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第25話:王都B級グルメツアー!

「はぁ……」

 タイゾー君が、疲れ果てたように首をトントン叩いた。


「どうすりゃ落ち着くんだよ、あの魔女は……」

 心底疲れた顔だ。

 自分もつられて落ち込んだ拍子に、お腹がグウウと鳴った……。


「…………」

「…………」

「とりあえず、何か食べにいこうか、アイツの毒気で疲れたわ、俺」

「はい……!食べましょう!」


 深々と頷く。

 ドヨンとした気分のときは、美味しいものを食べた方が良い。

 

「あのー、どこがオススメですか!」

「んー、B級グルメと高級コース、どっちがいい?」

「B級でお腹いっぱいにしましょう!」

 迷い無く、そう答えた。

 とりあえず、ジャンキーでホカホカしたものでお腹を満たし、ズズーンとなる事は後で考えたい。

「いいよーん」

 タイゾー君が手をつないでニッコリ笑った。

 

「色々あるけどさぁ、ま、あっちの世界系の、美味しーヤツ食べようか」

「ハイ!あの、手は……」

「人恋しいんだよ、繋がせてよ」

「……」

 ヤダ、イケメンと手を繋ぐのは恥ずかしい。そう思ったが、彼は手を離してくれない。

 たぶん過剰なまでに人懐っこいのだろう。

 この世界に放り出されてしまって、元の世界の人が恋しいというのも分かるし。

 恥ずかしいことに変わりはないが。

 じーっと押し黙っていると、タイゾー君が明るい声で言った。


「屋台街に行こう。お好み焼きみたいなのとか、ケバブみたいなのとか、色々あるよ〜」

「は、ハイ!」


 もう一度深々と頷いた。

 エルドラ王国のB級グルメツアー。

 何が食べられるのだろう、楽しみだ……!


***


「ううう、粉もんてなんてこんなに美味しいんでしょうねえ」

「ほれもほうおもうほ」

「食べてから喋って!」

「……ゴメン、美味しすぎてコーフンしちゃった!俺もそう思うよ!」


 元気鳥の卵をたっぷり使い、『踊り麦』と『もりもり麦』の合わせ粉をベースに、『灼熱の葉』という、何だか闘魂が燃えるようなシャックシャクの菜っ葉を刻んで入れたお好み焼きだ。

