡単。触れたモノの魔力を計測するというなら、要は私が触れなければいいだけだ。

 ハンカチを物体操作の魔法で二人に見えないように手の形に変形させ、装置と掌の間に挟むだけで魔力適性値は見事に「0」と表示された。


 主任には小馬鹿にされたが、バレるより百倍ましだ。


「それにしてもあいつ、触って来すぎ!顔も近いし息も荒いし、おまけにあんな重いモノを一生懸命運んでるのに邪魔してくるし!」


 ぷんぷんと肩を怒らせるイリーナ。

 確かにあの装置、女二人で運ぶにはいささか重すぎるシロモノだった。


 ヴァンパイアが長い間触れていると壊れる可能性があるから、主任が手伝えないのは仕方ない。

 ただ、「フヒヒ手伝ってあげるよ」と言って、両手が塞がっているイリーナの腰やら尻やら胸やらを触るのはいかがなものだろうか。手伝えないなら、大人しくしていて欲しかった。彼女の怒りは最もだろう。


 ひとしきり愚痴を吐いたらすっきりしたのか、イリーナは表情を一転させて笑みを浮かべ、


「――それはそうと今度の休み、昼から予定空けといてね!」


 と、唐突に告げた。


「? あ、ああ」


 またカーミラさんが突撃してくる可能性があるが、だいたい昼前にはお開きになっているので予定が被ることはないだろう。

 ……というか、イリーナが私を誘うなんて珍しい。何かするんだろうか?


「ふふふ……今からエミちゃんに似合うメイクを考えないと……そうだ、せっかくだからアリシアも誘って服も……」


「?」


 何やら小声でごにょごにょとつぶやくイリーナ。

 よく聞こえなかったが……何か、猛烈に嫌な予感がする。


「それじゃ、私はここで。主任に触られたところをご主人様に浄化してもらわないと♪」


「おう……じゃあ、また明日」


 さっきまでの不機嫌はどこへやら、嬉しそうな表情をしながら、そのまま道の向こう側へと消えて行った。



 ◆  ◆  ◆



 騒がしいヤツが居なくなると、途端に静かになった。

 お馴染みの場所でイワンの訓練が終わるのを待ちながら、私は自分の掌を開いてぼんやりと眺めた。


「……魔力、測ってみたかったな」


 ちゃんと測って、今の自分がどの程度のレベルなのかを知りたかった。


 ()()()のワシリーの言葉が本当であるかを証明するために。



「あ、そういえば」


 あの装置を運ぶとき、長いこと素手で持ってしまっていたが……大丈夫だったのだろうか?

 主任の説明によると、ヴァンパイア種族が長時間持っていたら壊れてしまうらしいが。

 私はヴァンパイア種族ではないが、魔力適性は似たり寄ったりのはず。


 ……。


 ……。


 ……。


 まあ、計測する部分に触れていた訳じゃないし、別に問題は無いだろう。

NG集


『十人十色』


「5……。これが私の魔力適性ですか?」


「フヒッ。そうだよ」


イリーナは目をキラキラさせ、研究員に尊敬の眼差しを送った。


「すっごーい!キミは魔力適性が高いフレンズなんだね!」


「ちゃんと更新してたらタイミングばっちりの時事ネタだったはずなのに、サボっていたせいで時期がズレてものすごいスベってる!」




『あぶない』


『目立つのは嫌だ』『平穏に生きたい』『ひっそりと暮らしたい』などと言いながらどう考えても目立つ方向に行動しているようにしか見えないラノベの主人公にはなりたくない。

少し憧れてはいるが、なってはならない。


「ほう……エミちゃんは誰をディスってるのかな?」


「炎上を誘発するようなツッコミはやめろ!」




『〇〇が得意な……』


第五十三話  2017/04/30

第五十四話  2017/08/23


「すっごーい!作者はサボリが得意なフレンズなんだね!」


アワワワワワワワワ

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