前
思った通りにいく人生なんてつまらない。
思い通りにいかない人生もつまらない。
「雄介、まだ起きなくて大丈夫なの?」
母の声が聞こえる。
…朝だ。
「今起きる…」
時計を見て、ようやく寝坊した事に気づく。
…
「うわああ!!!」
今日も平凡だ。
立山 雄介、高校一年生。
今の今まで平凡に生きてきた人間だ。
きっとこの先もそれを使わない限り平凡に生きれると思う。
僕には願いを叶える力がある。
スカルの願いを君に。
僕には右手の指を折る事で願いを叶える力がある。
ただ、それは一本につき一本かぎりで、何処かの都市伝説みたいなものだ。
まだこれまでには一回しか使ってない。
使うのが怖いんだ。
死んだ友達が言っていた、『幸せは不幸を呼ぶ』って。
本当に使いたい時、これを使うべきなのだと思い、今日の今日までとってきた。
まだ、使う気はない。
「ギリセー!」
見ると先生が玄関に鍵をかける直前だった。
「ったく、運が良いなお前。」
「はぁ…はぁ…へへっ。」
昔から運が良いとは言われている。
教室に入り席に座る。
友達に不自由もなく、本当に平凡な毎日だ。
「…死にたい。」
え?
後ろから死にたい、と言う言葉が聞こえた。
幻聴かもしれないけど。
後ろにいるのは、比較的クラスの中では暗い方に入る女子だ。
名前は…
「中村ってさ、暗いよな。」
そうそう、中村。
「こっちまで暗い気分になるから嫌だわー。」
そんな大きい声だすなよ、聞こえてるだろ。
…聞こえさせてるのか。
「はやく消えてくれないかな。」
「言い過ぎだろ、さすがに。」
言っていいことと、悪い事がある。
「じゃあお前中村と楽しく会話できるのかよ」
知るかよ。
「ほら、席に座れ!」
先生が教室に入ってきた所で会話は終わった。
俺が彼女と話す事で得れる利点は無い。
ただ、消えたって利点は無い。
教室でハブられるってどんな気持ちなんだろう。
そんなこと考えたって、彼女の救いになるわけではなくて。
「中村さん、何処いくの。」
放課後、図書室に行こうとする途中で中村を見つけた。
中村も図書室に行くのかと思ったら曲がって変な場所に行くから不安になった。
「と、図書室に行こうとしてたわ。」
「嘘つけよ、図書室はあっちだよ、窓を見つめて、窓を開けて何しようとしてるの?」
答えは既にでている。
「自殺よ。」
なんて簡単に言うんだろう。
「あなたこそ、なんでそんなわかっているかのように言ってきたの。」
「聞こえたから。」
『死にたい』って。
「…そう。」
はやくそこからはなれてほしい。
いくらなんでも急すぎる。
死ぬなんてダメだ。
「近づいたら飛び降りるから。」
彼女は窓を開けるとふちの部分に座って足を出して見せた。
「わ、わかったから…!」
「近づかなくても落ちるけど。」
「え?」
彼女は窓に添えていた手をはなすと外へと乗り出した。
落ちた。
ここは六回。
間違いなく死ぬ。
ふと、気づいた。
今が使うときじゃないか
俺は右手の小指を掴む。
「彼女の自殺を失敗させろ!」
勢いよく小指をおかしな方向へ曲げた。
叫。
「ウアアアアアアア!!!!!!!アアアアアアアア!!!!!!」
激痛。
でもこれで彼女の命が助かるなら。
痛みを堪えながらも窓の外を見る。
「う、うそ…だろ…」
下には血まみれの彼女が倒れていた。
あんなの、生きているわけが…
「右足、右腕、中指人差し指小指、肋骨三本骨折。」
生きていた。
俺はすぐに彼女が休んでいる部屋へときた。
「中村さん!」
彼女は放心状態で窓を眺めていた。
「良かった…」
「何が良かったよ…こんなの、一番最悪な事態じゃない…」
こっちを向いた彼女は目に涙を浮かべていた。
「生きてる。」
「私は死にたかったのに…」
何故こんなにも彼女が死にたがっているのかがわからない。
「ねぇ、立山くんは私に何をしたの…」
ばれている。
「何の事。」
「聞こえてたから。」
そりゃ必死で叫びましたからね。
処置された指を見せる。
「俺、指を折ったら願い叶うの。」
「…」
何言ってるの?と言う目。
俺だって実際使うまで信じなかったけど。
「その小指が私を助けたの?」
「そう。」
「ムカつく…」
感謝の一言もない。
だから嫌われるんだよ、と言いたい。
「中村さん、幸せの数だけ不幸の数があるんだ。」
「でも、それは今ある不幸を乗り切ったらちゃんと幸せが待ってるって事なんだよ。」
「死んだら、待ってる幸せに辿り着けないで損したまま終わっちゃうよ。」
まるでテンプレのように、俺は友達に昔言われた事をそのまま言った。
「じゃあ、私を幸せにしてみせてよ。」
「へ?」
「で…出来るんでしょ?その指、なんでも願いが叶うなら私を幸せにしてみせてよ。」
どうすれば良いんだろう。
こんな夢みたいな事、叶うんだろうか。
彼女にとっての幸せはなんだろうか。
俺は興味に負けた。
君が求めるなら、俺は願うよ。
右手の人差し指に手をかざす。
「…彼女を幸せにしてください。」
俺は人差し指を手の甲に向かって思いっきり曲げた。
「っ…!!!!!!」
痛い。
あまりの痛さに涙がでる。
右手を見ると人差し指はありえない方向に曲がっている。
…中村さんは。
痛みに叫びたいのをおさえ前をむく。
「ほ、本当に折って…」
この世の終わりを見ているように青ざめた表情。
「中村さん、幸せ?」
「うっ…!」
彼女は、吐いた。
そりゃそうだよね、こんな気持ち悪い手、見れば吐くことだって…あるのかな。
彼女は口を手で抑えたまま青ざめた表情でナースコールを押した。
「こんな指、嘘っぱちじゃないか。」
幸せなんてこなかった。