 それはそれはスパイシーで美味しいので、ひたすら夢中でがっつく。

 こんがり焼けたきつね色のお肉が貼り付いていて、甘塩っぱい赤いソースがたっぷり塗ってある。


「おいしいいい!」

 若干洋風の味わいだが、コレは美味しい。跳び上りたい。

「でしょ!でしょ!これは『ウネウネ焼き』っていうの。心躍るような味をお届けしますって書いてあるね、看板に」

「うねります!心踊ります!あー、オカワリしたい〜」


 ほっぺたを押さえた。


 だがここで満腹になるわけにはいかない。

 目の前には串焼きの屋台が控えている……。

 おいしそうなお肉と、見慣れた受容芋のほっこりした輪切りが交互に串に刺してあるケバブ風の料理が見える。

 きらきらと黄金の脂を落としながら『さあ食べて、食べて頂戴』と言わんばかりの匂いをここまで運んできているのだ。


「アレも食べます」

「……」

 モグモグと『ウネウネ焼き』を頬張っていたタイゾー君が、指でマルを作った。

 謹んでタイゾー君にご馳走になり、次の屋台に移って、いそいそと肉の串を注文する。

 まるまる一本食べたいが、実は斜め後ろの屋台の、あの丸いこんがりした揚げ物も気になるのだ。

 みんな並んで幾つも買っている。

 アレも食べたいので、一本の串を半分に分け合うする事にした。

 串焼きのお肉には、蒸かした穀物が添えてある。お肉の脂を吸って何ともまったりとしていて、かめばかむほど味が出るお米のようだ。

 そしてもちろん、メインのお肉もジューシーでおいしい。

「あ!」

「何? 菜菜ちゃん」

 いつの間にか『ちゃんづけ』で呼ばれている。

 でも、まあ、女の子に馴れ切った、リア充イケメンのする事だから自然に感じる。誰に対してもこんな感じなのだろう。

「肉一個多く食べたね、タイゾー君!」

「バレたか。そのご飯みたいなヤツあげるよ、多分からだ麦のひきわりだと思う」

「ほぉぉ……」

 肉の脂をたっぷり絡めた、ほんのりしょっぱい受容芋も頬張った。


 ダメだ、美味しすぎる。肉最高、脂最高、炭水化物最高だ。


 このからだ麦のひきわり、肉料理に最高に合う。

 その事やウネウネ焼きの具の事などを控えたいのだが、メモ帳が無いのが本当に痛い。どこかで入手できないだろうか。


「どしたの」

「あ、うん、メモ帳が欲しいなって……タイゾー君、余ったメモ帳とか持ってないかな? 良かったら譲ってくれない?」

「え? 持ってないけど、買ってあげるよ。勇者エドワードってムダにお金持ってるから。あっちにもって帰れないあぶく銭だし、気にしないで」

 そう言って、タイゾー君が立ち上がった。

 肉の皿を片付け、衣料品や雑貨の置かれた屋台に向かう。


「ねえ、これなんかいいんじゃない」

 そう言ってタイゾー君が、可愛い刺繍のされた布の張ってあるノートを手に取った。

 紺色の布に、黄色のマーガレットのような花と、緑の小さな葉っぱが表紙を縁取っている。

「可愛い」

「うん、可愛いね。コレが菜菜ちゃんのイメージだから、プレゼントさせてもらおうっと」

 そう言ってお金を払い、小さな鉛筆のような筆記具と一緒に手に乗せてくれた。

 小さいから、コレならエプロンに入りそうだ。

「ありがとう」

 嬉しくなってニコニコしていたら、タイゾー君もニコニコして自分を見ていた。

 彼のように、おそらくは皆から愛情を注がれて育ち、自分も愛情深くて、愛情を周囲に注ぎまくるお方って、ちょっと罪な気がする。


「ねー、揚げたもちもち玉食べようぜ」

 タイゾー君がそう言って、つないだ手を引っ張った。

「お、おおお……」

 油でこんがり揚げたての炭水化物のボールだ。

 これはやばい、油と炭水化物の合体製品は、すべからくダイエッター乙女の敵なのに。

「おいしそうぅぅ」

 甘くてふんわりした匂いが辺りに立ち込め、頭の芯がクラクラした。


「ドーナツだよ!ほぼドーナツ。菜菜ちゃん。中の具は食べてびっくりだから、さ、食べて食べて!」

「はい!」

 十個くらい紙袋に入ったドーナツをつかみ出し、アツアツのまま頬張った。

 なんて美味しいんだろう、お肉入りだ。

 中からひき肉の煮付けのうまみがジュワッと染み出して来る。


「ぴ、ピロシキみたいです」

「これって、闇もちもち玉って言うんだよ」

 タイゾー君が笑って、肩を抱いて屋台を覗かせてくれた。


 果実、ひき肉、餡のようなもの、野菜、色々な具を手で丸めて、おじさんが沸騰した油に放り込む。

 それから、溶いた粉を一気に油に流し込んだ。

 溶いた粉が油の中を泳ぎ、あらかじめ放り込まれたバラバラの具にクルクルと巻き付く。

 勝手に動いて、勝手に巻き付いた……。


「な、な、な」

 勝手に動く揚げ物なんて。

 いや、動く食べ物は、色々と見たことはある。

 こっちは麺ですら勝手に泳ぐのだから。


「踊り麦って加熱すると動くらしいんだよね。で、ああやって沸騰した油にぶちまけると、何故か自分の好きな具に巻き付きに行くんだ。で、放っておくと出来るのが、君が持ってる『闇もちもち玉』なの。具は分からないんだよ、食べてみないと」

「な、なるほど」


 次の『もちもち玉』を取り出し、カリモチッとした生地に歯を立てた。

 中から、ココアのような、チョコレートのような、甘ーいシロップがにじみ出て来る。

「美味しい!」


 ああ、チョコレートフォンデュみたいでコレはコレで美味しい。


「僕も食べようっと」

 タイゾー君も、嬉しそうに『闇もちもち玉』にかじりついた。


「あー、どれもコレも美味しいですね。あっちの美味しいも、こっちの美味しいも、どっちも一緒なんですねぇ」

 油物ばっかり食べていたのと、周囲に油が立ちこめているせいで、全身ギトギトになって来た。


「なんか腹一杯になって来た」

 タイゾー君がぼそりとそう言った。

 自分はまだまだイケるのだが。

 やはり、痩せている人は大食いしないのだろうか。


「あーしあわせ。美味しいもの作ったり食べたりしてるときが、一番しあわせー」

「服は?」

「え?」

 タイゾー君に唐突に言われて首を傾げた。

「俺、服の方にも興味あるんだよね。前の仕事柄かな? ちょっとつき合ってくれる?」

「はぁ」


 全く興味のない声が出た。


 自分はスニーカーと良く伸びるジーンズがあればそれで良かった……。

 今もアレンの古着があればそれで良く……。

 それよりもっと食べたいのだが……。


「菜菜ちゃん、もしかしなくても興味ないでしょ」

「いえいえ」

 無いです!とは、ご馳走になった手前言いづらく、曖昧に笑って答えた。


 そのまま、飼われている牛のように手を引かれ、名残惜しく屋台を見つめながら歩き出す。

 踊り麺も食べたかった。

 あの踊り麺はスープが赤くてトマト風を連想させるので気になるのに。

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