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第52話:どうしよう……

「お、おおお……きれいぃぃ」

 氷水そっと引き上げた宝石のようなお菓子を前に、指を組み合わせた。

 向こうの市場で虹色ボンボンの材料を買い込んでいたのだが、とうとう本日、それが完成したのだ。

 自分の作ったバージョンは、周囲に粉をまぶさず透明感をできるだけ出すため、本国エルドラのレシピとは違い、ゼラチンで固めた。

 それが功を奏し、夢のようにきらきらと輝きながら色を変える、虹色の夢のようなゼリーが完成した……。

 味はレモンシュガー風にした。

 自分の想像する『虹のしずく』の味に近く仕上がったと思う。

 時間によってゆらゆらと色を変えるのは「真珠砂糖」というエルドラの名産品の効果。そして透明感は、ガムシロップと香料、ゼラチンのおかげだ。

 エルドラで料理をしているときに『日本のアレがあればいいなぁ』と思った材料。

 戻ってきてしまった今は、それを使って、ハイブリッド・異世界料理を作りたい。

 山のように背負ってきた材料が残っているうちしか試せないレシピだが。

「きれい~」

 シャボン玉ともまた違う、鮮やかな虹の色に輝くゼリーを、携帯の動画に収めた。

 それからお皿に綺麗に盛り付け、正座して一口いただく。

「おいしぃぃ!!」

「一個下さい!」

 鳥が叫ぶので、小皿に一つとって分けてやった。鳥が自分の頭くらいあるゼリーに頭を突っ込む。

「鈴木さんはお料理をさせると別人のような才能を発揮しますね」

「普段はどう思われてんの」

「アッ……ピョロピョロピイイィィィ」

 都合の悪い展開になったらしく、鳥が鳥のまねを始めた。

「……ったく」

「んっ?!」

 ガツガツと虹色ボンボンをむさぼっていた鳥が、驚いたように顔を上げる。

「こっ、これはっ」

 自分が食べていたボンボンを、信じられないモノのようにじっと見つめ、凍り付いている。

「何よ」

「この料理はっ……!」

 鳥の金色の身体が、見る見るすさまじい光に包まれ始めた。

 目が痛いほどの光だ。

「この料理はっ、鈴木さんどうやって料理に魔力を込めたんですか!史上最強のカイワタリの魔力がこのボンボンの中にっ!」

「何言ってんの?! 眩しいから光るのやめてっ!」

 ものすごく強い電球を部屋の真ん中に置かれたみたいだ。冗談抜きでこれは目がつぶれる。

 

「ふおおおおお!」

 鳥が妙な声を上げるのと、光が消えるのは同時だった。

 

「……嘘……なにそれ」

 愕然として、光が消えた後の鳥を見つめる。

 さっきまで小鳥だったのに、カモくらいの大きさになっているではないか……。

 

「なんという、何という魔力でしょう……やはり、界の往復を繰り返したことで鈴木さんは刺激され、固く殻の内に閉ざされた魔力が目覚めつつあるのですっ」

「はぁ」

 

 盛り上がっているところ申し訳ないが、自分は他の事で頭がいっぱいだ。

「鈴木さんの力がもっと覚醒したらっ……!」

 無意味に光る鳥を無視して携帯を眺めていたら、四方田店長の方から電話がかかって来た。

「ちょっと鳥、静かにして。はい!もしもし!」

『久しぶり、四方田です』

 相変わらず綺麗な声。

 さらさらと流れる川のせせらぎのようだ。

 前のお店には、美人店長ファンの草食系男子がたくさん来ていた。

 だが、やはり単価が安かったし長居するしで、彼らファンの存在は、売り上げには貢献しなかったのだろう。

「四方田さん!すみません、電話してもらっちゃって!」

『いいのよ、連絡ありがとう』

 電話の向こうで、男の子の騒ぐ声が聞こえる。おばあちゃんのたしなめる声と『鳥子!ケンタの面倒見てやりなさい!』という怒り声も聞こえた。

 やっぱりどこのおばあちゃんも、孫の相手フルタイムはキツイのだろう。

 自分のおばあちゃんを思い出し、懐かしいような気持ちになる。

『鈴木さんは今何してるの』

「無職で暇です」

 母からもらった五万円が尽きる前に、何かパートの仕事を探さねばと思うのだが……。

 貯金も当てにできないし。

『そうなんだ、私もなの。じゃあ明日うちに来ない? チビがいるからさぁ、うちに来てもらったほうが楽なんだ』

「わかりました、お邪魔します!」

『ありがとう。場所はメールするから』

 また男の子が大はしゃぎする声と、店長の『静かにしなさい!』という声が聞こえる。元気そうだ。5、6才だろうか……。

「わかりました」

 明日……。

 店長の家に行くときに、お菓子を持って行こう。ダンテさんが作っていたお菓子を、見よう見まねで作る。

 もし、四方田店長が本当にダンテさんのリコさんだったら……。

「リコさんだったら……?」


 リコさんだったら、どうしよう。

 自分は、何をするのが一番いいのか。

 四方田店長は選択の誤りの結果とはいえ、こっちの世界で子供もいる。今更ダンテさんの話なんかされたら迷惑かもしれないし。

 

「…………」

 ダンテさんが、奥さんの話をする時の笑顔。

 それから、刺繍のテーブルクロスを大事にしていた姿を思い出し、しばし正座をしたまま考え込んだ。

 そもそも、異世界にまた戻れるのだろうか。それすらも良く分からない状態で、何が最善と言えるのだろう。

 ディアンさんに渡された包みを手に、しばらく考え込んだ。

 それから、そっとその布をほどく。

「…………」

 何だろう、これ……。

「食べ物ですか!鈴木さん!」

 腕に取りすがる何故か若干巨大化した鳥を振り払い、もう一度包みの中の物に目をやる。

「ちょっと黙ってて」


 包みから出てきたものを、手に取って眺めた。

 なんでこんなものを、ディアンさんは店長に渡したかったのだろう……。

 

「ねえ、鳥」

「ハイ」

「私、もう一度あっちに帰れるの?」

「…………」

 鳥が如何にも鳥っぽくクリンと首を傾げた。

「おい、鳥、聞いてんの」

「…………」

「鳥―!」

「ぐええええええ動物虐待やめてくださいぃぃぃぃぃ!」


 何をたくらんでいるんだこいつは!!!

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