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三ヶ月もすると彼女はようやく登校するようになった。


俺はその間、彼女の見舞いに行くことは一度だってなかった。






「中村さん、おはよう。」


一応声をかける。

案の定無視されて席に座られた。


「足とか、もう大丈夫なの?」


「おかげさまで。」


そんなこと言いながらも目は怖いくらいに睨んでいる。


「あなたこそ、指は治ったようで。」


指に目をやられた。

もう包帯は巻いてないし、変に曲がってもいない。


「おかげさまで。」









スカルの願いを君に。










昼休みになると彼女は姿を消していた。

どうしても行き先が気になった。

行き先なんてわかってるけど。


「中村さん」


少しビクッとして窓の外を見ていた顔をこちらに向ける。


「…来たの。」


「来るよ。」


何度だって、君が自殺をしようとするなら。

俺は指に手をかける。


「死ぬ気?」


「死んだらまた数ヶ月あんな状態をすごさなきゃいけなくなるじゃない…」


悲しそうな、恨みをもった表情をした。


「君の為なら、何回でも折るよ。」


「他の事に使ったりすればいいじゃん…!」


ヒステリックに中村さんは叫び出す。


「それ、考えてたらさ、一生使わない気がして。」


つい、他に使える事があるのではないかと悩んでしまうんだ。


「なんで、なんで私なのよ…」


「そこに君がいたから。」


「…君の苦しみを増やしたのも俺だし、君の悪口を言うのを止めずに無視したのも俺だ。でも、君の死にたいが聞こえたのも俺だし、君を助けれるのもきっと俺だけなんだ、だから君を助けたい。」


今使わなきゃきっとだめなんだ。

残り、二本。


「あなた、変なのね…」


「中村さんも十分変だと思うよ。」


僕は薬指に手をあてる。


「こっち向けないで…!」


「折らないよ、痛いから折りたくないし。それよりさ、こっちに来てよ。」


まだ中村さんは窓によしかかってる。

今すぐにそのまま下へ落ちてしまいそうだ。


俺は覚悟を決めて中村さんの方へと歩み寄る。


ああ、なんで最初からこうしなかったんだろう。


「え?」


俺は中村さんの手を握る。


「ちょっ!」


中村さんから来ないなら、俺が引っ張ればいいじゃないか。

俺が近づけばいいじゃないか。

そのまま俺は中村さんと窓を離れた。


「図書室に行こう。違うところでもいいさ。あ、それとも学校さぼる?お昼食べた?」


「え?訳がわからないんだけど…?」


段々恥ずかしくなってきて俺から手を離した。

でも、窓からは離れれたんだ。


「だから…自殺したいって思わなければ良いんでしょ?それならこう…違うこと考えたりとかさ。」


「…」


「バカみたい。」


中村さんは少し笑ってみせた。

あぁ、なんだ、笑ったら可愛いじゃん。


「ずっと笑ってれば良いのに。」


「気持ち悪いだけ。」


「変なの。」


そうやってむすっとしてるよりずっと良いと思うのにな。

そんなことを話していると図書室についた。

昼休みだからか、人が少ない。

というかいない。

もしかして閉館してたのだろうか。


「人、いないね。」


「いいよ、別に。」


椅子に座る。

独特の木の匂いでなんだか懐かしさに溢れている。


「どうする?このまま見つかって起こられるまでずっといようか?」


「昼休みが終わってもいるつもりなの?」


「なんなら無傷で降りるって頼んでここから飛び降りて、学校サボったって良いんだよ?」


「その指は信用できない。」


無駄に指を折ってしまったところを見られたからか、あまり信用されてないらしい。


「これさ、折る時すごい痛いんだよね。」


「どれくらい痛いの?」


「こうやって冗談まじりに指を反対に曲げるだろ、これの一線を超えるんだよ?想像するだけで痛くならない?」


「わかりにくい。」


同感だ。

痛いとしか言いようが無いものを言えと言う方が悪いんだ、うん。


「じゃあその痛み、使ってくれるかな」


「何か願い事?」




「…立山くんと私の縁を切って。」




目を合わさずに中村さんは言った。

申し訳なさそうに。


「何言って…」


自分なりに中村さんとは前より打ち解けたと思っていた。

今だってこんなに普通に話してるし、というか話していて楽しいと思えた。

なのに、縁をきろ、と?


「立山君は優しい人だから、私とは関わって欲しくない。」


「優しい人だからこそ中村さんにも優しくしてるんだろ?」


「迷惑かけたくないの、私と仲良くしていたらいつか立山君も私と同じ運命を辿るから。」


俺と中村さん以外、誰もいない図書室に時計の針がなり響く。


「それでも、俺は良いよ。」


俺は薬指に手を当てた。






「俺は中村さんとの縁を、絶対に切らない。」






思いっきり反対に指を曲げる。

ボキッと生々しい音がした。


「…っ!!!!ぁあ…く…っん……」


ジリジリと薬指の付け根が痛みで俺を縛っていく。


「なんでそんな事に使って…」


中村さんは驚いた表情でこっちをみてきた。

もう吐かないようだ。


「それくらい、俺は中村さんのこと…」


…ん?


中村さんのこと、なんて言おうとしたんだ俺。


慌てて口を抑える。


「え…?」


「中村さんのこと、心配してるから。」


こんな早い段階で告白するバカが何処にいる!


「そ、そうですか…」


変な空気だ。

そりゃそうだ、普通あそこまできたら告白の文だろう。

きっと中村さんも少し構えたハズ。


「ごめん、紛らわしい言い方。」


「勘違いする方が悪いの、大丈夫。」


いつの間に俺はこの人を好きになったって言うんだ。

根暗だろ、顔もそこまで可愛くないし。

いや笑った顔は可愛かったけど。

死にたいとかいって死のうとするし。

助けた割には文句言うし。

喋っててすごい楽しいし。

人の事思ってるし………




「…好き。」



「中村さんのこと、好き。」



穴があったら入りたい。

中村さんは目線をあちこちに移動させようやく自分の手を見ながら口を開いた。


「後悔するよ?」


「後悔するからこそ、人生なんじゃない?」


折った指を見せる。


「…そうだね。」


そう言ってまた笑ってくれた。

時計を見ると、いつの間にか授業が始まっている時間になっていた。

初めて、中村さんを救えた気がした。

















左手の中指をそっと握った。

そのまま、手の甲の方向へと曲げて行く。







「君が幸せになれますように。」









今度こそ、叶うかな。



そんな願いを、乾いた音にのせた。

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