変化 - 宗太
寺で過ごした幼かった日々を、宗太はよく覚えている。
自分は子供の頃からずっと身体が大きく目つきも鋭い方で、年齢以上に見られる事が多い。
幼心にも、そのせいで周りからは距離を置かれていると感じていた。
だからそれを逆手に自分の存在を強調させ、周囲を従わせる事で取り巻きを作っていった。
それはとても簡単な事だった。
少し大きな声を出して口調をきつくするだけで、周りの子供たちはほいほいと自分の言うことを聞き入れて従ったのだ―――ただ一人、ひときわ小さく一人ぼっちでいた少女を除いては。
そんな事を思い出しながら、知らず苦笑した宗太の胸元で、菊が訝しげに顔を上げた。
「ああ、なんでもない。ちょっと昔の事を思い出してただけだよ」
耳元で囁くと、愛しい少女はくすぐったそうに身を捩り逃げようとする。
それを許すまいと形の良い頭に手を乗せ引き寄せては、滑らかな黒髪の感触を確かめるようにゆっくりと撫ぜる。
すると菊は急に大人しくなって瞳を閉じ、柔らかな身体でくったりと自分の胸にしなだれてくる。
それに言い知れぬ幸せを感じそっと抱き寄せると、お互いの温度を確かめるように薄紅色の頬に顔を擦り寄せては、滑らかな肌に唇をそっと押し当てた。
菊は幼い頃から夕暮れ前になると一人で森に出掛ける事があったのを、宗太は知っていた。
それと同時に孤児たちに食糧を分け与えるようになった事も。
自分たちで決めた食糧争いのルール(鬼ごっこ)で食いっぱぐれた菊が、空腹に耐えかねてどこからかくすねて来ているのではないかと最初は疑ったものだが、そもそも村全体が食糧不足なのに、幾日も人に知られず食糧を入手出来るわけがない。
菊の事はそれまで「自分の言うことを聞かない変なガキ」という認識だけだったのかもしれないが、そんな理由から尚更気になる存在になったとも言える。
そんなわけで、宗太は一人で菊の動向を探っていた。
結果、夕暮れ前に一人きりで山に出かけていく事が分かった。
山での食糧争いは菊がそれを提供してくれるおかげで、いつの間にやら廃止された。だから菊のような幼子が一人で山に入るのはどう考えてもおかしかった。
それで思い出したのだ―――山には邪な呪いをする老婆が一人ひっそり隠れ住んでいる、という噂を。
菊はその老婆の住処を捜し当てて取り入ったに違いない。
それで山の幸を分けてもらっているのだ。
でなければ、幼い菊が一人で食べ物を探せる訳がないのだから、と。
サブタイトルに誰目線の話かを追加することにしました。




